「お玉・幸造夫婦です」
(1994年/読売テレビ・日本テレビ系)
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最高視聴率30%超えが5作と、ドラマが大豊作だった1993年。その5作がTBSとフジテレビで占められ、日本テレビは蚊帳の外だった。
が、翌94年、テレビ史に残る大ヒット作が生まれる。
4月クールの日テレ系土曜夜9時、安達祐実(43)主演の「家なき子」。当時12歳だった彼女が演じた“すず”は追い詰められていくほどに注目され、初回17.1%で始まった世帯視聴率はうなぎ上り。最終回では37.2%という驚異的な数字を叩き出した。
当時は、どのテレビ局でも至る所に、《高視聴率御礼!〇%!!》などと番組名と数字が毛筆で書かれた紙が張られていたものだが、日テレでは「家なき子」のそれが本当に誇らしげだったのを覚えている。
その「家なき子」の光に隠れて、この年には実にカルトなドラマも日テレ系で放送されていた。読売テレビ制作枠の木曜9時、7月クールの「お玉・幸造夫婦です」だ。
“お玉”役で主演したのは当時63歳の八千草薫さん(2019年没)。そして夫の“幸造”を演じたのは、前年に政界を引退したばかりの“ハマコー”こと浜田幸一さん(当時65歳=12年没)。
演出は、70年代に「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」「ムー一族」などTBSドラマで大活躍して“鬼才”と呼ばれた久世光彦さん(06年没)。
畑違いの小林亜星さん(21年没)を抜擢して“石屋の寺内貫太郎”というガンコ親父を人気者にした久世さんによって、ハマコーさんがどんな親父になるのかと思ったら、奥さんと娘たちに振り回される“平成のお父さん”だったのに拍子抜けした覚えがある。存在感はすごいのだけど、おぼつかないセリフはどうしてもコントの域を出なかった。
ところで、このドラマの広報を担当していたのが諏訪道彦さん。もともとアニメ界では有名なプロデューサーだったが、本人いわく「たまたま担当アニメがなかったタイミング」で、このドラマの宣伝業務をこなしていた。
「TBSドラマの黄金期をつくった久世さんと、久世さんが声をかけたハマコーさん。それに八千草薫さんですよ。森光子さんも出るし、藤あや子さんも出演だけじゃなくエンディングの歌まで。こんなにワクワクする座組なのに、なかなか数字が取れない。ドラマって難しいです」
諏訪さんはこのドラマが終わると本業のアニメプロデューサーに戻り、96年には「名探偵コナン」をスタートさせる。ドラマの“番宣担当”として学んだ何かが、今でも大ヒットを続ける「コナン」につながったのかどうかは分からないけど。
(テレビコラムニスト・亀井徳明)