朱川湊人の直木賞受賞作を、前田哲監督が鈴木亮平、有村架純のダブル主演で映画化した「花まんま」が4月25日に公開される。
大阪の下町を舞台に、亡くなった両親に代わって妹・フミ子(有村架純)を育ててきた兄・俊樹(鈴木亮平)との兄弟愛を描いたもの。
原作は、俊樹とフミ子の幼少期にスポットを当て、繁田喜代美の記憶を持つフミ子が、兄と共に繁田家の人々に会いに行くさまを映し出した短編小説。映画では大人になった2人を主人公に、兄妹の絆に焦点を絞ったところにオリジナリティーがあり、物語の骨格は「男はつらいよ」シリーズの第1作を彷彿とさせる。
「男はつらいよ」の第1作は、実はさくらの物語である。久しぶりに故郷の柴又に帰ってきた車寅次郎が、妹のさくらと恋人・博の恋のキューピッドの役割を果たす。ポイントはドラマの中心はさくらだということ。寅さんは帝釈天の御前様の娘に恋をしてフラれるが、あくまでサブエピソードとして描かれている。第2作からはさくらが結婚したことで、寅さんの失恋話がメインに変わる。
「花まんま」は、舞台こそ大阪だが、俊樹を演じる鈴木亮平の妹のことになると周りが見えなくなる、直情的な愛情の傾け方はほとんど“現代版寅さん”。
結婚式に向けて謎の行動を見せるフミ子に、心穏やかではない俊樹のうろたえぶりが寅さんを思わせる。原作の世界観を基本にしながら、題材の料理の仕方を令和版「男はつらいよ」に持ってきて、笑って泣ける感動作にしているのがうまい。
前田哲監督は「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」(18年)や「老後の資金がありません!」(21年)など、社会問題を絡めながら、明るいエンタメに昇華させる作品を製作。今回の映画も監督が長年温めてきた企画だというが、彼の練達の職人技がさえた一本になっている。
有村架純は「月の満ち欠け」(22年)でも、何世代にも生まれ変わって魂が受け継がれていく女性のひとりを演じたが、ここでは単なる生まれ変わりではなく、1つの体に2つの心と記憶が同居しているのが新味。謎を秘めたヒロインに、説得力を持たせているのが素晴らしい。彼女と鈴木亮平は本作が初共演だが、兄妹役での相性の良さを証明した。この物語は完結するが、仕切り直してこのコンビで令和版「男はつらいよ」をやって欲しい……そんな気にさせる、GWに必見の作品である。
(金澤誠/映画ライター)
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有村架純といえば、姉も芸能人。