レビュー

科学を前にして哲学はいったい何をすべきなのだろうか。科学の進歩というのは、私たちの生活を便利にするだけでなく、人間観や世界観にも大きな影響を与えてきた。

大宇宙のスケールはわれわれ人間の無力感を際立たせるし、脳科学の発展は人間の自己像を再考させる。普段難しいことを考えない人でもChatGPTの登場に際して、「人間の知能ってなに?」という疑問を大なり小なり抱いたはずである。知識を探究すれば真理に到達できる、という世界観が崩れて長い時間が経った。そんな神のいない世界で、科学だけは進歩を続けている。
本書は、哲学で扱われる「意味」や「目的」といったものを、科学の成果を踏まえた世界観の上に記述しようと試みる。よくある「入門」のように、哲学史に名を連ねるビッグネームはほとんど登場しない。けれども、ここで扱われているテーマはそれまでの哲学が取り上げてきた問題である。その意味で間違いなく本書は「哲学入門」といえよう。そして、ここでの問いは科学が成功を収めた現代に生きる私たちにもとても重要だ。たとえば、投薬によって性格まで変えることができてしまういま、「自由意志とはなにか」というトピックは意外と心に刺さるのではないだろうか。
普段素通りしてしまっている「大切なこと」を、もう一度深く、そして徹底的に考え、記述する。それが哲学である。
本書を読めば、哲学が決して私たちの手の届かないところにあるものではないことがわかるし、心に描かれた世界や自分自身に新しい風を吹き込むこともできるだろう。

本書の要点

・科学の進歩を踏まえつつ、「ありそでなさそでやっぱりあるもの」を記述するのが本書の目的である。「意味」や「自由」などがそれだ。
・自由意志というものはありえるのだろうか。あらかじめすべて決まっているという立場を決定論という。認知科学は、人間を一種の計算機ととらえる新たな決定論を生み出した。
・実は決定論と自由意志は矛盾しない。あらかじめ決まっていることと、自由意志は両立すると考えることもできる。



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