【桧山珠美 あれもこれも言わせて】
綾瀬はるか主演、NHK土曜ドラマ「ひとりでしにたい」を楽しく見ている。綾瀬演じる主人公の山口鳴海は美術館勤務の学芸員。
鳴海がある出来事をきっかけに自身の人生を見つめ直し、終活について考えるのだが、出来事というのは鳴海が子供の頃に憧れていた独身バリキャリの伯母が孤独死したこと。それも追いだき機能付きの浴槽の中で。
悪臭がするとご近所から通報があり、警察が出動。唯一の身内である鳴海の父(國村隼)のところに連絡がきたというわけだ。鳴海の父と母(松坂慶子)が駆けつけ、身元確認をしたが、遺体の損傷が激しく、見ない方がいいと言われたとか。
父は見なかったが、母はどうしても見たいと申し出て見せてもらい、案の定、吐いたそう。
そんな話を両親から聞いた鳴海は「ひとりでしにたくない、ひとりでしにたくない」と孤独死を恐れるあまり、やみくもに婚活サイトに登録するなど暴走するが……。
「終活」「孤独死」とテーマは激重だが、それを深刻ぶるのではなく、コメディータッチで描いているところがこのドラマの真骨頂といえる。
深刻な話を悲愴感漂わせ、重々しく見せるのはアホでもできる。深刻な話を明るく、なんなら笑いの一つもとろうという気概を買いたい。
そもそも、カレー沢薫の原作自体が「笑って泣ける終活漫画」。その世界観を踏襲し、シュールでブラックユーモアの効いたコメディーにした大森美香の脚本もよし。
ただし、俳優を間違えればただのうすら寒いものになりかねないが、一級のコメディエンヌの綾瀬はるかがいい仕事をしてる。
初回では推しのアイドルの映像を見ながら一緒に歌ったり踊ったり。かと思えば、「笑う犬の冒険」のコントのはっぱ隊のように、裸(肌色の下着を着用)の股間に葉っぱをつけた姿を見せるなど文字通り、体を張る場面も多数。
■視聴者を笑わせるのは難しい
闇落ちしかけた鳴海の妄想中にまとわりつく謎の妖怪が麿赤兒(山海塾ふうな全身白塗り)だったり、考え抜かれたおふざけに目が離せない。松坂慶子も綾瀬に負けないコメディエンヌぶりを発揮。こちらもヒップホップダンスを披露するなど体を張っている。2人とも天然系だからコメディーと相性がいいのだろう。視聴者を泣かせるのは簡単だが、笑わせるのは難しいもの。コメディエンヌとして思い浮かぶのは小芝風花や多部未華子、川栄李奈、安藤サクラ、木南晴夏あたりだが、綾瀬は別格。いずれ彼女を主役にした寅さんをやってもらいたい。
世知辛い世の中だからこそ良質なコメディーを期待したい。
(桧山珠美/コラムニスト)