7月27日に閉館を迎える東映最後の直営映画館丸の内TOEIで、現在「さよなら丸の内TOEI」と題した80日間にわたる上映イベントが開催中だ。丸の内TOEIは1960年9月20日に完成した東映の本社ビルの中に開設した映画館。
東映は1949年の東京映画配給株式会社を前身として1951年に設立されたが、50年代は時代劇、60年代は任侠映画が大ヒットして黄金時代を迎えた。これが“東映映画祭”なら当然、時代劇と任侠映画のプログラムが厚くなるのだろうが、同館が開館する以前の作品は反戦映画の秀作「日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声」(50年)、市川右太衛門が大石内蔵助を演じた「赤穂浪士」(56年)、今井正監督の名編「米」(57年)くらいで、全体的にも時代劇は多くない。60年代の任侠映画に関しても、「日本侠客伝」(64年)、「昭和残侠伝 唐獅子牡丹」(66年)、「網走番外地」(65年)という高倉健主演の3本と、三島由紀夫が絶賛した任侠映画の傑作「博奕打ち 総長賭博」(68年)が上映されるのみである。
代わりに6月上旬までの最初の1カ月では、「仁義なき戦い」や「あぶない刑事」「探偵はBARにいる」などの人気シリーズ。あるいは「人間の証明」(77年)から「Wの悲劇」(84年)に至る角川映画の配給作品、東映動画の長編第1作「白蛇伝」(58年)や高畑勲監督で宮崎駿もスタッフで参加した「太陽の王子 ホルスの大冒険」(68年)、大ヒットした「銀河鉄道999」(79年)といった現在の東映アニメーションが製作した作品など、多彩な映画が上映されている。
その後7月下旬までに上映されるのは、松田優作、仲村トオルなどのアクションスターを輩出したセントラルアーツ制作の「最も危険な遊戯」(78年)や「ビー・バップ・ハイスクール」(85年)。「宇宙戦艦ヤマト」(77年)をはじめ、スタジオジブリの「風の谷のナウシカ」(84年)、「天空の城 ラピュタ」(86年)、「魔女の宅急便」(89年)などの大ヒットしたアニメーションの配給作品。「鬼龍院花子の生涯」(82年)や「それから」(85年)、「火宅の人」(86年)、「鉄道員(ぽっぽや)」(99年)といった話題を集めた文芸作。さらに高倉健と吉永小百合共演の「動乱」(80年)や「大日本帝国」(82年)、「男たちの大和/YAMATO」(2005年)など戦争映画の特集が組まれている。
東映が強く打ち出しているのは映画会社としての柔軟性と多様性
他に巨匠・内田吐夢監督のミステリー「飢餓海峡」(65年)や今村昌平監督のカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作「楢山節考」(83年)、国会でも論議を呼んだ衝撃作「バトル・ロワイアル」(2000年)など東映映画史を語る上で外せない作品はもちろんだが、配給を手掛けたブルース・リー主演の「ドラゴンへの道」(72年)や、石井輝男監督のカルト的ミステリー「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」(69年)もラインアップされているのが面白い。
一方で元東映社長の岡田茂が推し進めて60~70年代に量産した、暴力とエロティシズムに彩られた“不良性感度”の映画はほとんど上映されない。今回のイベントで東映が強く打ち出しているのは、配給作品も含めて時代の波に反応してきた、映画会社としての柔軟性と多様性。男臭い娯楽映画のイメージが強い東映とは一味違う、バラエティーに富んだ作品に関わって来た会社の側面が、このイベント全体を見渡せばわかるはずだ。
(金澤誠/映画ライター)
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