2023明治安田生命J1リーグ第33節の計9試合が、11月24日と25日に各地で行われた。湘南ベルマーレは25日、敵地のニッパツ三ツ沢球技場で同リーグ最下位の横浜FCと対戦。
今節の勝利により、湘南は2023年のJ1リーグを17位以上で終えることに。J2リーグ降格圏にあたる、最下位(18位)横浜FCとの勝ち点差も5に開いたことで、最終節を前にJ1残留が確定した。
一方、シーズン最終盤に辛うじてJ1残留を勝ち取ったものの、湘南は第33節消化時点で8勝10分け15敗の15位と低迷。クラブ自ら掲げた、リーグ戦5位以内フィニッシュという目標を達成できなかった。
今2023シーズンの湘南の低迷の原因は何か。ここでは同クラブの今年の戦いぶりを検証しながら、この点を中心に論評する。

遅かった攻撃配置の改善
特に低調だったのが、第7節FC東京戦から第26節鹿島アントラーズ戦のリーグ戦計20試合。湘南は第7節から第21節(アビスパ福岡戦)の15試合で5分け10敗と、1勝も挙げられず。第22節サンフレッチェ広島戦では1-0の勝利を収めたものの、第23節アルビレックス新潟戦以降の4試合で2分け2敗と、白星を飾れない日々へ逆戻り。この時点でJ1残留が同クラブの現実的な目標となった。
湘南が長く勝利から遠ざかってしまった原因は、GKや最終ラインからのパス回し(ビルドアップ)の際の、選手配置の悪さにある。
昨2022シーズンと同じく、湘南は[3-1-4-2]の布陣をベースに各試合に臨んだが、ビルドアップの際に両ウイングバックが自陣後方のタッチライン際や、味方センターバックとほぼ横並びの位置でボールを受けてしまうケースがしばしば。
ウイングバックがこの位置でボールを受けても、自身の傍にはタッチラインがあるため、左右どちらかのパスコースが必然的に消える。また、相手チームのサイドハーフ(ウイングバック)やウイングFWのプレスをもろに浴びる立ち位置のため、ボールを失う確率も上がるのだが、湘南はこの悪い攻撃配置の改善に長い期間を要した。

第19節横浜FM戦で突かれた弱点
先述の湘南の悪癖が失点に直結したのが、1-4で敗れた第19節横浜F・マリノス戦の2失点目の場面だ。
ここでは湘南のMF中野嘉大(左ウイングバック)が自陣後方の大外のレーンでボールを保持したことで、横浜FMのDF松原健のプレスをもろに浴びてしまっている。縦へのパスコースを塞がれた中野は味方GKソン・ボムグンへのバックパスを選んだものの、この時点で横浜FM陣営にパスコースを消されており、湘南のビルドアップは窮屈に。GKソンは味方DF杉岡大暉(センターバック)にボールを渡そうとしたが、この横パスを相手FWヤン・マテウスに奪われ、FWアンデルソン・ロペスのゴールに繋げられてしまった。
センターバックの杉岡とウイングバックの中野が、ビルドアップの際に大外のレーンで共存してしまったことも、横浜FMのハイプレスの餌食となった原因と言える。湘南の今季の低迷の原因が浮き彫りとなった場面だった。
選手個々の技術力が高ければ、攻撃配置が雑でも相手チームのプレスを回避でき、ビルドアップも成立する。だが、2023シーズンのJ1リーグを見た限り、相手チームのプレスに対する湘南の選手たちの耐性は低く、選手個々の技術力で他クラブを上回っていたとは言い難い。GKや最終ラインから丁寧にパスを回そうとしているわりには、そのための配置が整っていない場面や試合が多かった。ビルドアップ時の選手配置を今季以上に突き詰めなければ、湘南は2024シーズンも残留争いに巻き込まれてしまうだろう。

鈍かった相手の隊形変化への対応
2023シーズンのJ1リーグ33試合消化時点で、55失点。2022シーズンの失点数が39という事実を踏まえると、今季の湘南の守備は脆弱だったと言わざるを得ない。特に相手の隊形変化に弱く、ゆえに湘南の前線からの守備(ハイプレス)が通用しない試合があった。
第12節浦和レッズ戦では、基本布陣[4-2-3-1]の相手DF酒井宏樹(右サイドバック)がタッチライン際から内側に絞ってビルドアップに関わったことで、同選手への湘南のマークが曖昧に。第19節横浜FM戦でも、相手の右サイドバック松原が同様の立ち方でビルドアップに関わり、湘南に守備の的を絞らせなかった。

第20節柏レイソル戦では、基本布陣[4-2-3-1]の相手MF椎橋慧也が古賀太陽とジエゴの両DF間(センターバックとサイドバックの間)へ降り、ビルドアップを司る。同選手へのプレスが遅れたことで、湘南は前半27分に先制ゴールを奪われている(得点者はFW細谷真大)。自陣ゴール前での守備以前に、相手の隊形変化に即したプレスのかけ方をチーム内で共有しきれていなかった。

札幌戦以降の復調の要因は
湘南にとって風向きが変わったのが、1-0で勝利した第27節北海道コンサドーレ札幌戦以降。ビルドアップ時にウイングバックが低い位置をとってしまい、相手のプレスの餌食となる現象は、この試合から減った。
センターバックからウイングバックへのリスキーなパスが減り、試合の主導権をやすやすと相手に渡さなくなった湘南は復調。第28節川崎フロンターレ戦では0-2の黒星を喫したものの、第29節セレッソ大阪戦以降の5試合で4勝1分けと健闘した。

降格危機のなかで気を吐いた選手は
鹿島からの期限付き移籍で加入したDFキム・ミンテ、KVコルトレイク(ベルギー)への期限付き移籍から復帰したMF田中聡の奮闘も、湘南の浮上の原動力に。今夏に同クラブに加わったこの2人が持ち前の対人守備力を発揮し、J1残留に貢献している。
第33節終了時点で13ゴールと、入団5年目にしてキャリアハイの得点数を叩き出しているFW大橋祐紀、今季最終盤に好セーブを連発したGK富居大樹、第27節札幌戦での的確なポジショニングで味方のパス回しを助けたGK馬渡洋樹にも敢闘賞を贈りたい。効果的な戦術修正がなかなか施されないなかで、彼らの奮闘が最終的に物を言った。
昨シーズンの湘南の勝ち点は41。今シーズンは最終節を前に34に留まっているため、昨シーズンの勝ち点を下回ることが確定している。失点数が昨年の39から今年は55にまで膨れ上がっていることも踏まえると、湘南のチームとしての完成度は落ちたと論評せざるを得ない。戦術の不備の修正が大幅に遅れたことで、長く勝利から遠ざかってしまった点については、チーム全体で省みる必要があるだろう。