レビュー

同じような経験をしても、日によって楽しく感じたり、反対にイライラしてしまったりすることはないだろうか。些細なことでその時々の気分が左右され、受け取り方が異なってしまうものだ。

それだけでなく、理由もわからずに漠然とした不安に苛まれたり、ストレスを感じ続けてしまったりすることもあるだろう。
人間は、自分の意志で思い通りに行動しているように思っていても、実際には脳の状態によって気分や行動が左右されてしまう。不安にとらわれていると途端に上手くいかなくなることもある。しかし、本書では、脳が不安などのネガティブな感情を抱くのも、人間の生存確率を高めるためであったかもしれないと述べられている。
どんなときでも、清く正しく生きられるわけではなく、ときには誘惑に溺れ、欲望を求め、他者とぶつかってしまうこともあるのが人間だ。著者は、そんな人間の不完全さを否定するのではなく、かといって積極的に肯定するのでもなく、人間の様々な側面を脳の機能がもたらす出来事として、受け入れていく。
結局のところ、人間の良いところも悪いところも、あるいは、そもそも善悪の基準も、脳の機能から説明できるのかもしれない。本格的に神経科学の観点から脳機能について説明しようとすると、学術的な用語や概念に基づく必要が生じるが、本書では難解な話をされることはない。しかし、言葉の端々に眠る著者の真意を知るには知的探究心が不可欠だ。その刺激を楽しんでいただきたい。

本書の要点

・ヒトは誰もが承認欲求を持っているが、それは他者に認められ、理解してもらうことで快感を得る脳の機能であり、社会生活への適応を促進するためのものだ。
・脳の前頭前野には、良心や倫理の感覚を司っているとされる領域があり、倫理的に正しい行動をすると快楽が得られるようになっている。

「正義の制裁」を加えると快楽物質のドーパミンが放出され、正義に溺れた中毒状態になってしまう。
・人間の脳は安全よりも不安に惹かれるところがある。ヒトが情報を集めて不安に備え、対処することで生存してきたためだ。不安がないほうが生きやすいかもしれないが、それは人間の特徴でもある。



フライヤーでは、話題のビジネス・リベラルアーツの書籍を中心に毎日1冊、10分で読める要約を提供(年間365冊)しています。既に2,100タイトル以上の要約を公開中です。exciteニュースでは、「要約」の前の「レビュー」部分を掲載しています。

編集部おすすめ