
人間は孤独の中で、自分ひとりの力で希望を持って生きて行くのは難しいかもしれない。でも、共にする仲間が一人でもいるなら、力強く生きていける。そんなことを改めて教えてくれたのが、実話を基に描かれた映画『木の上の軍隊』だ。太平洋戦争終結から80年。今を生きる人たちに語り継ぎたい物語が誕生した。日本が敗戦したことを知らず2年間、ガジュマルの木に身を潜めて生きた男たちを演じたのは、堤真一と山田裕貴。その時代に生きた人間のように説得力たっぷりに演じたふたりが語る真実の物語とは――。
苦しくても笑って生きていこうとする力は、とてもいいなと思いました

――今作は太平洋戦争末期の1945年の沖縄を舞台に実際にあった出来事が描かれるストーリーです。こまつ座の舞台で知られる『木の上の軍隊』が原作となる映画のオファーがあった時の心境から知りたいです。
堤真一 映画はもちろん、舞台の脚本も読んだのですが、心情を語るシーンは、怒涛のセリフ量だったんです。映画の台本は映像化する上で、舞台版にはより過ぎず、ガジュマルの木の上で生き延びた二人の関係性をしっかり見せていくものになっている印象を受けました。山田くんが演じる沖縄出身の安慶名という人物や沖縄の人々は、戦時中で起きていることは悲惨なのに、明るさで乗り切っていく力を持っていて素晴らしい。苦しくても笑って生き抜いていこうとする姿は、とてもいいなと思いました。
山田裕貴 僕はマネージャーさんの声の掛け方で、「新しい作品の話が来たな」というのが大体分かるのですが、いつもとは違う雰囲気があって、受けたい作品なんだとピンときました。お相手が堤さんと聴いた瞬間、「やります」と即答しましたね(笑)。実話を基にした戦争を題材としたこの作品にチャレンジできることは光栄でした。台本も本当に良くて、映画版にギュッと凝縮された内容になっていたので、撮影に入るのがすごく楽しみでした。
――物語は、沖縄戦で米軍との激しい攻防戦の末に、山下一雄(堤)と安慶名セイジュン(山田)がガジュマルの大きな木の上に身を潜めて2年間生きて行くストーリーです。戦友の関係を演じましたが、お二人の関係性はどのように作り上げて行きましたか。
堤 ほぼ順撮りで台本通りに撮影できたので、意識して関係性を作り上げる必要はなかったですね。
山田 そうですね。

堤 ふたりは少尉と新兵という関係なので最初ガジュマルの木に登った時は、ギクシャクして、なかなかなじめないでいましたけど、だんだんと居心地がよくなっていきます。そんな関係を演じる山田くんとは共演こそなかったですが、顔を合わせたことはあったので、そんなに構えることもありませんでした。安慶名はちょっと抜けたところのある、陽気で明るく天然な青年で太陽みたいな人物なんですが、山田くんはそういう部分をすごく持っているうえ真面目な人。だから、年上だからといって、引っ張っていかなあかんなとかも思わず、自然と関係性を作っていけました。
山田 僕は堤さんと一緒なので心強かったです。安慶名というキャラクターは、自分の気持ちを素直に喋ってしまうような青年。少尉の山下に対してもそうなんです。戦争の時代は上官に自分から口をきくことは、何か大きなことがない限り、駄目なはずなんですよね。序盤のシーンはそういった時代背景を意識しました。そういう細かな部分は自分で決めて、あとはもう堤さんにセリフを投げてみて。返ってくる言葉や立ち姿で、雰囲気を作ってもらえたので、ありがたかったですね。最初は上官とその新兵で、途中から先輩と後輩みたいな感じ。で、最終的には親子に見えるようになればいいなと思っていました。
――ご共演は今作が初めてということで、撮影が進むにつれて、こんな人だったんだという発見はありましたか。
堤 いや、全然変わらないです。戦争中の時代背景を演じるということで、お互い結構、減量していたんですけど。僕はその前にやっていた舞台で痩せていた状態をそのまま利用して、食事に気をつけながら減量を継続していました。山田くんは減量をストイックに頑張っていましたね。「食べなくてもいいから飯に行こう」「もうそろそろ終わるからもういいよ」って誘ったんですけど、お酒は飲まず、カツオを食べるくらいでしたから。
山田 カツオ、食べましたね。ご飯に行くのが、本当に楽しかったです。僕、堤さんはもっと寡黙な方だと思っていたんですけど、多分、僕よりも喋ります(笑)。堤さんの話を聞いているだけで本当に楽しかったなぁ。
――減量の日々は大変そうですね。
山田 干し芋と納豆と豆腐とかタンパク質を欠かさずに、色々と考えながら減量をしました。毎日我慢していたわけではなく、堤さんから「別にもういいだろ」と言われて、「今日はいいか」って豚の角煮を食べた日もありましたね(笑)。肉をひとかじりした瞬間に「うわっ、美味しい…!」ってなるんですよね。食べ物を口にするシーンでは、この感じをそのまま出せばいいんだと分かったのは大きな収穫でした。

