「相手(トランプ米大統領)は普通の人ではない、ルールを変える人だ」──。日米関税合意に関する集中審議を実施した4日の衆院予算委員会で、石破首相はそう言い放った。
米国はトランプ大統領が先月31日に署名した大統領令に基づき、7日から約70カ国・地域に相互関税の新たな税率を発動する。日本に課されるはずだった税率25%は交渉を経て15%に引き下げられた。今年4月から8回も“アメリカ詣で”を繰り返した赤沢経済再生相は合意後、テレビやインターネット番組に出演しては成果を誇っているが、現行の10%からは引き上がった。
問題は、日本側が最重要視した日本車への関税だ。現行の27.5%から15%に引き下げられる予定だが、トランプ大統領は31日の大統領令で自動車関税の引き下げに触れておらず、いつ実施されるかは見通せない。合意を急いだ結果、日米間で交わした文書もなく、約80兆円(5500億ドル)に上る対米投資や防衛装備品の購入計画などを巡っても、双方に食い違いが生じている。
予算委では石破首相や赤沢氏をねぎらう言葉も出たが、そもそも文字通り「合意」と言えるのかどうか。元外交官の緒方林太郎議員(有志の会)は「国際法の原則であるウィーン条約法条約に『合意は拘束する』という表現がある」「日米合意は法的拘束力を持つ国際約束なのか」と問いただした。
これに対し、赤沢氏は「法的拘束力のある国際約束ではない」と3回も繰り返し強調。「現時点では両者の意見が一致しているだけ」と指摘する緒方氏に、再び「法的拘束力はないが」と前置きし、言い訳を連発した。
「こちらが欲しいものと相手に出すものを並べて、相手が欲しいものがあるから、こちらが欲しいものについてもきっちり応えるだろうということは前提にしている」
聞いている側が不安になるようなフワッとした答えに、緒方氏が再度答弁を求めると、今度は「(国会の承認がいらない)行政機関同士の合意」「行政機関同士では約束についてしっかり実現しようという類いのもの」と説明。要は、文書もなければ拘束力もない「フンワリ合意」に過ぎないのだ。
石破首相は無期限の続投宣言
果たして、石破首相が続投理由に挙げる「着実な履行」に至るかどうか。むしろ「ご破算」もあり得る。何しろ、2019年に安倍政権と交わした日米貿易協定も反故にした「普通ではない大統領」が相手だ。
石破首相は続投期限について、予算委で「日米合意で事業者が不当な不利益を受けないかということまでは見ていかねばならない」と理解を求め「断定できない」と言っていたが、これでは無期限の続投宣言ではないか。
「肝心の合意内容は、不平等・不透明・不確定です。いくら『着実な実施』を迫ったところで、相手は石破さんが言うように『普通ではない』わけで、約束を果たすかどうかは何の保証もない。すでに日米双方で合意内容に齟齬が生じ、米側に都合よく拡大解釈される余地もある。石破さんは米国からの高めの要求が少し下がったことにホッとして、今後の不確実性を理由に総理の座にしがみついているように見えます」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
トランプ大統領が不満を抱けば、対日関税率は再び25%に戻る可能性がある。続投のエクスキューズはいつまでもつか。
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トランプ大統領は過去にも、重大な約束違反を犯している。