2023/24シーズンの日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)第18節計6試合が、5月2日と3日に各地で行われた。同リーグ首位の三菱重工浦和レッズレディースは3日、本拠地浦和駒場スタジアムにてセレッソ大阪ヤンマーレディースと対戦。
最終スコア2-0で勝利し、2位INAC神戸レオネッサとの勝ち点差7を維持している。

C大阪の戦い方に苦慮しながら勝利できた要因は何か。ここでは浦和の第18節の戦いぶりを振り返るとともに、同クラブを率いる楠瀬直木監督の試合後コメントを紹介。そのうえで同クラブFW島田芽依のプレーに焦点を当て、同選手がチームに与えた好影響に言及する。

劣勢の浦和Lを救った島田芽依。フィルミーノを彷彿とさせるパスレシーブとは

C大阪の[3-1-4-2]が威力を発揮

この試合でC大阪は従来の4バックではなく、[3-1-4-2](自陣撤退時[5-3-2])の基本布陣で浦和に対抗。これにより[4-2-3-1]の守備隊形からハイプレスを仕掛けようとした浦和は一時混乱に陥った。

「(戦前に)3バックを予想していなかったです。
試合中に気づいて、いち早く修正しないといけませんでしたが、それがうまくできませんでしたね。自分たちの距離感が開いてきたときに、サイドに出させよう(中央を封鎖し、相手のパス回しをサイドへ追いやろう)と声をかけていたのですが、途中で(自分たちの守備隊形に)コンパクトさが無くなってしまいました」浦和MF栗島朱里は試合後の囲み取材でこう述懐している。

このコメントの通り、キックオフ直後は浦和の最前線、中盤、最終ラインの3列が間延びしていたほか、各選手のプレスのかけ始めのタイミングがワンテンポずつ遅れる場面がちらほら。ゆえに浦和はC大阪からボールを奪いきれない時間帯が続いた。

この最たる例が、浦和が大ピンチに陥った前半8分の場面。ここでは最前線の島田とMF塩越柚歩、及びMF伊藤美紀の計3人でC大阪の最終ラインにプレスをかけたものの、左サイドハーフ伊藤も飛び出す形だったため、栗島とMF柴田華絵の2ボランチが広範囲をカバーしなければならない状況に。
ぽっかりと空いた2ボランチの周辺をC大阪陣営に使われたうえ、アウェイチームFW田中智子に最終ラインの背後を突かれている。田中のシュートがクロスバーに当たり浦和は事なきを得たが、失点していてもおかしくない場面だった。

また、浦和は自陣後方からのパス回しの際に、栗島と柴田が相手MF高和芹夏や宮本光梨らのマークに遭う。ゆえに直近のリーグ戦と比べ、栗島と柴田の2ボランチによるチャンスメーク回数が減った。

劣勢の浦和Lを救った島田芽依。フィルミーノを彷彿とさせるパスレシーブとは

島田の好プレーとは

なかなか攻撃の起点を作れない浦和において気を吐いたのが、最前線(1トップ)の島田だった。

かねてより密集地帯でのパスレシーブが得意で、相手最終ラインと中盤の間でボールを捌くことを厭わない同選手は、前半34分にここへ立つ。味方MF塩越のヘディングパスを受け取ると、右サイドを駆け上がったFW清家貴子へすかさずパスを送った。


島田のパスに反応し、相手最終ラインの背後を突いた清家のシュートはアウェイチームGK山下莉奈の好セーブに阻まれるも、浦和はこの攻撃でコーナーキックを獲得する。前半35分の塩越のコーナーキックに島田がヘディングで合わせ、このシュートがゴールマウスに吸い込まれた。

劣勢の浦和Lを救った島田芽依。フィルミーノを彷彿とさせるパスレシーブとは

楠瀬監督「ご褒美が巡ってきた」

島田の先制ゴールにより落ち着きを取り戻した浦和は、後半もC大阪の速攻を浴びるも、石川璃音と岡村來佳の両DF(2センターバック)による懸命なカバーリングが実を結び無失点で切り抜ける。試合終盤にはMF遠藤優(右サイドバック)が敵陣ペナルティエリアでのドリブルからPKを獲得。清家がキッカーを務め、後半42分にこのチャンスを物にした。

浦和を率いる楠瀬監督はこの試合終了後の会見で、筆者の質問に回答。攻撃時の島田のポジショニングや、味方からのパスを引き出す動きなどを称えている。


ーお伺いしたいのは、島田選手に対する監督の評価です。この試合で浦和を救ったのは島田選手だと、私は感じています。先制ゴールが決まるコーナーキックの直前、清家選手に決定機が訪れましたが(前半34分)、このチャンスは相手最終ラインと中盤の間でボールを捌いた島田選手から生まれたものでしたね。これは島田選手が以前から取り組んできたプレーであり、その成果がこの試合でも表れたと思います。サイドに流れて攻撃の起点を作る動きも良かったですね。監督はどのように感じていらっしゃいますか。


「個の力では(チームメートのFW)菅澤優衣香ほどではないですし、清家ほどの身体能力や決定力があるわけではない。なでしこジャパン(日本女子代表)に割って入ることを考えると、もうひとつ自分らしいところ(武器)を作っていかなければなりませんが、今は彼女なりに藻掻きながらオフ・ザ・ボール(ボールが無いところでの動き出し)の部分、相手を撹乱する動きでチャンスを作ってくれています」

「個の力や身体能力に関してはこれから鍛えていきますし、こうした部分を今一緒に研究中です。(島田自身も)色々なことにアンテナをはり出してくれていますし、面白い動きをしてくれているんですよね。そこ(密集地帯でのパスレシーブやチャンスメーク)を見てくれる人たちもいます。こうした動きを続けていれば(得点という)ご褒美がある。今日はそれが(島田に)巡ってきたのかなと。
島田には引き続き、こうした部分を伸ばしてもらいたいです」

劣勢の浦和Lを救った島田芽依。フィルミーノを彷彿とさせるパスレシーブとは

まるでフィルミーノのようなチャンスメーク

2023/24シーズンのWEリーグで既に9ゴールを挙げており、得点ランキングでも2位につけている島田。同ランキング首位の清家(現16ゴール)の影に隠れがちだが、今節のように要所で発揮される決定力は同選手の魅力のひとつだ。

相手ボランチやサイドハーフの背後(死角)から突如現れ、先述の通り相手最終ラインと中盤の間でチャンスメークできるのも島田の特長。このプレースタイルは2022/23シーズンまでリバプールに在籍し、イングランド・プレミアリーグやUEFAチャンピオンズリーグ優勝を成し遂げたFWロベルト・フィルミーノ(現アル・アハリ所属)を彷彿とさせる。

4月14日のWEリーグ第14節(ノジマステラ神奈川相模原戦)でも、島田のこのプレーで相手の守備ブロックが崩れ、これにより塩越の先制ゴールが生まれた。着実に成長しているこの21歳FWが、今後も浦和の敵陣ゴール前でのパスワークにアクセントを加えるだろう。