いよいよ本日12月10日、男女の東アジアの王者を決める「EAFF E-1 サッカー選手権」(E-1選手権)決勝大会が開幕する。今回、Jリーグに所属するU-22世代を中心としたメンバーで臨む男子代表は、過去4度優勝を誇り前回王者でもある韓国から敵地で王座を奪還することができるか。
文 河治良幸
EAFF E-1選手権が韓国の釜山で開幕する。9日にはそれぞれ4カ国の監督が合同記者会見を行い、大会への意気込みを語った。
“サムライブルー”男子代表の森保一監督は、「選手が成長できるように1戦1戦、タイトルを目指して頑張りたい」と意気込みを口に。“なでしこジャパン”こと女子代表の高倉麻子監督は「五輪の予選がないので真剣勝負ではこの大会。東アジアの良きライバルと素晴らしい試合ができるように全力で戦いたい」と語った。その会見後に同じ施設で女子と男子の練習が行われたため、入れ替わりのタイミングで記念撮影が行われ“アベック優勝”に向けてエール交換した。
男女ともに共通するのは来年夏に開催される東京五輪まで半年あまりと迫っており、金メダルを目指す意味で大事な強化になるということ。男子は五輪の後に待つW杯アジア最終予選に向けて、森保監督が“ラージファミリー”と表現する厚い選手層の構築も若手中心のメンバーになった大きな目的の1つとなっている。一方の女子もアジアMVPに選ばれたキャプテンの熊谷紗希がいない状況で、これまで若手として見られた選手たちがチームの中心として自覚を持って、優勝に導くことが東京五輪、さらに次の女子W杯に向けての力になっていくことは間違いない。
「重圧」と戦う韓国、“予定通り”の中国
男子の方は開催国の韓国、日本、中国に予選ラウンドを勝ち上がってきた香港の4カ国で戦う。優勝候補は韓国だろう。
パウロ・ベント監督は「韓国にとって難しい大会になる。相手をリスペクトしながら戦う」とコメント。最大の敵は、期待値によるプレッシャーと言えるかもしれない。アジア二次予選では北朝鮮、レバノン、トルクメニスタンと同居する厳しい戦いを強いられており、2勝2分で前半戦を終えた。残りでホーム3試合を残しており予選突破に有利な状況ではあるが、先月にはブラジルとの親善試合で0-3と完敗するなど指揮官も批判の矢面に立たされており、今大会の結果次第ではさらに厳しい立場になることも予想できる。今大会で唯一、優勝がノルマになるチームだ。

