レビュー
「楽天」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。ECモール、クレジットカード、プロ野球チーム――実に多角的なポートフォリオを持つ企業といえるだろう。
イーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグ、スティーブ・ジョブズなど、巨大IT企業のトップには、その功績をたたえる声の方が多い。しかし、巨大な企業群のトップに君臨する三木谷浩史氏に対しては、否定的な声を聞くことが多いように感じるのは、なぜなのか。
その答えの1つが本書にある。著者は三木谷氏を、日本社会や企業から失われた野心を持つ存在として「海賊」にたとえる。海賊といえば、どことなく野蛮なイメージとともに魅力もある。今や成熟社会となった日本から失われているのが、挑戦や野心だ。「なぜ、日本からGAFAが生まれないのか」という言説を目にするが、私たちが保守的になりすぎたからという一面もあるだろう。そうした社会の空気に対して、三木谷氏は異彩を放つほどエネルギッシュに挑戦を続けている。かつて日本で変革を起こしてきた起業家たちは、まさにそうした「海賊」だった。
著者は、緻密な取材により、三木谷氏による数々の功績とともに、楽天グループをここまで支えてきた豊富な人材の活躍ぶりをもあぶり出している。三木谷氏の評伝としても、楽天グループの歴史を追う意味でも、実に興味深い一冊だ。はたして「海賊」は「英雄」になれるのだろうか?
本書の要点
・気骨をもった経営者が減る中、事業家としてあり続ける三木谷氏は、今や「最後の海賊」とも呼べる。
・楽天モバイルが成し遂げた大偉業が、通信の完全仮想化である。日本では同社の赤字が注目され「経営不振」といわれるが、国外のカンファレンスでは高い評価を受けている。
・仮想化の立役者が、インドの通信会社から引き抜いたタレック・アミン氏だ。
・三木谷氏は「がん撲滅」の挑戦を続けている。父の罹患をきっかけに世界を駆け回り、私財を投資してきた。
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