【孤独のキネマ】


 シークレット・メロディ
 (新宿ピカデリー他で全国公開中)


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 老若男女、人はみな胸がときめくロマンチックな出会いを求めている。特に10代の無垢な精神に包括された時期はそうした願望が強い。

韓国映画「シークレット・メロディ」は見ている者が若かりし自分を思い浮かべ、恋の切なさにひたることのできる作品だ。


 原案は2007年の台湾映画「言えない秘密」。いわばリメイクだが、台湾版とこの韓国版は演出も味付けもかなり違う。別物として鑑賞できるので安心して劇場に足を運んで欲しい。ちなみに「言えない秘密」は日本でも昨年、京本大我古川琴音のコンビでリメイクされた。


 ドイツで将来を嘱望されたピアニストのユジュン(ド・ギョンス)はスランプになり、実家のある韓国に静養のため帰国。編入した音楽大学を歩いているとき、ふと聞こえてきた美しいメロディにひかれ、練習室を訪ねる。そこで古いピアノを弾いていたのは、同じ3年生のジョンア(ウォン・ジナ)だった。初対面にもかかわらず、目が合った瞬間、2人は運命の音に導かれるように惹かれ合う。


 その日から毎日、キャンパスでお互いを探し、一緒に過ごすことに。息の合った連弾と散歩デートに始まり、ピアノ・バトルに出たり、CDショップで好きな曲を聴かせ合ったりする。自転車を二人乗りし、コンサートに行く約束も。

2人はお互いがなくてはならない存在になっていた。


 しかし、ある日を堺に、2人は突然逢えなくなってしまう……なぜなのか?


 なんとかしてジョンアに会いたいユジュンは彼女を探し求める。そんな折、一本の電話をきっかけに、彼女がいる場所に向かって走り出す。そして彼女もまた、彼の元へと向かうのだった……。



巧妙かつダイナミックな脚本で観客を引き込む

 幼少のみぎりから天才ピアニストと賞賛された大学生が、周囲を魅了する演奏を披露しつつ物語を進める音楽映画。一種のミュージカルとも言えるだろう。筆者のような「ネコ踏んじゃった」も弾けないピアノ音痴は、卓越した演奏技術を見るだけで映像と音響に圧倒されてしまう。


 大学の教室で突然目の前に現れた美女ジョンアに、主人公のユジュンは一目惚れする。キャンパスでたびたび出くわし、一緒の時間を楽しむ間柄になるのだが、ユジュンは彼女がどこに住み、どんな境遇の少女なのかもわからない。


 観客は主人公のもどかしさを共有。ジョンアの正体は何者なのかと思案しつつファンタジックな物語にぐいぐいと引き込まれてしまう。巧妙にしてダイナミックな脚本だ。


 ヒロインが可愛い。ジョンアはいつもニコニコ微笑みかけるが、その反面どこか憂いを秘めている。そして寂しげに去っていく。


 最初はそれほどの美人と思わなかったが、物語が進むうちに演じるウォン・ジナの表情が一輪の野菊のように可憐に迫ってくるから不思議だ。筆者などは「あれ、彼女によく似てるなぁ」と10代のころの初恋の恋人の顔を思い浮かべてしまった。


 ちなみにウォン・ジナは1991年生まれ。なんと現在34歳である。いやはや見た目が若い。というか、若すぎるよ~!


 かくして若い恋人たちは別れという宿命に直面する。その先にある両者の決断とは……。


 不可思議な運命の結末は劇場のスクリーンで確かめてほしい。同時に大人の観客に、かつての甘酸っぱい胸のうずきを蘇らせてもらいたいと思うのだ。

 (配給=クロックワークス)


(文=森田健司)


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