柚香光

花組公演「二人だけの戦場」は1994年に雪組で初演されて好評を博して以来、再演が待望されていた。それが、2023年についに実現した。

タカラヅカでは珍しい裁判劇という形式で物語は進んでいく。「上官殺し」の罪で裁かれようとしているのは、ティエリー・シンクレア少尉。彼は1年前、連邦政府からの独立の気運が高まっている辺境の自治州の基地に自ら志願する。自治州の安定を目指し、意気揚々と赴任したシンクレアだったが、そこで独立を目指す少数民族の娘ライラと出会ったことで、彼の人生は大きく変わっていく。初演された当時に起きていたユーゴスラビア紛争を彷彿とさせる筋立てである。

花組トップスター・柚香光が演じるシンクレアは軍服姿が見目麗しい。

軍務一筋の彼が迷いながらも自ら信じた道を、狂気さえも孕みつつ進んでいく姿は「うたかたの恋」のルドルフにも通じるところがある。こういう役をさせたら右に出るものはいないと思わせる繊細さも魅力的だと思う。
 
注目ポイントは、上官を撃ってしまって正気を失い、震えている時の表情だ。まさに柚香にしか見せられない表情ではないかと思う。

花組トップスター・柚香光の軍服姿が見目麗しい、宝塚歌劇「二人だけの戦場」
星風まどか
星風まどか

⒞宝塚歌劇団  ⒞宝塚クリエイティブアーツ

花組トップ娘役・星風まどかが演じるライラは、自立した賢い女性だなと思う。本当はシンクレアに、軍籍を捨ててでも自分と共に生きてほしいはず。

でも、そういう自分を理性で抑えることができる。その一方で、抑えきれない自分との戦いもあって、言っていることと本音が食い違って混乱してしまうが、そこがいじらしく、同じ女性として共感してしまう。

民族も育った環境も全く異なる主人公カップルにとって、相手の立場に立って考えるというのは難しいことだ。それでも一生懸命寄り添おうとする二人。
 
息の合った芝居を見せるトップコンビだが、2月~5月に上演される「アルカンシェル」での退団が決まっており名残は尽きない。

裁判においてシンクレアを懸命に弁護するのが、親友のクリフォード(永久輝せあ)である。

理想主義者のシンクレアとは違って現実的で割り切ったところがある。そして緊張感の高い場面が続く中で和ませる微笑ましい場面もある。シンクレアとクリフォードの友情の絆も、この作品の見どころの一つだろう。
ライラの弟のアルヴァ(希波らいと)、軍の古参兵のノヴァロ(綺城ひか理)。物語の展開に重要な役割を果たす役どころを、花組男役らしい華やかな存在感で見せる。

脇を固める人々の中ではハウザー大佐(凛城きら)の存在感が光る。

難しい立場に立たされながらもユーモアを忘れない、人間味溢れる人物像を創り上げている。

主人公カップルと対比して描かれるラシュモア軍曹(羽立光来)とエルサ(朝葉ことの)も素敵だ。ラシュモア軍曹は包容力を感じさせるいい男だし、エルサにも愛に生きる潔さがある。
憎まれ役のクェイド少佐(航琉ひびき)は単なる悪人ではなくて、彼は彼なりの論理があって行動しているのだという面を感じさせた。

決して爽快なカタルシスを味わえる作品ではない。自分と異なる立場、価値観を持つ人のことを理解する難しさを改めて突きつけられる。

さりげないセリフのやり取りが、グサグサと胸に突き刺さる。
 
それでも、理解しようとしなくてはいけないのだ、と。これができるだけで、世界の至る所にある争いも少しは防げるかもしれない。だから、やっていこうという努力はしないといけない。希望を残すラストシーンからは、そんなメッセージも伝わってくるのである。

文=中本千晶

放送情報【スカパー!】

二人だけの戦場(’23年花組・梅田芸術劇場)
放送日時:4月6日(土)23:00~ほか
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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