世界最高のサッカー選手と評されるロナウドは、史上初となるFIFAワールドカップ(W杯)5大会連続(2006、2010、2014、2018、2022)ゴールという金字塔を打ちたて、欧州三大リーグ(イングランド、スペイン、イタリア)で優勝を経験した史上初の選手であり、またその全てで最優秀選手賞と得点王を獲得。
現在39歳のロナウドは、2023年にマンチェスター・ユナイテッド(イングランド1部)からアル・ナスルへ移籍。初年度からリーグ戦31試合出場で35ゴール11アシストという驚異的な数字を記録し、サウジ・プロフェッショナルリーグの史上最多得点で得点王に輝いた。
揺るぎない勝利への渇望やエリートなメンタリティには疑いの余地はないが、そのエゴの大きさを否定できないのも事実だ。ロナウドの長いキャリアの中では、何度も監督との意見の相違から問題が表面化している。そんな偉大なスーパースターであるロナウドが衝突した5人の監督を紹介したい。

エリック・テン・ハフ監督(マンチェスター・ユナイテッド)
2022年より、マンチェスター・ユナイテッドの指揮官を務めているエリック・テン・ハフ監督。2017年から2022年まではオランダ1部エールディヴィジに所属するアヤックス・アムステルダムの監督を務め、3回(2018/19、2020/21、2021/22)のリーグ優勝をチームにもたらした。2018/2019シーズンには、アヤックスをUEFAチャンピオンズリーグ(CL)ベスト4進出に導いた功績が認められ、2019年度FIFA「ザ・ベスト」賞の男子年間最優秀監督部門の10人の候補の1人にノミネートされている。2022年後半、ロナウドはイギリスのジャーナリストであるピアーズ・モーガン氏とのインタビューで、ユナイテッドでの2度目の在籍時(2021-2022)の生活について辛辣な発言をした。その中で、2022年現地10月19日トッテナム・ホットスパー戦でロナウドをベンチスタートさせたテン・ハフ監督にも批判の矛先を向けた。
同試合で監督がロナウドを交代で出場させようとした際、彼は出場を拒否し、大きなニュースとなっている。ロナウドはその年の11月に「彼(テン・ハフ監督)には尊敬の念がない。
ユナイテッドを退団した後も、2024年に元ユナイテッドのDFリオ・ファーディナンド氏(2015年引退)とのインタビューで再びテン・ハフ監督を批判したロナウド。「ユナイテッドの監督が『プレミアリーグやCLを勝ちとることができない』なんて言うべきではない」と発言した。

ラルフ・ラングニック監督(オーストリア代表)
テン・ハフ監督だけでなく、ロナウドは2022年にモーガン氏とのインタビューで、ラルフ・ラングニック監督についても批判した。「監督でもない人が、どうやってユナイテッドの指揮をとるのか? 彼のことなんて聞いたこともなかった」と、ユナイテッドの暫定監督を務めたラングニック監督に対して強い不満を示した。ラングニックは2021年にオーレ・グンナー・スールシャール監督の解任後、暫定的にユナイテッドの指揮を執ったが、ロナウドとの関係は当初から緊張していたようだ。原因の1つはラングニック監督の「ゲーゲンプレス」とよばれる高いプレッシングを重視する戦術だった。このスタイルは運動量が求められるため、ロナウドには必ずしも適合しなかったと考えられていた。
さらに、ラングニック監督に対するロナウドの疑念も関係を悪化させた。ロナウドは、ラングニック監督がビッグクラブでの実績が少ないことに不満を抱いており、これが「監督でもない」という批判につながったと見られている。
2023年にはドイツの日刊紙『BILD』が、ロナウドがラングニック監督に対して「5試合中4試合はスタメンで出場し、残りの1試合はベンチではなく自宅で完全に休養したい」と要求したことを報じた。パフォーマンスに対する自信や、ベンチに座ることがロナウドのプライドに反するという意識に基づいたものだと推測された。
これらの要因が重なり、ロナウドとラングニック監督の関係は険悪なものになったとされている。