その時代の食の苦しみが画に出るといいなと

――極限状態の中で2年間の月日を表現するのにとくに気を配られたことはありますか。
堤 最初の緊迫した状態からだんだん落ち着いて、敵に見つからない安心な場所ということで、ちょっと木の上の生活をエンジョイしていくんですよね。山下は最初、「敵のものは食べない」って日本の軍国主義的なものや武士道精神を貫き通そうとするんだけど、結局それは無理で。一口食べてからは、もう気が楽になっていくんですよ。最初の戦争のシーンと違って、ガジュマルの木に上がってからは、安堵感がありました。
――ガジュマルの木、本当に立派な素晴らしい大木ですね。
堤 そう。セットの木ではなく、本物の生きている木だったので、リラックスできました。この木は撮影のために1年ぐらい前から違う場所で植樹されていたもので。3本の木を組み合わせて1本になっています。しっかりと根付いてないと人間が上に登れないので、ちゃんと新しい木が芽吹いてきて、「これで大丈夫だ」となるまでは、じつは、心配でもうずっと胃が痛かったんですよ(笑)。撮影の前に植樹が上手くいったと聞いて、「これで撮影ができる」とひと安心しました。ガジュマルの木の力もそうですし、植樹して下さった方もそうですし、役者や監督とかだけじゃなく、本当に多くの人に支えられて映画を撮影することができましたね。
山田 本当にそうですよね。僕はこだわったことといえば、劇中の設定のように最初は痩せていて、中盤からはちゃんと食べられているという感じを作るようにしました。ふたりは生き延びているので、その間、ちゃんと食べているわけなんですよね。だから、一ヶ月くらいはしっかり体重を減らすようにして、あとはあまり減量について、頑固にやりすぎないようにしていました。劇中のセリフの中でも、「もうこんなに太ってしまって」と山下が言うくらい後半は捨ててある食料を確保できる状況だったので、やりすぎず…。でも、その時代の食の苦しみみたいなものは、ちゃんと画に出るといいなと思って演じていました。

一緒に生きようとする人がいれば極限状態でも生きられる

――戦時中でなくても、お2人はこういった極限状態に置かれても生き延びる自信は、ありますか?
堤 極限状態に追い込まれたら、きっと生きる術を考えると思います。どうにか生きようとは、するんじゃないかな。山下に関しては、生きるも苦しいし、死ぬことも苦しいっていう軍人の考え方で。軍隊は戦って散って行ったのに自分だけが生き残るっていうことの葛藤はあるんですよね。軍人ならではの生き様が根付いているんです。安慶名に関しては沖縄の島に生まれ育っているから、自然の中に食べられるものと食べられないものの見分けがしっかりつくので生存力が強いですよね。山下はそういう知識が全くないから。僕自身もそうですけど、山に入ってキノコ1つ、食べられるかどうか見分けがつかないです(笑)。
山田 いや、わからないですよね。スマホがあれば、今は何でもできるけど、戦時中の状況だったらどうなんでしょうね。安慶名と山下は、多分二人だったから生き延びられた。1人だったら、とっくに諦めていたんじゃないかと思うんです。自分も、誰か一緒に生きようとする人がいたら、極限状態でも生きようとするかもしれません。

堤 実際は同じ木の上にいたわけじゃないみたいだよね。
山田 そうなんですよね。別々の木で、声をかけられる程度のところにいらっしゃったみたいで。でも、敵にみつからないように声を押し殺しているので、朝になったらお互いに声を掛け合いながら過ごしていたそうです。今作のモデルになった佐次田秀順さんと山口静雄さんが「2人だったから生きられた」とお話されていた記録を読みました。1人じゃないという安心感って本当に大きいものなんだと思いました。
堤 本当にそうだろうね。

――こうやって戦争を経験しながら生き延びた人間を演じたことで、今に生きる自分たちはどう生きていくべきか、いろいろ考えさせられることがありそうですね。
堤 沖縄に一ヶ月いる間に、地元の人たちと交流したんです。元々、僕は若いころから宮古島によく行っていたんですが、島の人たちが本当に素敵なんです。沖縄の人たちは、悲しみを背負っていても、陽気に乗り越えていこうという強さを持っていて、他の土地にはない独特な雰囲気があるような気がします。何かあっても、明るく前向きに生きていけるのは、いいなと思いました。
山田 すごくいいですよね。
堤 例え精巧なセットを作っても、スタジオでは出ない空気というのは絶対あったと思いますから。沖縄で撮影できたことは本当に良かったです。
ふたりの“自分へのご褒美“は?

