横溝正史の小説「獄門島」は、1947年に発表された古典ともいえる名作。横溝作品のベストワンに挙げられることも多いが、歴代の推理小説のナンバーワンに推す愛好家も数多い。
■孤島を舞台にした恐ろしい連続殺人に金田一耕助が挑む
上川版の金田一耕助といえば、本作の前年に同局で「迷路荘の惨劇」が放送されており、本作は2作目にあたる。上川が演じる金田一は、クセの強い歴代の名優たちとは一線を画した好青年風で、素直で心優しい印象だ。名推理で事件解決こそするものの、やや頼りない感じが逆に好印象で、本作でもその味わいが存分に生かされている。まずはストーリーを紹介しよう。
1946年春。金田一耕助(上川隆也)は、戦地から帰る復員船の中にいた。死亡した戦友・鬼頭千万太に託された手紙とある遺言を伝えるべく、彼が向かうのは江戸時代に流刑の地とされてきた瀬戸内海の孤島・獄門島。
金田一は仙光寺の了然和尚(神山繁)、村長・荒木真喜平(鶴田忍)、医者・村瀬幸庵(寺田農)の連名宛に書かれた千万太の手紙を手渡す。仙光寺に滞在することになった金田一は、本鬼頭の分家・分鬼頭に、了然の使いで千万太の通夜の知らせを伝えに行った。分鬼頭には、当主・儀兵衛(石山律雄)と妻・志保(原田貴和子)、さらに志保と親密そうな居候の復員兵・鵜飼(川村陽介)がいた。その夜、仙光寺の梅の古木に逆さ吊りにされた無惨な花子の死体が発見される。だが、それはまだ惨劇の序章に過ぎなかった...。
■美しく艶のある高島礼子の演技に魅了される
本作はほぼ原作に忠実なストーリーで進行するが、孤島を舞台にした連続殺人の謎と、俳句をモチーフにした見立て殺人、さらに釣鐘を用いた大胆なトリック、殺人の動機ともなった呪われた血縁...。絶海の孤島という格好の舞台を生かしながら、戦後間もない混乱期特有の時代設定も相まって、波乱の展開に最後までくぎ付けにされてしまう。金田一は、戦友の千万太から妹たちの危機を知らされ、「守ってくれ」と遺言されていたのに、叶えることができない。いわば大失態なのだが、上川演じる金田一の素直さもあり、視聴者もイライラすることがあまりない。
ただ、本作の魅力は金田一による事件解明に留まらない。最大の特徴は、高島礼子演じる鬼頭早苗の存在にあると言ってもいい。じつは早苗は、「金田一が唯一愛した女性」とも言われており、原作では島に閉じ込められて不幸な人生を歩んできた早苗に対し、「一緒に東京へ行こう」と誘いをかけている。運命にもてあそばれる美しいヒロインは本作において極めて重要なキャラクターであり、過去には77年映画版では大原麗子、97年版ドラマでは秋吉久美子といった華のある女優が演じてきた。本作の高島は、まさにはまり役で気品を感じさせる美しさと艶のあるセリフ回しで魅了。原作以上に重きを置かれる設定にもなっていて、事実上の主役ともいえるほどの存在感を発揮している。金田一耕助が惹かれてしまうのも当然かもしれない。
ほかの共演者では、金田一の素性を怪しんで誤認逮捕し、留置場に放り込んでしまう清水巡査役の金田明夫が好演。恐ろしいストーリーの中でコメディリリーフ的な役割も果たしている。前作に引き続き、等々力警部役で出演する中村梅雀もじつに味わい深い。ベテラン勢では、神山繁と寺田農がさすがの安定感。
なお「獄門島」といえば、俳句の「季違い」に絡めた、ある重要なセリフが現代では問題視されるために、本作でもその部分は改変されている。しかしその後はオリジナリティ尊重の機運も高まり、2016年放送のNHK-BS版(長谷川博己主演)ではそのまま放送された。そんな裏話を頭に入れておくと、本作もより味わい深く楽しめるかもしれない。
「金田一耕助ファイルII 獄門島」は、上川隆也と高島礼子の演技を存分に堪能できる力作だ。原作での早苗への思いを込めて金田一が東京へと誘うセリフだが、本作ではじつに思いがけない秀逸なアレンジがされているので必見だ。どうか最後までお見逃しなく。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
金田一耕助ファイルII 獄門島
放送日時:2025年7月18日(金)21:00~
放送チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽
※放送スケジュールは変更になる場合があります