【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#250
島崎和歌子
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TBSの「オールスター感謝祭」の看板アシスタントといえば島崎和歌子さん。お酒好きで、おおざっぱなキャラクターかと思われがちですが、実は繊細でフォローにたけた才女でした。
20年以上も前になりますが、NHK大阪で80分のクイズ番組の特番がありました。司会は月亭八方さんで、アシスタントが島崎和歌子さん。私は構成を担当していたのですが、リハーサル早々に“事件”は起こりました。
司会の八方さんがNHKのスタッフに「プロンプ(カンニングペーパー)はないのん?」と聞くと、「ありません。台本でお願いします」とフロアディレクターさんはバッサリ……。八方さんといえば“アドリブの天才”。どんなささいな話でも爆笑の話に変えてしまう“元祖・楽屋ニュースの達人”で、台本は本番前に目を通す程度。他局では基本的に八方さんにおまかせで、どうしても言わなければいけないセリフはプロンプに書いてもらうのがお約束でした。ところが、皆さまのNHKは予習をしてくるのが当然だったのです。
「(プロンプを)用意しましょうか?」という声もなく、マネジャーに「悪いけど本番までに書いといてくれへんか」と話しかけたところ、島崎さんが「八方師匠、私覚えていますからタイトルコールだけ正確に言っていただければ、あとはフォローできると思います!」と力強い助け舟が。
「覚えてきてんのん?」「たぶん大丈夫だと思います」「違うな~東京のタレントさんは。大阪は誰も覚えて来いひんで~」と返され「ホントですか?」「ホンマホンマ。
島崎さんはしっかり台本が頭に入った状態で、確認事項をメモするためだけに台本を持っているという感じでした。本番が始まり、刻々と変わる素人さんチームの得点状況や、ポロッと漏らした言葉を「何ですか?」と拾って、出演者を目立たせたり、八方さんがボケやすいトスを何度もあげる。とても初顔合わせとは思えない息の合った番組進行に「この人、全体を俯瞰で見ていて番組の流れをしっかり読んでるな~」と感心したものです。
八方さんが仕切るのを忘れても、サッと話を変えて何事もなかったかのように進行を戻し「八方さんがMCをしているように見せる」のがとても上手で、番組を裏で回しているのは島崎さんでした。これだけの腕があるからこそ1991年の初回放送から現在まで30年以上「オールスター感謝祭」のアシスタントは島崎さんなのだと納得。というか、代わりがいないんだと思います。
ますますの活躍を期待しています。
(本多正識/漫才作家)