フェルナンド・サントス監督(ベシクタシュ)
ポルトガル代表でフェルナンド・サントス監督は8年間(2014-2022)ロナウドのエゴを上手く扱い、ユーロ2016やネーションズリーグ2018/19を制した。しかし、2人の関係は2022年のW杯で悪化。サントス監督はグループリーグの最終戦対韓国戦(1-2敗戦)でロナウドを途中交代させ、ベスト16の対スイス戦(6-1)では彼をベンチに置き、準々決勝の対モロッコ戦(0-1)に敗れて大会を去った。
当時、サントス監督の戦術的な意図は明確で、ポルトガル代表には若手の台頭やロナウド以外のオプションを積極的に活用する必要性が高まっていた。ロナウドがポルトガル代表の全盛期のパフォーマンスを発揮していないという点が、彼をベンチに置いた判断の背景にあったようだ。
サントス監督は2023年に「私は戦術的な理由で決断を下した。彼が最高の選手であることに変わりはないが、あの時は非常に難しい状況だった」と後に説明している。

アンドレア・ピルロ監督(サンプドリア)
アンドレア・ピルロ監督は、イタリア1部のユベントスというビッククラブで初めてトップチームの監督を務めた際(2020-2021)ロナウドとの関係に苦労していたが、それを軽視しようとしてきた。2021年2月2日のコッパ・イタリア準決勝ファーストレグ、ユベントスがインテルに2-1で勝利した試合で、ロナウドは2ゴールを挙げハットトリックを狙っていたが、76分に途中交代となった。ロナウドのコンディションとチームの利益を考慮した決断だったが、ロナウドは交代に対して明らかに不満を示し、ピッチを去る際に頭を振るなど、不機嫌そうな態度を見せた。
試合後の会見でピルロ監督はロナウドについて問われ「今日のような試合で休息をとらせるのは普通のこと。彼は自分が試合に出続けるべきだと考えているだろうが、常にトップでいるためには休まなければならないことも知っているはずさ」とコメントした。
その後、2023年のインタビュー時にもピルロ監督は「ロナウドとの間に問題はなかったが、サッカーは急速に変わる。年齢も同じだ」と述べた。

ジョゼ・モウリーニョ監督(フェネルバフチェ)
サッカー界で最も大きなエゴを持つ2人が、おそらく最も伝統と激しさを誇るクラブ、レアル・マドリード(スペイン1部)で衝突しない方がむしろ不自然だろう。ロナウドがマドリードに在籍(2009-2018)中の2010年から2013にかけてをジョゼ・モウリーニョ監督が率いた。まず、2010/11シーズンのCL準決勝で、モウリーニョ監督がバルセロナ(スペイン1部)相手に守備的な戦術を採用し、試合に敗れたことにロナウドが不満を抱いた。ロナウドは「この戦術は好きではないが、従わなければならない」と発言し、その結果、次のリーグ戦で先発から外されている。
2012/13シーズンには、ラ・リーガのタイトルをバルセロナに奪われたことで2人の関係はさらに悪化。ロナウドは試合でゴールを決めた後も喜びを見せず、チーム全体が「悲しい」状態にあるとコメントした。この発言もモウリーニョ監督との溝を深める一因となった。
さらに、2013年1月のコパ・デル・レイで、ロナウドが守備に戻らなかったことにモウリーニョ監督が激怒し、2人は衝突した。ロナウドは「これまで君のためにやってきたことがすべて無駄だったのか?」と反論し、殴り合い寸前にまでなったと報じられている。
最終的に、同年5月にロナウドが試合でゴールを決めた後、モウリーニョ監督に向かって暴言を吐き、「俺はここにいる」とピッチ上で自身の価値を示す行動をとった。この一連の出来事を通じて、当時2人の関係は決裂に向かっていった。
しかし2024年2月、モウリーニョ監督はYouTubeチャンネル『FIVE』でロナウドについて「たとえ5-0で勝っていて休むように言っても、彼は『いや、いや、もう1点取れる!』と言うんだ。