【松尾潔のメロウな木曜日】#79
4月3日、ジャーナリスト津田大介さんが編集長を務める独立型オンライン報道番組『ポリタスTV』に初めて出演した。登録者数6万人を誇る人気YouTubeチャンネル。
ところで、ポリタスTVの特色のひとつに、英BBCの出演者ジェンダー平等基準に則り、月単位で番組のゲスト出演者が男女半々になるようテーマ選定とブッキングをしていることが挙げられる。ぼくのゲスト出演も当然その対象となる。
『捕食者の影』でとりわけ注目を集めたのは、モビーン・アザー記者による東山紀之スマイルアップ社長インタビュー。東山氏の発言がいかに前時代的で論理性を欠いていたか、ぼくが今週月曜(4月1日)に福岡RKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』で話したところ、番組の書き起こし記事はYahoo!ニュースの九州・沖縄地区アクセスランキング首位に。
さて、『捕食者の影』の前半では、誹謗中傷を受けて自死した被害者の妻が顔を出さない形で出演、夫の最期の様子を生々しい言葉で語っている。東山社長が登場するのはその後。アザー記者から誹謗中傷する人への認識を問われて答えたのが、なんと「言論の自由もある」「その人にとっては正義の意見」というもの。
ぼくは耳を疑った。これってネットスラングでいうところの〈表現の自由戦士〉レベルの発言じゃないか。
東山氏の物言いを聞いてぼくが思い出したのは、旧ジャニーズ事務所が昨年10月に2回目の記者会見を行った後、自社ホームページ(現在は閉鎖)で「被害者でない可能性が高い方々が、本当の被害者の方々の証言を使って虚偽の話をされているケースが複数あるという情報にも接している」と注意喚起を呼びかけていたこと。これでは、被害者の救済よりも組織防衛を優先していると思われても仕方がないだろう。社名が変わってもなお、スマイルアップはジャニーズ事務所時代の悪しき体質をそのまま保っているのか。
さらに厄介なのは、こんな軽薄な言葉が、スター東山紀之の誰もが知るあの声で語られるのだ。かつて主演した大河ドラマや数かずの時代劇でも遺憾なく発揮された、あの鮮やかな口跡で。名器ストラディヴァリウスでつまらないメロディを奏でるような空疎さ、滑稽さ。
もちろん、この件はポリタスTVの中でも和田さんとたっぷり語り合った。有料会員限定の第2部には津田さんも乱入、話は予想もしない方向へ。どうぞ観られたし。
(松尾潔/音楽プロデューサー)