今回のコラムのテーマは、『ザ・トラベルナース』(木曜21時。TV朝日)である。


医師の指示で医療行為が出来るアメリカの資格「NP(ナース・プラクティショナー)」を持っている有能な若き看護師・那須田歩(岡田将生)が主人公だ。
フローレンス財団の要請で「天乃総合メディカルセンター」に赴任してきた。
外科の同僚看護師の森口福美(野呂佳代)に
「歩ちゃんー!」
と言われると、
「歩ちゃんはやめてください」
と答えるまだまだ器が小さい未熟な男だ。

岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX...の画像はこちら >>

(岡田将生 イラストby龍女)

今回取り上げたのは、毎週楽しみに観ている秋の新ドラマだから。
大きな理由の一つに、筆者の母が現役の看護師というのも大きい。
だから観ていても、母が
「こういう医者いるいる!」
と家族の会話が弾むのである。

さてこの作品のメインの脚本家は、『ドクターX』を書いた中園ミホだ。
制作会社も同じ渡辺プロダクションの系列のTHE WORKSという布陣なので、ついつい
「これって二番煎じ?」
と思ってしまうのも仕方がないだろう。

2021年の11月11日に放送された『ドクターX』の第7シリーズの第5回に、松下奈緒が演じたナースXが登場していた。
ナースXを主役にしたスピンオフ
「ナースXの方もありかも」
と、制作サイドが思いついただろうとは一視聴者としても想像できる。
『ドクターX』の主演の米倉涼子はシリーズを続けたいとは思っていないらしいと週刊誌にも書かれる位だ。
制作側も新しい医療ドラマはないかと、企画案はあったに相違ない。

しかし、安易に二番煎じと考えるのはなんなので、まずは中園ミホは『ドクターX』以前にどういう作品を手がけてきたか振り返ってみよう。
『ザ・トラベルナース』の原案者でメイン脚本家の
中園ミホ(1959年7月16日生れ)について、過去作を振り返ってみよう。

岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX』の2番煎じ?ドラマ内でも見られる医師と看護師あるあるとは?

(中園ミホ イラストby龍女)

日本大学芸術学部放送学科卒業後、広告代理店OLから占い師を経て、脚本家になった。
ある大物脚本家を好きになって、追いかけていた結果、脚本家の修行をしていたことになったそうだ(TV番組『僕らの時代』にて)。

筆者が初めて中園ミホを認識して観たのは
月9の『やまとなでしこ』(2000年10月~12月)である。

岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX』の2番煎じ?ドラマ内でも見られる医師と看護師あるあるとは?

(『やまとなでしこ』の松嶋菜々子 イラストby龍女)

日テレの水曜22時のドラマ、働く女性を主人公にしたドラマ枠で日芸の先輩(学科は文芸学科の方なので直接ではない)にあたる
林真理子(1954年4月1日生れ)の小説を原作とする
『anego』(2005年4月~6月)の主演を務めたのが
篠原涼子(1973年8月13日生れ)である。
そして同じ脚本家・主演コンビのオリジナル企画として同じ時間帯で放送された
『ハケンの品格』(2007年1月~3月)は大評判となった。
実はここで登場する主人公のスーパー派遣社員大前春子(篠原涼子)は、これ以降の中園ミホのシリーズドラマの主人公の型を決めた。

岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX』の2番煎じ?ドラマ内でも見られる医師と看護師あるあるとは?

(『ハケンの品格』の篠原涼子 イラストby龍女)

特別なスキルを身につけた派遣労働の主人公である。
つまり、後にその年の優れたオリジナル脚本のTVドラマが選ばれる第31回の向田邦子賞を受賞した
『ドクターX』の大門未知子(米倉涼子)も派遣の主人公という点では、大前春子と同じだ。
『ザ・トラベルナース』の主人公も派遣の看護師だ。
むしろ中園ミホの派遣のスーパーヒーロー第3弾と位置づけた方が正しいかもしれない。


岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX』の2番煎じ?ドラマ内でも見られる医師と看護師あるあるとは?

(『ドクターX』の米倉涼子 イラストby龍女)

中園ミホはその後、日本のTVドラマの脚本家の頂点の仕事であるNHKの二つの看板番組もクリアした。
朝ドラは『花子とアン』(2014年4月~9月)

岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX』の2番煎じ?ドラマ内でも見られる医師と看護師あるあるとは?

