2023明治安田生命J1リーグ第27節で名古屋グランパス戦に1-0で勝利し、今季7試合を残して早くも3年連続のJ1リーグ残留を決めたアビスパ福岡。唯一にしてクラブ初、天皇杯JFA全日本サッカー選手権大会とYBCルヴァンカップ(ルヴァン杯)で準決勝に進出し、悲願のタイトル獲得を目指している。
リーグ戦では28試合31失点と堅守を強みとするチームにおいて、GK永石拓海と出場機会を分け合い、リーグ戦は17試合、カップ戦では4試合に出場しているGK村上昌謙に注目したい。J1で5,400分(フルタイム出場で60試合)以上に出場している歴代GKの中で、現在3位となる防御率を記録する村上が残す数字を見ると、タイトル獲得はより現実的なものに感じられるはずだ。
ここでは、J1の歴代GK防御率ランキングとタイトル獲得との関係性について検証し、村上の成績やチーム貢献度について紹介しよう。

防御率ランキングとタイトル獲得の関係
Jリーグ公式サイト発表の歴代GK防御率ランキング、上位5人の成績を見てみよう(出場時間:5,400分以上)
- 1位:ヴァン・ズワム(防御率0.89、出場時間6,709分、失点数66)
- 2位:チョン・ソンリョン(防御率0.98、出場時間20,846分、失点数227)
- 3位:村上昌謙(防御率1.00、出場時間7,284分、失点数81)
- 4位:榎本哲也(防御率1.02、出場時間21,207分、失点数240)
- 4位タイ:大迫敬介(防御率1.02、出場時間11,430分、失点数129)
このように、上位5人の成績は比較的拮抗している。1位は2000年6月から2003年9月までジュビロ磐田でプレーしたヴァン・ズワム。2位は2016年から現在まで川崎フロンターレに所属するチョン・ソンリョン。次いで3位が2020年からアビスパ福岡に在籍する村上昌謙。4位は2人で、2002年から2016年まで横浜F・マリノス、2017年からの2年間は浦和レッズに所属した榎本哲也と、2018年から現在までサンフレッチェ広島でプレーする大迫敬介。ここまでが防御率1.00前後の成績を残している選手となる。
実は、村上を除いた4人には共通点がある。それは、3大タイトル(J1リーグ、天皇杯、ルヴァン杯)のいずれかを獲得している点だ。
ヴァン・ズワムは磐田時代、当時2ステージ制だったJリーグで2001年に1stステージ優勝、翌2002年は1stステージ、2ndステージ共に制し完全優勝を達成。チョン・ソンリョンが所属する川崎は、2017年、2018年、2020年、2021年にJ1リーグで優勝しており、2019年にはルヴァン杯、2020年には天皇杯のタイトルも獲得している。
榎本哲也も横浜FM所属時の2003年、2ステージ制だったJ1リーグの1stステージ、2ndステージともに制し完全優勝を達成。2004年は1stステージで優勝、2ndステージは6位の成績ながらトップの浦和にチャンピオンシップで勝利し、年間優勝を達成した。2013年にも天皇杯を制覇。また、榎本自身の出場機会は限られたものの、浦和レッズ所属時も2018年に天皇杯を制している。広島に所属の大迫敬介も、2022年にルヴァン杯で優勝を飾っている。
防御率が低いということは失点が少なく、優れた成績に繋がりやすいことは間違いないものの、J1での出場時間が昨年5,400分を超えたばかりの村上以外、全員がタイトルを獲得しているというのは、今季タイトルを狙う福岡にとって自信の付くデータではないだろうか。

数字でみる村上の成長
村上と正GKの座を争う永石の防御率も約1.2と優れていることから、福岡の守備自体が固いことが分かる。ただ、昨2022シーズンと今2023シーズンの数字を比較し深掘りすると村上の成長が見えてくる。最も優れているのはペナルティエリア外からのシュートセーブ率。2022シーズンは80%だったが、今季はなんと驚異の100%。つまり、1点も許していないのだ。無論、これはリーグトップの成績である。
その他、ペナルティエリア内からのシュートに対してのセーブ率は58.1%から61.5%へと上昇。
また、相手と1対1になった局面での対応も成長している。直近のJ1第28節(9月23日)柏レイソル戦(3-1)では、前半12分に柏のMF山田雄士のシュートを右手一本でセーブし、後半アディショナルタイム8分にはFW細谷真大との1対1を素早い飛び出しで制した。この試合ではコーナーキックから1失点したものの、屈強かつ身体を張るDF陣を突破されても村上が安定したセービングで死守し続け、流れの中からの失点は最後まで許さなかった。

見逃せないピッチ外での貢献
前述のようにGK永石と出場時間を分け合っている村上は、ベンチに座っている時間も決して短くない。永石が積極的に起用されるカップ戦ではとりわけ長くなるため、出場時間を求める村上にとって悔しさがないわけではないだろう。
それでも村上は、ピッチ外からもチームに貢献できることを示し続けてきた。ベンチに座る他の誰よりも大きな声を仲間へ送り、得点時や勝利後には全力で祝福する。夏場の飲水タイムには全員が1か所に集まって言葉を掛け合ったり、試合の行方がどちらに転ぶか分からない局面ではベンチメンバーがピッチの選手たちを鼓舞するなど、チーム一丸となった姿は福岡の強さを表す一面でもあるが、その中心にはいつも村上がいる。
リーグ戦では現在8位の福岡だが、上位までの勝ち点は僅差で迫っており、天皇杯とルヴァン杯でもベスト4といずれも優勝の可能性を残している。村上が築いてきた数字と同等の記録を残す名GK達のキャリアを見ても、福岡にとって悲願のタイトル獲得がより現実味を帯びてきたと言えるのではないだろうか。