2017年大会を制した韓国チーム
もちろん森保監督が率いる日本もU-22の選手が14人という若いチーム構成ながら、大会が始まれば言い訳なく優勝を目指していくべきだ。そうした真剣勝負の先にこそ、次に繋がる成長がある。U-22の選手たちにとっては堂安律や久保建英がいない中で、東京五輪でオーバーエイジを含めて18人という狭き門に割って入るアピールの場でもある。とはいえ、まずは日の丸を背負うA代表の一員として中国戦、さらに香港戦と勝利しながら成長し、18日の韓国戦を最高の状態で迎えたい。また、これまでA代表で本格的には導入していなかった3バックをメインに使う可能性もあり、そこも大きな注目点の1つだ。
その日本と初戦で激突する中国は、W杯アジア二次予選でシリアに敗れた直後にマルチェロ・リッピ監督が辞意を表明。これを協会も承認した。正式な後任は決まっておらず一見すると混乱の最中にあるように思えるが、もともとE-1選手権はこれまで予選などに招集されていない候補をテストするプランが出されており、リッピ氏を腹心として支えてきた元中国代表MFのリー・ティエ監督が彼らを率いるのも予定されていたことだ。「中国代表で指揮を執ることは夢だった。偉大な3カ国を相手にベストを尽くす」と語るリー監督は言わずと知れた英雄であり、エバートンなどで活躍した経験とカリスマ性で、どこまでチームをまとめられるかは大会の注目ポイントだ。
来年1月のU-23選手権で東京五輪の本大会出場を目指す現U-22のメンバーは含まれておらず、平均年齢は高め。その中にはACLでJリーグのクラブを苦しめた広州恒大のメイ・ファンや上海上港のシ・ケーと言った実力者がそろう。中国に帰化したエウケソンのような誰でもわかる代表の主力がいない分、逆に不気味さがある。これまでは[4-3-3]というシステムがベースとなってきたが、リー監督がこれまでの戦い方を踏襲するのか違うシステムを用いるかは蓋を開けてみないとわからない。
その点、日本としては試合に入って相手を見ながら判断を共有し、自分たちのペースに持ち込めるかどうかが重要になる。それこそ三浦弦太や畠中槙之輔、橋本拳人などA代表経験のある選手に求められるタスクであり、ここでリーダーシップを発揮した選手は来年3月に再開する残りの二次予選にも大きなアピールになるとともに、今回は不在の欧州組を追い越し、東京五輪のオーバーエイジ枠に浮上してもおかしくない。
日本が2試合目に戦う香港はW杯アジア二次予選のC組で現在4位。
「本命」日本を追うのは
女子は3連覇中だった朝鮮民主主義人民共和国が参加していないこともあり、アジアチャンピオンでもある日本が優勝の本命だ。東京五輪に向けた大会形式での最後の実戦の機会であり、高倉監督としては真剣勝負の中で本当に戦える戦力を見極めるラストチャンスともなる。2015年W杯、2016年のリオ五輪が終わってから世代交代の必要に迫られた状況で、高倉監督は時に厳しい評価を受けながらもアンダー世代やなでしこリーグで台頭したタレントをA代表に引き上げ、多くの選手をふるいにかけてきた。
その大きな試金石だった今年の女子W杯では、オランダに善戦しながら一歩及ばずベスト16で敗退。そこで選手たちが味わったのは、良い流れの中で決め切ることの重要性と厳しい時間帯での状況判断やゲームコントロールなどの不足だ。高倉監督は「選手には勝ち切るチームになるためにも様々な状況の中で自分のプレーにフォーカスしてほしい。試合中の起こり得る変化、起こっている状況を選手が感じて、何かを変えてチームを良くしていけるように」と語る。

女子W杯オランダ戦直後の日本チーム
ベースの部分は今回の主力メンバーも十分に共有しているはずだが、うまく行かなかった時にどう対処して、勝利に持って行けるかがE-1選手権のタイトルはもちろん、東京五輪のメンバー選考に向けての大きな評価基準になってくる。
初戦の相手は、日本人の越後和男監督が率いるチャイニーズ・タイペイ。「他の3カ国と違い、次のオリンピックに繋がる大会にしたい」と越後監督が語るように下馬評としては最もチーム力が落ちるが、予選で中国に敗れたものの善戦している。試合の入りに失敗すると苦戦を強いられるかもしれない。もちろん、そうした状況でいかに立て直せるかもチェックポイントだ。
日本にとって最も苦しい戦いと予想されるのは中国戦だ。11日の初戦から中2日で行われるため、10日に韓国と初戦を行う中国より1日短い。3試合目の韓国戦も中2日であることを考えれば、ここである程度のターンオーバーを使うことも必要になるため、これまであまり招集されていなかった選手たちにもチャンスが出てくるはずだ。そして、タイトな日程で進行する東京五輪の良いシミュレーションにもなる。
中国は東アジアの中でも力強さを押し出してくるチームで、ワン・シャンシャンのサイドからの突破力や10番をつけるリー・インの高さとスピードは脅威だ。来年2月の五輪予選に向けた仕上げの大会として臨んでいる中国相手に、なでしこジャパンがどれだけ自分たちのリズムに持ち込むことができ、鋭いカウンターなどにも耐えられるか。熊谷がいないDFラインで、南萌華などの獅子奮迅の働きも問われてくる。
開催国の韓国は夏までアイルランドを率いていたコリン・ベル監督の“初陣”となる。
■大会スケジュール

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Photos: Ryo Kubota, Getty Images