【孤独のキネマ】


 愛はステロイド


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 見終わったとき、「低予算でもここまで完成度の高い作品を作れるのか」と思った。田舎町を舞台にした有象無象の人間関係をダークな色調で描いている。

英国出身の女流監督ローズ・グラスがメガホンを取った。世界各国の映画祭で44のノミネートを獲得した注目作だ。


 1989年、ニューメキシコ州の田舎町。単調な毎日を過ごしているルー(クリステン・スチュワート)は勤務先のトレーニングジムで逞しい筋肉のジャッキー(ケイティ・オブライアン)と出会う。オクラホマ出身のジャッキーはラスベガスで開催されるボディービル大会に出るため経由地としてこの町に流れ着いた。


 ガラの悪い男と殴り合いになったジャッキーを介抱するうちにルーは彼女に惹かれ、ジムでまとめ買いしているステロイド剤をプレゼント。2人は熱いキスを交わし、ジャッキーはルーの家に居候することに。


 ジャッキーはウエートレスとして町外れの射撃場で働き始めるが、実はそこはルーが嫌悪する父親ルー・シニア(エド・ハリス)が経営していた。母親は12年前に出て行って音信不通。シニアは表向きは射撃場やトレーニングジムの経営者だがメキシコに大量の銃を密輸し稼ぐ裏の顔を持っている。


 ある夜、2人はルーの姉ベス(ジェナ・マローン)とその夫JJ(デイヴ・フランコ)とレストランで食事した。実はベスはJJにDVを受けているが、ベスはそれを愛だと盲信するばかり。

姉を傷つけるJJに詰め寄ったルーだが、そこで彼が以前ジャッキーと肉体関係を持ったことを知る。


 翌日、ルーはベスが緊急搬送されたとの連絡を受ける。病院に急行すると、病室には顔を腫らし意識不明の重体となった姉の姿が。明らかにJJの仕業だが、証拠がないため逮捕もできない。


 怒りに震えるルーの姿を見かねたジャッキーは病室を飛び出し、JJの家で彼を殺害する。ジャッキーがJJを殺したと知ったルーは、彼女を助けるために死体を車に乗せて荒野に向かう。しかしその姿を、ルーに一方的な好意を寄せるデイジー(アンナ・バリシニコフ)に目撃されていた。こうしてルーは苦境に落ち込むのだった……。



「なんで?」と見ているうちにスリリングな結末に

 父に反発しつつジム運営を手伝っている無愛想な女と、ボディービル大会優勝を夢見るホームレスの女。2人が出会いレズビアンの関係に陥ったとき、偶然にも周辺がざわめき始める。


 ルーの姉がズタボロに殴られ、見かねたジャッキーが頼まれてもいないのにJJを殺害。この殺し方がえぐい。

JJの破壊された顔はショッキング映像だ。


 ジャッキーが殺人を犯したと知ったルーは、彼女をかばうために必死で証拠隠滅工作をはかる。だが当のジャッキーは少しイカれたところがあり、自由奔放に振る舞う。その挙句、殺人など忘れたかのようにラスベガスの大会に出場。その一方で田舎町ではシニアが行動を起こし、次の事件が起きる。


 つまり閉鎖的な町の暴力的な人間関係が負の連鎖となり、これでもかと化学変化の爆発を起こしてドラマが展開していく。次に何が起きるのかとハラハラしているうちに終了。最後まで観客を退屈させないドロドロ劇だ。ベロニカ・トフィウスカによる脚本の勝利とも言えるだろう。


 ルーとジャッキーの裸のラブシーンもある。筆者は男なので女性同士のラブシーンにはエレガントなイメージを抱いているが、この作品の2人はどこか暗い。その暗さが、クセのある女同士の愛憎に不穏な要素を加味している。

これもまた本作の魅力と言えるだろう。


 日本でも米国でも閉鎖的な田舎町には、血とエロスの危うさがつきまとうものだ。本作は殴られても夫を見限ることができない女の相互依存や銃器の密輸、殺人事件など無軌道な要素を程よく配置。「なんでこうなるの?」と見ているうちにスリリングな結末に向かう。「人間は愚かなり」と言うしかない。(全国公開中/配給:ハピネットファントム・スタジオ)


(文=森田健司)


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