【ラサール石井 東憤西笑】#252
今、演劇界は大きな怒りに震えている。
六本木にある俳優座劇場。
最初は4階建て。1980年に9階建ての今の形になった。俳優たちが映画に出た出演料を出し合ったという。
しかし老朽化と経営不振により、先日ついに最終公演が行われて、「さよなら俳優座劇場」と皆が涙を流した。誰もがビルも壊され、更地になるのだと思っていた。
■誰にも知らされず吉本興業が劇場を再オープン
しかし、なんと吉本興業が居抜きで借り受け、コント専門劇場として再オープンするというのだ。
ここで間違えないでもらいたい。演劇人が怒っているのは、演劇よりお笑いを低く見て、演劇の殿堂を吉本がコント劇場にすることに対してではない。ていうか、私もストリップのコント上がりだ。コントを低く見てもらっては困る。貸小屋である俳優座劇場でお笑い公演をしたこともある。
問題は、このことが誰にも知らされず、当の俳優座の人も知らず、秘密裏に行われたことである。
経営していたのは俳優座劇場という会社だ。貸小屋での収入は多くて月500万。メンテや人件費に月400万、何年かに一度は舞台機構の改善などに何千万とかかる。更に固定資産税が港区だけに月100万。当然の赤字だ。それをプロデュース公演の旅公演と大道具制作の収入で賄ってきた。決して放漫経営だったわけではない。
維新とつるみ自民党政府から100億もクールジャパン予算をもらった吉本ならそりゃ簡単に借りられるだろう。いや、更地にしてビルだって建てられるかもしれない。
いやそれも、最初からそう言ってくれていれば、まだ納得がいく。
なぜ誰にも知られず、秘密裏に事を運んだのか。
これでは演劇人は自分たちの聖地に土足でズカズカ上がり込まれたような気持ちなのだ。
■劇場には魂が宿っている
とにかく日本は文化行政が無茶苦茶だ。いつもスクラップ&ビルド。国立劇場も青山円形劇場も塩漬けにされ、新しい商業施設ばかりつくられる。
古い物を残し、修復し、それを観光資産にしている欧米とは考え方が違う。あのアメリカでさえ、古いビル群や劇場や球場が残っている。
劇場には魂が宿っている。俳優座劇場が吉本によって蘇るのは悪いことではない。しかし、それまでの100年の歴史には敬意を表するべきだろう。
(ラサール石井/タレント)