高橋伴明監督の映画「桐島です」が話題を呼んでいる。これは1970年代に起こった連続企業爆破事件の指名手配犯で、約半世紀におよぶ逃亡生活の末に病死した桐島聡をモデルにしたもので、プロデューサーであり、出演も兼ねた伴明夫人・高橋惠子(70)に話を聞いた。


■“謎の女”との接点


 ──今回、珍しく出演を切望したそうですが。


「『TATTOO<刺青>あり』『DOOR』など何本か監督作品には出ているのですが、タイトルを聞いた時、『これはいい映画になる』と直感しまして、どんな役でもいいから出させてほしいと初めて直訴しました」


 ──謎の女AYAですね。ワンシーンですが、非常に重要な役どころです。


「AYAのモデルとなった方とは不思議な縁がありまして。私は北海道生まれで、小学2年から4年まで彼女と同じ釧路に住んでいたんです。彼女は7歳上だから、もちろん学校は同じになるということはないけど、どこかですれ違っていた可能性はありますね」


 ──彼女は連続企業爆破事件の犯人として逮捕されますが、その後、ハイジャック事件で超法規的措置により釈放され、今も国際指名手配中です。


「より良い社会を願いながら、多数の死傷者を出してしまった罪は消えることはなく、彼女の心に今も重くのしかかっていると思います。遺族・関係者の心情を思えば、軽々には言えませんが、私にとってこの映画に出ることは彼女の心の軌跡を探す旅でもありました」



孫娘のデビュー作でもある「桐島です」

 ──孫娘の海空(22)のデビュー作でもありますね。


「学生運動をやっている桐島と喫茶店で向き合い、『そんなことやってるのは時代遅れだよ』と別れを切り出す19歳の恋人役です。中学時代はチェロを習っていて、音楽畑に進むのかと思っていたら、いつの間にか役者に興味を持ち始めたようです」


 ──“おじいちゃん”の映画に出るにあたってアドバイスは?


「あの場面は夫の体験から書かれたとのことで、学生運動をしていた彼と田舎から出てきた婚約者の話が投影されているのだと聞きました。それを孫娘に演じさせるんだから……(笑)。海空はまだまだ未熟なので何度も断っていたのに、『俺はいつまで生きているか分からないから、出てくれ』と脅されたそうです。

私はそんな話、全然知らなくて。撮影現場にも立ち会っていませんが、せっかくいいスタートを切ったのだから、個性を生かして、見る人の心に何かを残せる俳優になってほしいです」



犯罪の背景を考えることも大事

 ──今回の映画について。


「単なる逃亡犯の青春映画ではなく、『TATTOOあり』の銀行強盗犯・梅川もそうですが、何が彼らを過激な行動に走らせたか、その背景を考えることも大事なのではないでしょうか」


 ──初めてプロデューサーを務めたとのことですが、今後作りたい映画は?


「今年3月に『真夜中に起こった出来事』という舞台に出演したんです。これはヒトラーを証言台に立たせたことによって彼の逆鱗に触れ、強制収容所に送られた実在の弁護士をモデルにしたもので、私は息子を助け出そうと奔走する母親役でした。以前、『うちの敷地には強制収容所があった~ドイツ人家族のその後~』という、ナチスとユダヤ人の交流を描いたテレビドキュメントを見たこともあって、ガザ問題もそうですが、世界に蔓延する憎悪の連鎖と排外主義をどうやったら断ち切ることができるか、そんな作品を作りたいです。もちろん、夢の夢ですけど」


(聞き手=山田勝仁)


◆「桐島です」は新宿武蔵野館ほか全国上映中。出演は毎熊克哉、北香那、奥野瑛太ほか。


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