(『花子とアン』の仲間由紀恵 イラストby龍女)

大河ドラマは『西郷どん』(2018年)である。

岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX』の2番煎じ?ドラマ内でも見られる医師と看護師あるあるとは?

(『西郷どん』で西郷隆盛を演じる鈴木亮平)

さて今回の中園ミホの新作は、期間限定で病院に派遣されて働く
「トラベルナース」である。
筆者は、アメリカで、各州の病院を渡り歩いているナースがいると言うニュースを耳にしていた。
コロナ禍でどの医療機関も人材不足にあえいでいるので、資格はあるが休業中の看護師を募集しているくらいである。
このドラマのスポンサーにも、看護師の派遣会社のナースパワーがいるくらいだから、そういったメッセージも含まれた内容でもあるのだ。
筆者が想像していたより速くドラマに取り上げられたので、その興味もあって楽しく観ている現状である。

次のページでは、筆者が5回までの『ザ・トラベルナース』のエピソードを振り返りつつ、イラストを描きながら看護師の母と会話した中で見つけた看護師あるあるを紹介していこう。
中園ミホは、「取材力」に定評がある。
シナリオのキャラクターの作り方においては、ベタで外連味(けれんみ)を好むがそれを支える細部においてはかなりリアルであると断言できる。
どこがリアルなのか?
細かく観ていこう。

前提として、ナース・看護師・看護士・看護婦の違いを説明しておこう。

ナースは、日本の看護師の中では自分達をさすときに使われる頻度が高い用語だ。
しかし元々は保育士や乳母をさす広義の単語で、詳しくは後でフローレンス・ナイチンゲールの説明のところで述べる。
看護師は2001年から男女問わず看護職の資格名に統一された名称である。
看護婦が元あった名称で、1968年の保健婦助産婦看護婦法改正後に、男性看護師は「看護士」と呼ばれるようになり、2000年まで男性が「看護士」女性が「看護婦」である。
つまり看護師を小説なりシナリオなり創作物に登場させる場合、この時代背景さえ知っていれば、どの時代を舞台にしたいかで「看護婦」という名称を使うことも可能になる。

フローレンス・ナイチンゲールは何故偉大なのか?
ドラマの冒頭でナレーションの遠藤憲一はフローレンス・ナイチンゲール(1820~1910)について言及している。
ドラマ内でも主人公の那須田歩(岡田将生)に対する鬼軍曹的な(第5回の最後で、鬼軍曹どころではないと判る)役割の
九鬼静(中井貴一)が度々フローレンス・ナイチンゲールの言葉を引用している。

出典元は、フローレンス・ナイチンゲールの記述をまとめた『看護覚書き』を始めとする著作集である。
筆者の母も若い頃よく読んだそうである。

岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX』の2番煎じ?ドラマ内でも見られる医師と看護師あるあるとは?

(フローレンス・ナイチンゲールの肖像写真の模写 イラストby龍女)

どうして、フローレンス・ナイチンゲールが偉大なのか?
ナイチンゲールが登場する以前の看護師は二つの階層が存在していた。
階級が低い人は家政婦や乳母の一種として従事していた。
時には売春婦まがいなことをしていたので、差別の対象にもなっていた。

一方で、上流階級に属する女性が無償ボランティアとして従事する仕事の一種としてだ。
どっちにしても重労働の割には、女性が従事する職もあって社会的に低く見られていた。
上流階級(ジェントリ)出身の子女だったフローレンス・ナイチンゲールは独立した職業としての看護師を確立した近代看護の祖と言われている。
1853年から56年まで帝国時代のロシアとイギリスを始めとする欧州数カ国で戦ったクリミア戦争で、フローレンス・ナイチンゲールは有名になった。
2014年、ロシアに一方的に併合されたクリミア半島は係争地である。
『ザ・トラベルナース』の第1回に、九鬼静(中井貴一)は掃除をひたすらして「天乃総合メディカルセンター」の状況を探っているシーンがあった。
これは、クリミア戦争時にナイチンゲールがまず最初に行った改革が野戦病院を清潔にすることだった。
だが、フローレンス・ナイチンゲールが現場の看護師として活躍したのはこの時くらいだ。
実は病気のため、ベッドで過ごすことが多くなった。
看護師の社会的地位の向上のための論文提出などで、統計学や衛生学を駆使して政府にプレゼンして新しい公立病院の建設に寄与している。
前堤は長くなったが、看護師あるある(+医師)、いってみよう。

①看護部長の立ち回り方は計算ずく
ドラマに登場する病院の外科のナースのリーダーの看護部長は
愛川塔子(寺島しのぶ)である。


岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX』の2番煎じ?ドラマ内でも見られる医師と看護師あるあるとは?

