【増田俊也 口述クロニクル】


 写真家・加納典明氏(第22回)



 小説、ノンフィクションの両ジャンルで活躍する作家・増田俊也氏による新連載がスタートしました。各界レジェンドの一代記をディープなロングインタビューによって届ける口述クロニクル。

第1弾は写真家の加納典明氏です。


  ◇  ◇  ◇


増田「ところで典明さんは撮影した女性たちの多くを抱いたという噂を聞いてます。有名な話として流れていますが〇〇〇〇さんとか〇〇〇〇さん、〇〇〇〇さん、みんないろろあったんですか?」


加納「うん。そういう感じになった人はたくさんいるよ。たくさんいるから忘れちゃった(笑)」


増田「撮影した女性500人中450人ぐらいといい感じになったと聞いてますが(笑)」


加納「そこまでいってない。400人ぐらいかな」


増田「あまり変わらないですよ(笑)」


加納「若いときの俺は魅力的だったらしいですよ。個性的だったらしい。自分で言うのもなんだけど」


増田「あと、やっぱり一眼とかカメラ向けられるって独特ですよね。僕も作家になって撮影されるようになってそう思った。服着て普通の写真撮ってても、撮影されること自体が性的な行為なんですよ」


加納「そのとおりだね。そういう意味ではいい小道具ですよ。で、俺はほら、声も悪くないらしいし。

耳元で変な理屈を言うらしいし、それが響いちゃうんですね。ローターみたいにジンジンと。ライティングするとき耳元行ってボソボソとつぶやくと、ズンズンと響くらしいですね」


増田「濡れてくると」


加納「まあ、そうかもね(笑)」


増田「逆に落ちなかったっていう人の名前も知りたいです。山口百恵さんも落ちなかったんですよね」


加納「いや、彼女はもう決まってましたから。無理だなっていうのはすぐ分かりましたし」


増田「三浦友和さんに決まっていたと」


加納「そうそう」


増田「かなり前ですが、中森明菜*さんを撮りたいっていう話をどこかのインタビューでされていたのを読みましたが」


※中森明菜(なかもり・あきな):1965年東京生まれ。1980年代のアイドル歌手。明大中野高校定時制中退。デビュー曲『スローモーション』以来、『少女A』『セカンド・ラブ』『禁区』『北ウイング』『飾りじゃないのよ涙は』など次々とヒットを連発。松田聖子と同時代の2強を競った実力者。同年代の歌手・近藤真彦との恋愛問題以来体調を崩すが、近年はまた露出を増やして歌声を披露している。



実像は抱いても一緒、その人が発散する気配に惚れる

加納「いや、そこまではないね」


増田「どういう被写体に魅力を感じますか。最近だとホラン千秋さんを撮りたいという話も聞きましたが」


加納「うん、ホランね。

彼女はいいよね」


増田「被写体のどんなところに魅力を感じるのでしょうか。何が加納さんの琴線に触れるんでしょう」


加納「その人の発散する空気ですよ。気配ですよ。その気配に惚れるんですよ。その人の持ってる実像というより、その人がまき散らす気配というのかも。もののけとは言わないけども、それに近いものです」


増田「もののけ、ですか」


加納「うん。それに魅力を感じるんですよ。それを抱いてみたいっていうか。実像は抱いても大体同じでしょうから」


増田「柔らかい乳房やお尻があって、膣があって。髪があって頬があって唇があって」


加納「はい。人にはそれぞれそういうものがあると思えるんですけど、その部分ではなく。実像というよりも気配です。

チョウの鱗粉みたいにまき散らされてるもの。それは、感じる側の感性の問題っていうか、感度の問題」


増田「感度というのは感じる能力ですね。ラジオのアンテナみたいなもの」


加納「そう。アンテナの受信感度。表現者にはそれが必要なんじゃないかな」


(第23回につづく=火・木曜掲載)


▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。


▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。

北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が好評発売中。


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