7月の歌舞伎座は、市川團十郎が昼の部、松本幸四郎が夜の部で座頭に。


 昼の部は「新歌舞伎十八番」4演目という、前例のないプログラム。

「新十八番」はいくつあるのか諸説あるほどで、上演されないものが多い。今回の中でも市川右團次の『大森彦七』は1999年以来の上演。たしかにどこが面白いのか分からない芝居で、右團次がパワーで押し切ったという感じ。
『高時』は坂東巳之助が大抜擢。傲慢な権力者の傲慢さをリアルに演じていた。一転して天狗が出てくる幻想的な世界になると、その戸惑いも見事。巳之助は團十郎と同座する機会は少ないが、その期待に応えた。


 團十郎自身がつとめるのは18年ぶりの『船弁慶』と19年ぶりの『紅葉狩』。「荒事」を家の芸とする團十郎としては珍しい女形。それぞれ後半は人間ならざるものになり、悪というか負のエネルギーが爆発し、圧倒させる。菊五郎の襲名披露公演2カ月を経て、團十郎はますます大きくなった。


 夜の部は松本幸四郎の、これも「家の芸」となった『鬼平犯科帳』。

前半は、鬼平の青年時代を市川染五郎がつとめ、おまさの少女時代を市川ぼたん(團十郎の娘)。これが歌舞伎かどうかは別として、青春ドラマとして秀逸で、2人が真正面から思いのたけをぶつけあうところは、昔の日活青春映画か少女マンガみたいなのだが、あまりにストレートなので胸を打たれる。


 後半は幸四郎と坂東新悟が鬼平とおまさ。前半の若い2人のイメージが強く残っているので、違和感があった。團十郎と松本白鸚が前半に特別出演的に出て、それぞれ、存在感を示す。


 夜の部最後は染五郎と市川團子の『蝶の道行』。美しくも儚い、幻想的な舞踊劇で、観客を別世界へといざなって、幕。


 隣の新橋演舞場では、尾上松也主演・演出の、ゲームが原作の『刀剣乱舞』。その第2弾は「東鑑雪魔縁」と題し、鎌倉三代将軍源実朝が公暁に暗殺される事件が舞台となる。日本刀を男性に擬人化した「刀剣男士」が、歴史改変を企む組織と戦うという設定さえ理解すれば、普通の歴史劇として楽しめる。


 主要な役者は刀剣男士と、実在の歴史上の人物との二役。若い役者が大半で、歌舞伎座の歌舞伎とは違う世界がある。


 実朝暗殺事件が史実通りに展開するのか、改変されるのか、先が読めない。この史実パートは新歌舞伎のようで見応えがある。史実通りであれば、2人の青年が死ぬわけで、できれば歴史を改変してほしいと思わせてしまう。


(作家・中川右介)


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