昨年は58分のアニメーション「ルックバック」が、興行収入20億4000万円の大ヒット。また世界のインディペンデント映画祭で高評価を得た、堀江貴監督による55分のヒューマン・ファンタジー「最後の乗客」も公開された。
ネットフリックスなどの配信映画に3時間クラスの大長編がいくつも登場する一方で、コンパクトにまとまった“中編”映画にも力作が登場している。短編、中編、長編の長さに国際的な基準はないが、日本では1950年代に2本立て興行が全盛だった時代、メインの長編作品に付ける40~50分のB級映画を中編と呼んでいたので、おおむね40分から1時間強の作品を中編とイメージしていただきたい。
今年も和歌山県で開催された第18回田辺・弁慶映画祭でグランプリをはじめ5冠に輝いた、馬淵ありさ監督による「噛む家族」が5月9日から公開されている。これは49分の中編で、人間を見ると噛む衝動が抑えられなくなるため、ひっそりと暮らすゾンビの家族がSNSによって誹謗中傷にあい、別の住処を見つけてゾンビ同士で生きていく姿を、一種のホームドラマとして描いたものだ。ゾンビ映画ではあるが、ホラーというより社会から疎外される者たちの哀歓を、コミカルなタッチで映し出した異色作である。
さらに5月31日からは京都の劇団、中野劇団の短編戯曲を68分の映画に仕上げた「結婚の報告」が公開される。これはあるバーを舞台にした、1シチュエーションのラブコメディ。バーで仕事仲間の2人の男が出くわし、一人は親友の母親と結婚することを、親友本人報告しようとしていて、もう一人は再婚が決まって、結婚式の新郎側の主賓スピーチを前の妻に頼もうとしている。そこにやってきた親友と前の妻を含め、彼ら4人の友情と愛情が交錯していく、ノンストップの会話劇だ。中野劇団の主宰者・中野守が映画も脚本を書き、「レンタル×ファミリー」(23年)の阪本武仁が監督を担当。高橋里央を始め、1000人を超えるオーディションで選ばれた主要キャストたちの、軽快な会話のやりとりと演技力が観る者を惹きつける。
またこの映画は、「カメラを止めるな!」(17年)や「侍タイムスリッパー」のメイン上映館だった、東京・池袋のシネマ・ロサで2週間の限定公開が決定。今やシネマ・ロサは、インディーズ映画のムーブメントを興す火付け役とも言える映画館で、掘り出し物の作品を求めて通う映画ファンも多い。「結婚の報告」も、そんな観客の支持を得られるかに期待がかかる。
豪華な俳優陣と有名な原作を持ってくるメジャー会社の長編映画とは違って、中編作品はそれぞれの映像作家が、個性と独自のアイデアで勝負しているのが面白い。思えば鬼才・実相寺昭雄が、大島渚の脚本を得て初監督した映画「宵闇せまれば」(1969年)も43分の中編だったし、太田光も出演した篠原哲雄監督の初の劇場映画「草の上の仕事」(1993年)も42分の中編だった。他にも中編をバネにステップアップしていった名監督は多いわけで、そういう意味でも次代を担う才能を発見する作品として、気軽に楽しめるエンタメとして、増え始めた中編映画は今後注目を集めていきそうだ。
(金澤誠/映画ライター)
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