(寺島しのぶが演じる愛川塔子 イラストby龍女)

下の立場の看護師が何か失敗したときに上司に謝って、次はどう身の処し方をするか計算している。
第6話では、彼女のメインのエピソードになるらしいので楽しみである。

ちなみに過去のTVドラマで、筆者が思う看護部長が似合う俳優は2人いる。
柄本明の妻で佑・時生の母でもある角替和枝(1954~2018)だ。
角替和枝は共働きの俳優で、筆者から観て看護師である母(父は会社員)とよく似たせっかちな性格がにじみ出ている。
もう一人は、大島蓉子(1953年1月22日生れ)である。
独身の看護師によくいる雰囲気で、ダメ男に引っかかりそうな危うさがにじみ出ている。
2時間ドラマで悪事に荷担してしまう役を演じていた。
二人とも違うタイプだが、仕切るのが上手そうな雰囲気は共通している。

②女性の看護師は離婚率が高い
民間のデータ(HATARAKI NURSE)だが、看護師を対象に行ったアンケート調査によると、離婚率が高いと思うと回答した看護師は全体の73.6%だったそうだ。

第5回のメインのエピソード主役は、金谷吉子(安達祐実)であった。
入院してきた講談師の五反田宝山(松尾諭)と、実は元夫婦というエピソードが興味深かった。

演じている安達祐実が実際に芸人のスピードワゴンの井戸田潤と夫婦だったので、余計面白かったが、調べてみると、芸人と看護師の夫婦は有名なのが3組あった。
オードリーの若林正恭、ピン芸人のあばれる君、アキラ100%である。
更に芸人になってしまった看護師に、おかずクラブのオカリナ、天才ピアニストのますみ(上沼恵美子の物真似で有名)がいる。
看護師は必ず需要のある職業なので、収入が女性の中で安定している側面があるせいか収入の不安定な職業の男性とのカップルが発生しやすい。
その一例が芸人であり、そこをついた看護師あるあるであった。
しかし、女性の方に経済的基盤がしっかりとあるために、離婚を決断しやすい側面もある。
看護師は体が元気な内は非常に忙しい仕事なので、私生活で男性が癒されることに期待をしてはいけない。

岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX』の2番煎じ?ドラマ内でも見られる医師と看護師あるあるとは?

(安達祐実演じる金谷吉子 イラストby龍女)

では、次のページは医師と看護師の関係と、医師の労働環境の問題点と、最後にこのドラマの主役である男性の看護師についても取材で得た実態を紹介していこう。
③看護師を下に見る医者がいる

天乃総合メディカルセンターの外科医で2番目の立場の古谷亘(吉田ウーロン太)は、深夜に患者が急変して仮眠中に看護師から電話がかかる。
何らかの処置をする判断を仰がなければならないときに、逆ギレしてすぐに判断を下さなかった。

岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX』の2番煎じ?ドラマ内でも見られる医師と看護師あるあるとは?

(吉田ウーロン太が演じる古谷亘 イラストby龍女)

「天乃総合メディカルセンター」の院長の天乃隆之介(松平健)は、経営第一で、看護師や医師はすぐに変えられると思っている。
しかし、人を切り捨てられると思っている人は、いずれ他人からも切り捨てられる。
第6回では、看護部長(寺島しのぶ)が矢面に立たされることによって 、それが浮き彫りになるエピソードのようだ。

