近年、海外移籍を選択する選手が大幅に増加している。日本代表選手のほとんどが海外チームの所属である。
国内で名DFと目されていた丹羽が憧れの地スペインへと渡ったのは2021年。当時スペイン4部相当だったセスタオ・リーベル・クルブで存在感を示す活躍をみせ、昨2022/23シーズンにはチームのリーグ優勝にも貢献。セスタオは7年ぶりに3部復帰を果たした。
現在、2023年7月に移籍したアレナス・クルブ・デ・ゲチョ(スペイン4部)でプレーする丹羽。独占インタビュー前編では、移籍に対する思いや考え方、新天地でチームの一員になるための心構えなどについて語っている。この後編では、自分自身と向き合うことの重要性や今後の目標、若い選手へのアドバイスなどを紹介する。
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コロナ禍での新たな発見
「(J1からスペイン4部への移籍時)お金のギャップは物凄くありました。ギャップしかないです。お金を求めるなら間違いなく日本に残ってJリーグでやった方が良かったです。だけど、僕自身はお金ではなく自分の成長ややりがいを感じられ、ワクワクする方を選びたかった。
僕も若い頃は、自分が自分がと思っていました。でも、コロナ禍でサッカーができなかった時期に、自分の幸せとは何かをずっと考えて出た答えがありました。自分と携わってくれた方が喜んでくれたり、自分と知り合った方が笑顔になったり、自分の存在によって知り合った方同士が幸せになったりするのを見ることが幸せなんです。サッカー選手としては、自分のプレーを見て幸せになってもらったり、自分のプレーで笑顔になってもらったり、自分のプレーで生きがいを感じてくれたり、自分との会話で人生が変わったりする瞬間を見られた時に1番幸福感を感じられます。それは自分の中での新たな発見でした。
ただし、そういう生き方をするには自分自身が楽しまないといけないし、輝いていないといけないし、常にポジティブでワクワクしていないといけません。だからまずは自分磨きをして、そして携わってくれる人や知り合いになった方がさらに幸せになってくれれば、そんな良いことはありません」

自分と向き合う大切な時間
「僕は、自分自身と向き合う時間を凄く大事にしています。今はインターネットが発展して、分からないことがあればiPhoneやiPad、パソコン1つで情報が得られる時代です。
今の問題点は何があるのか、今日の練習では何ができて何ができなかったのか、言葉の問題で何が言えなかったのかなど、1人で自分自身と向き合って毎日小さな問題を解決しています。いきなり大きな問題を解決することはできないけれど、小さな問題を少しずつ解決すると大きな問題になりません。だから、日々の小さな問題をインターネットやSNS、人の力は極力使わずにどうやったら解決できるかを考えています。多分、インターネット上にも同じような答えは書かれています。例えば何かに悩んだ時に検索すれば『悩んだ時の考え方』とか『悩んだ時の解決方法』とか出てくると思います。
でも、答えが自分に当てはまればいいけれど、おそらく書かれているのは書いた方に当てはまることです。自分自身には響かないことを勘違いして取り入れて、本当は問題を解決できていないことが多いのでは、と思っています。インターネットが悪いのではなく、上手く活用しながら最終的な問題解決や決断は自分自身のハートに問うことが大切です。
移籍の決断もそうです。いろいろな人に相談したり聞いたりするのはいいと思います。
一見同じような失敗でも、自分で決断した失敗は次へつながるんですけど、自分以外の人によって決断したものは次につながらない失敗になってしまう。僕は『悩む』ではなくて『考える』とよく言うんですけど、自問自答する作業を毎日やっています。ただ、若い頃から自問自答していたわけではなく、年齢を重ねるとともに徐々に今みたいな考え方になりました。だからこそ、若い選手に1年でも早くそういうマインドや考え方を知ってもらえれば、変化できてより成長スピードを上げられるはず。情報社会だからこそ、1人になったり携帯やパソコンを一切触らない時間を作ったりするのは大切だと思います」

プレーヤーとして、とことん上を目指したい
「(今後は)このサッカー大国のスペインで、プレーヤーとしてとことん上を目指したい。自問自答したものをまとめるとそこに至ります。セカンドキャリアのことなどいろいろ考えないといけない年齢に差し掛かっているのは間違いないんですけど、優先順位の1番目は絶対に捨てたらダメ。現役が終わった後のことを第一に考えてしまいプレーヤーとしての部分が第二第三になるのは、プロとして違います。プロサッカー選手としてとことん上のカテゴリーを目指してやることを念頭に置きながら、その次に例えば『スペインから日本の子どもたちに何かできないかな』『将来良い環境を提供できないかな』などと考えてもいます。
スペインに来てからは怪我もなく、パフォーマンスも自分の感覚的には上がっているので、まだまだできるんじゃないかなという気持ちでいます。
35歳から海外に来た日本人選手は多分僕だけだと思うので、日本の若い選手や同年代の選手、いろいろな世代の方に、自分の活躍やもう1回這い上がる姿を、年齢に関係なくプレーヤーとして勝負できるんだよというのを見てもらいたい。自分自身にとって大きなトライですし未来は分からないですけど、そういう意識でやっていきます。『そうは言っても』と人間は思ってしまうし、歳を考えがちな年齢なので、本気で這い上がりたいと思えるかが凄く大切です。
今シーズンはスペインで3年目ですけど、日本でプロ3年目、21歳ぐらいの時にセカンドキャリアのことは絶対考えません。もしプロ3年目でスペインに来たとして、日本の子どもたちとスペインで何かやろうとは考えません。プレーヤーとしてとことん上を目指すぞと思っていたはずです。今、本気でそう思えるかが大切です。経験が邪魔する部分と経験が成長させてくれる部分は両方あるので、経験が邪魔している部分は捨てて、成長させてくれる部分だけにフォーカスしてやっていこうと考えています」

良い環境を作れるかは自分次第
「スペインに来て感じるのは『与えられる環境はない』ということ。もちろん他人から良い環境を与えてもらえれば最高ですけど、ほぼありません。自分自身で良い環境を作るために選択していくことが大切です。
例えば、僕がいるカテゴリーで、ラ・リーガのようにトレーニングジムに凄く良い機械を付けてもらったりプールを付けてもらったりすることは絶対に無理です。でも、この環境で何ができるかを考えたら、自分でスポーツジムの会員になったり、プールにお金を払って通ったりすることはできます。自主練したいんだったら近くにグラウンドがあるところに家を借りて、練習が終わったあとに自主練をしに行くことはできます。今の環境を言い訳にせず、良い環境は自分自身で作ってください、全部自分自身が選んだ環境でしょと言いたいです。自分で良い環境を作ることで、目標とするサッカー選手像や目標とするプレーに少しでも近づけるはずです。
これは、多分サッカー選手に限りません。生活する上でも同じで、自分自身で環境を選ぶことが大切です。
37歳となった現在も若い頃と変わらずスペインの地で常に上を目指している丹羽大輝。「プロフェッショナル」を体現する彼の旅路に今後も注目したい。