スマホ向けをはじめとする基本無料ゲームは、大ヒットすれば月に何億、何十億円もの売り上げを叩き出す一方、収益が見込めず半年も経たずに終了する作品も少なくない、明暗がはっきりと分かれる過酷な戦場です。

10年以上もランキング上位に顔を出し続ける『パズル&ドラゴンズ』のようなモンスター級の作品もあれば、家庭用向け人気RPGシリーズのスピンオフ作品があっさり終了するケースもあり、事前にその成功や失敗を見切るのはかなり難しいところです。


荒波とも思える厳しいこの世界で、『勝利の女神:NIKKE』は先日、サービス開始から1周年を迎えました。本作がなぜ、荒れる海を乗り越えられたのか。1年間遊び続けてきたプレイヤーの視点から、その人気と盛り上がりに迫ります。

■『勝利の女神:NIKKE』が与えた最初の印象
昨年の11月4日に正式サービスを開始した『勝利の女神:NIKKE』は、“背中で魅せるガンガールRPG”という触れ込みで発表された新規IPでした。この“背中”は、射撃時の姿勢を指しており、作中で戦う少女たち“ニケ”の後姿にフィーチャーした戦闘画面を売りにしたものです。

文章としては、あくまで“背中”を強調していますが、プレイヤーがつい視線を向けてしまうのは、やはり“お尻”の部分。
明言こそされていませんが、キャラクターデザインは全般的に肉感的な方向性が強く、その“お尻”を魅力的に描くフォルムや形状も少なくありません。

そのため『勝利の女神:NIKKE』は、リリース前から“尻ゲー”として語られ、たびたび話題になりました。どんな形であれ、基本無料ゲームは話題にならなければまず成功しません。シリーズものではなく新規IPであれば、その傾向はなおさら強まります。その意味では、『勝利の女神:NIKKE』の第一歩は“お尻”で成功した側面も確実にあるでしょう。

ですが、キャッチーな要素は飽きられるのも早く、あっという間に廃れます。
“尻ゲー”として話題になった『勝利の女神:NIKKE』についても、これは一時的な熱だろうと判断し、「この勢いはすぐになくなる」と見る人もある程度いました。

しかし本作は、好評な出足を見せたサービス開始以降もたびたび話題となり、ランキングも好調に推移。後にPC版もリリースするなど展開も広がりを見せ、活躍の場を広げました。

なぜ『勝利の女神:NIKKE』は、ユーザーを魅了し続け、支持を集めているのか。そこには、ある種の“裏切り”が大きく影響したものと思われます。

■“お尻”に釣られた直後、シナリオのガチぶりにめった打ち
最初期のプレイヤーたちは、エイムを駆使するシューティングバトルに興味を持った人もいるかと思いますが、やはりニケたちの容姿やスタイル(もちろんお尻の曲線美も含め)に惹かれ、プレイを始めた方も多くいました。
少なくとも、一定層の訴求に成功するほどビジュアルとデザインが魅力的だった点は、客観的に見ても否めないでしょう。

ほかの基本無料ゲームでもよくあるように、その“見た目”に惹かれてプレイを始めた方が出迎えた『勝利の女神:NIKKE』は、しかし開始直後にプレイヤーを大きく裏切ります。

その裏切りとはまず、地力の高いシナリオでした。乱暴な表現になりますが、「背中で魅せるとか言うけど、しょせんお尻ゲーだろ?」と見積もって遊び始めたユーザー達は、まずは最序盤に訪れるチュートリアルの衝撃に打ち抜かれます。

この記事を読んでいる人の多くは、まだ本作をプレイしておらず、今後プレイする機会のある方々だと思うので、直接的なネタバレは避けておきます。しかし、「まずはゲームシステムの紹介だろう」と油断していた当時のユーザーたちは、本作をプレイし続ける限り忘れがたい驚きと悔恨をここで刻まれ、同時に『勝利の女神:NIKKE』の世界観をその身で思い知りました。


