レビュー

「タイパ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「タイムパフォーマンス」の略で、字義通りには「かけた時間に対してどのような効果が得られるか」を意味する。

もちろん単に時間を短縮して節約するときにも使われる言葉なのだが、話題になるのはコンテンツ消費の文脈においてであることが多い。映画を観る時間を節約するために配信の早送りをする。ネタバレを見てから映画館に出かけていく。あるいはもはや本編は観ず、内容をまとめた動画を観てよしとする――こうした行動がZ世代を中心として広がっており、なじみのない世代を戸惑わせている。早送りで果たして映画は楽しめるのだろうか? ネタバレを知ってしまったらつまらないのではないか? そもそも本編を観ないなら、なんの意味があるのだろう?
こうした一見奇妙に思われる習慣であっても、経済学的に考えれば一定の合理性があるはずだ――というのが本書の立脚点である。類義語である「コスパ(コストパフォーマンス)」との差異にはじまり、Z世代を中心として現代における情報環境と生活の変化を分析し、タイパを追求する人々が果たしてなにを求めているのかを考えていく。

テクノロジーによって生活が変化すれば、価値観や文化も変遷していく。タイパはその現れのひとつにすぎないと言うこともできる。本書はタイパの議論を通じて、現代の消費社会やカルチャーがどのような状況にあるのか、考えるきっかけを与えてくれるだろう。

本書の要点

・タイパが求められるようになった背景には、サブスクの拡充をはじめとして、圧倒的な情報量を持ち、それを消費可能にしたプラットフォームの登場がある。
・我々のコミュニケーションはコンテンツを通じて行われがちである。そのためコミュニケーションが可能な状態になるために、効率よくコンテンツを消化していくことが求められている。


・コミュニケーションを円滑にするために、あるいはアイデンティティを記述するために、最短距離でその物事について語れる「オタク」と見なされる必要があることも、この傾向を強化している。



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