天乃隆之介には、後継者として内科医の天乃太郎(泉澤祐希)がいる。
いずれはトップになるプレッシャーで腹を下したりして悩んではいるが、プレッシャーで悩むよりも大事なところがある。
太郎が、リーダーとして致命的な欠点は看護師一人一人の名前を覚えていないところである。
「おい」「君」とか個人名を呼ばないことがいかに相手に対して失礼なことか。
これは社会人全体としても重要なスキルかもしれない。
ホテルのベルボーイは宿泊客の名前を覚える能力が求められる。
俳優の世界でも「座長」の立場になる主役級の俳優は、共演者以外にもスタッフの名前を覚えている人は間違いなくその役割を続けられることだろう。
木村拓哉や小栗旬が主役が出来るのはそういう一面もある。
おそらく、舞台で座長を務めることが多い松平健にもそういう面もあろう。
彼の場合は料理がうまいので、みんなに食事を振る舞う事で心を掴んでいる面の方が強調されやすい。

岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX』の2番煎じ?ドラマ内でも見られる医師と看護師あるあるとは?

(松平健演じる天乃隆之介 イラストby龍女)

今回のドラマでは、外科医のトップである外科部長の神野博道(六角精児)がグルメ担当の役割を一手に担っている。

④女医の数がまだまだ少ないし、儲かる女医と損する女医がいる。
外科医達の中で、一番下の立場にいるのが郡司真都(菜々緒)である。
大学の医学部の試験で試験の合否判断で、男性の受験者と女性の受験者の間に不正があったことがニュースになっていた。
そもそも女医を採用する気がない育成する気もない大学の態度に呆れるが、女性と男性に学力の差はなく、そんなモノは個人差である。
さて、医師は儲かる商売だと思われるが、それは担当する科によって違うと言わざる得ない。
郡司は女医仲間の食事会に高級そうなホテルで集まっているが、その仲間の多くは美容整形をやっているように見受けられる。
これは美容整形は分かり易い病気を治療するためではないので、保険が利かないので高額医療費を患者から貰えるからだ。
儲かっている業種がすぐに分かるCMの世界では、医療関係の広告が多いのは圧倒的に美容整形だ。

岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX』の2番煎じ?ドラマ内でも見られる医師と看護師あるあるとは?

(菜々緒演じる郡司真都 イラストby龍女)

⑤男性の看護師は女子力が高い
看護師の母によれば、男性の看護師には大きく二つのタイプに分れるそうだ。
いばりん坊と、女子力が高い細かいところに気がつく人だ。
主人公の那須田歩(岡田将生)は前者(料理上手なので後者の部分もある)、九鬼静(中井貴一)は後者に大きく分けられる。
実際、筆者が会った事がある男性の看護師は後者の女子力高めのタイプだった。
これは医師と看護師の仕事の内容の違いによる。
医師は患者の病気に対してどう治療を施すか判断するのが主な役割。
看護師は病気で不安になっている患者自体に寄り添うのが役割だ。
そもそも役割が違うからそこに上下を付けようとする態度自体がおかしい。

那須田歩(岡田将生)は元々医師になりたかったが母親を早くに亡くし経済的に貧しかったので看護師の勉強をしてアメリカでNPの資格をとった。
第5回で九鬼からその一番痛いところを突かれてしまう。

岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX』の2番煎じ?ドラマ内でも見られる医師と看護師あるあるとは?

(中井貴一が演じる九鬼静 イラストby龍女)

実は看護師にむいている人の性格というのは、非常に俳優の資質に似ていることに気づいた。
俗に女優は男らしく、男優は女々しいと言われる。
過去に看護師を演じた人で思い出すのは、『ナースマン』(2002年1月~3月)の松岡昌宏や
ごく最近では当コラムでも取り上げた『にじいろカルテ』(2021年1月~3月)の北村匠海である。

岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』は『ドクターX』の2番煎じ?ドラマ内でも見られる医師と看護師あるあるとは?

(『にじいろカルテ』の北村匠海 イラストby龍女)

この際だから、医者を演じるのも結構だが、今後はあらゆる男優達がナース役に挑戦してみてはいかがだろうか?

『ザ・トラベルナース』は、『ドクターX』の2番煎じではないだろう。
副主人公の中井貴一の役の方がこれまでの中園ミホの作品の主役感が大きい。
何より主人公が失敗して学んでいく過程を描く成長譚が軸として大きいので、
「私、失敗しないので」
の大門未知子(米倉涼子)とはむしろ対照的な存在である。

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