レビュー

部門横断のミーティングが“発表会”で終わり、決定も責任も曖昧なまま先送り――そんな閉塞感に覚えがあるなら、会議全体を根底から組み替える羅針盤になるかもしれない一冊である。
本書の最初の舞台は、ギャンブル依存からの回復を支える自助グループだ。

そこでは評価や結論を禁じ、参加者全員が本名さえ脱ぎ捨てて語り合う。驚くのは、たったそれだけで互いの鎧がはがれ、主体性と信頼が連鎖的に立ち上がる点だ。沈黙を恐れず「わからなさ」にとどまるネガティブ・ケイパビリティが、人を動かす真のエネルギーを呼び込むのである。
さらに著者は、これにフィンランド発のオープン・ダイアローグを重ねる。危機に陥った当事者の“現場”で、専門家も家族もフラットに対話を継続する7本柱――即時対応、ネットワーク視点、柔軟性、共同責任、思考の流れを切らない態度、不確実性への耐性、そして対話中心主義。ここには心理的安全性や、役割にもとづいて上下関係をなくした組織運営に通じる実践知が詰まっている。
メンバーの経験を等価に扱い、結論を急がず、対話の過程そのものを価値と見なす。ビジネスの現場に置き換えれば、新規事業会議、M&A後の統合作業、リーダーシップ開発など、あらゆる場で応用可能だ。数字と根拠で武装した議論が行き詰まったとき、必要なのは“もっと正しい答え”ではなく、“答えが生まれる場”のアップデートだということを、本書は静かに、しかし強烈に教えてくれる。

本書の要点

・ギャンブル依存は金と信頼を奪い、犯罪・家庭崩壊を招く難治の病だ。特効薬はないが、当事者同士が匿名で語り合うことが救いになる。批判なしの対話が「嘘・孤立・金だけ思考」を溶かし、賭けない一日を積み上げる力を生む。


・オープン・ダイアローグは、当事者のそばに居続け、助けを求めた瞬間に応じる対話型の支援だ。肩書きを外した参加者全員の自由な語りが、回復への糸口をともに見つけ出すことに繋がるのである。
・緩和ケアの現場では、「正しさ」を目指すことが、かえって治療に関わる人たちを傷つける暴力となることがある。正否を急がず、終わりなき対話に身を置くことこそ思考と癒しを育む。



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