――戦争が終わったら、安慶名がご褒美で釣りをしたいと語るシーンもありましたが、お二人はもしも試練のように大変だった長丁場の作品が終わったら、自分へのご褒美として何がしたいですか?
山田 作品が終わったら、ぼーっとしたいです、僕は(笑)。もう何も考えない時間を作りたいですね。家が好きなので、家でひたすらぼーっとしてリラックスできたら、自然とリセットされると思います。あとは、2年ぐらい前に海外旅行へ行った時に「自分は物を知らなすぎるな。世界を知らなすぎるな」と改めて気づいたので、もっといろんな世界を見て、いろんなことをインプットしたいなというのはありますね。
堤 まぁ、確かに作品が終わったら、ボーっとしたいよね(笑)。どうしても僕たち、1つ仕事が終わると次のことを考えてしまうんですよね。
山田 そうなんです。

堤 頭を空っぽにするのって難しいですよね。家にいてボーっとしていると、ただ時間だけが過ぎていて、焦りが生まれるから。だから、家族でキャンプに行くとか、日常とは全く違う時間を過ごすのがいい。それをやりたいんですが、なかなか行けてないままですね。家族は家族で忙しくて、土日までスケジュールを入れていて、「キャンプ行けねえじゃん、どうするんだよ」って言っているんですけど(笑)。
山田 キャンプいいですねぇ。
堤 そう。キャンプって、ちょっと非日常なことをするじゃないですか。焚火するとか、ご飯を作るとか、シンプルにしなきゃいけない。そういう時間って、疲れはするんですけど、頭の中はスッキリするんですね。帰ってきてからも、そのキャンプ道具を洗ったりしたり、片づけたりする作業も結構好きで。寝不足でも何かすごい気持ちいいんですよ。な~んも考えずに無心でいる時間って大切だなって。
山田 確かに。そういう時間を大切にしたいですね。


取材・文:福田恵子 撮影:映美
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<作品情報>
『木の上の軍隊』
7月25日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー

出演:堤真一 山田裕貴
津波竜斗 玉代㔟圭司 尚玄 岸本尚泰 城間やよい 川田広樹(ガレッジセール)/山西惇
監督・脚本:平一紘
原作:「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案井上ひさし)
主題歌:Anly「ニヌファブシ」
企画:横澤匡広
プロデューサー:横澤匡広 小西啓介 井上麻矢 大城賢吾
企画製作プロダクション:エコーズ
企画協力:こまつ座
制作プロダクション:キリシマ一九四五 PROJECT9
後援:沖縄県 特別協力:伊江村製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2025「木の上の軍隊」製作委員会
公式サイト:
https://happinet-phantom.com/kinouenoguntai/
公式X(旧 Twitter):
@kinoue_guntai(https://x.com/kinoue_guntai)
【STORY】
太平洋戦争末期、戦況が悪化の一途を辿る1945年。飛行場の占領を狙い、沖縄・伊江島に米軍が侵攻。激しい攻防戦の末に、島は壊滅的な状況に陥っていた。
宮崎から派兵された少尉・山下一雄(堤真一)と沖縄出身の新兵・安慶名セイジュン(山田裕貴)は、敵の銃撃に追い詰められ、大きなガジュマルの木の上に身を潜める。仲間の死体は増え続け、圧倒的な戦力の差を目の当たりにした山下は、援軍が来るまでその場で待機することに。戦闘経験が豊富で国家を背負う厳格な上官・山下と、島から出たことがなくどこか呑気な新兵・安慶名は、話が嚙み合わないながらも、ふたりきりでじっと恐怖と飢えに耐え忍んでいた。やがて戦争は日本の敗戦をもって終結するが、そのことを知る術もないふたりの“孤独な戦争”は続いていく。
極限の樹上生活の中で、彼らが必死に戦い続けたものとは──。