その後のシナリオも、人間の愚かさから世界の過酷さ、人類が犯した大きな過ち、しかし絶望に抗うに人々とニケの姿を力強く描き、見る者の目を奪います。また時には、周到に張られた伏線を回収するなど、綿密な構成力に唸らされることも少なくありません。

色眼鏡で見ていた一部ユーザーの「“お尻”で一発当ててやろう的なゲーム」といった推測は全く外れており、中・長期を見据えたシナリオ展開を敷いていることが序盤から明確でした。

もちろん、“お尻”で認知を稼ぐ狙いはあったのでしょうし、それを否定する人は『勝利の女神:NIKKE』ユーザーの中にもいないでしょう。しかし、長くプレイを続けているモチベーションとして、このキャラクターたちとシナリオの行く末を見届けたい、という想いが大きく占めているのも事実です。

それぞれの好みの違いや一部のイベントシナリオで合う・合わないこそありますが、シナリオ全般を通して高く評価するユーザーがかなり多く、コミュニティでもシナリオ展開について大きな盛り上がりをたびたび見せています。


お尻に惹かれてゲームを始めたはずなのに、シナリオにどっぷりとハマる。そんな自分を事前に想像していたユーザーは、かなり少ないはず。恥ずかしながら筆者も、そのうちのひとりです。

これほどの“裏切り”に出くわすとは、全くの予想外。同時にそれは、“嬉しい裏切り”でもありました。

■天井あり、しかも持ち越しも……? 予想以上に優しかった『勝利の女神:NIKKE』のガチャ
こうした“嬉しい裏切り”は、『勝利の女神:NIKKE』を遊び続けると随所に見つかります。
心地よい効果音や演出の支えもあって、シューティングバトルは手ごたえ十分。敵が手ごわくて行き詰った時も、編成するニケを入れ替えて新たなシナジーを見つけたり、敵を倒す順番を変えたりといった試行錯誤もまた、遊び甲斐のあるひとときです。

一方で、十分な戦力がある場合はオート射撃をONにして任せられるのも、嬉しいポイントのひとつ。また、バトルはSTGですがベースのジャンルはRPGなので、どれほど腕が立つ人でもニケを育成しなければ先に進めません。その意味では、テクニックによるプレイヤー間の差は、純粋なアクションゲームやSTGほど大きくないので安心してください。

また、さきほど挙げた“予想しなかった裏切り”として、課金要素もこれに当てはまります。改めて言うまでもありませんが、基本無料のゲームはお金を払わずに遊べるものの、なんらかの形で収益を得る手段が盛り込まれています。

「広告の表示」という手もありますが、同じくらいポピュラーなのが「有料アイテムの販売」。いわゆる課金要素です。ゲームによっては、キャラクターの獲得や便利なアイテムを入手するための手段として課金要素を置く場合が多く、『勝利の女神:NIKKE』もこのパターンに当てはまります。

本作の課金要素は、コスチュームやパス、アイテムなども対象ですが、ニケを獲得できる「募集」(いわゆるガチャ)に必要な「ジュエル」の入手が大きなウェイトを占めています。

このジュエルやガチャを回せる「チケット」は、プレイするだけでもらえますが、その数は限られており、その範囲で欲しいニケが手に入るかどうかは運次第。惜しくも届かず、それでも今すぐ欲しい場合、課金要素に手を出すしかありません。

……という大まかな流れは、他のゲームにも共通している部分なので、『勝利の女神:NIKKE』が特にどうこうという話ではありません。しかし、この課金要素を細かく見ていくと、ちょっと驚かされます。

まず、キャラクター(本作の場合はニケ)をガチャで引くゲームの場合、最高レアを引く確率は作品によってまちまちですが、最高レア全体の排出率は1~3%程度、その中でピックアップされているキャラがいる場合は0.5~1%くらいの確率に設定しているゲームが多めです。

例えば『ウマ娘 プリティーダービー』の場合、最高レアの★3育成ウマ娘全体の排出率は3%、そしてピックアップされている★3ウマ娘は0.75%。『Fate/Grand Order』なら、最高レアの★5サーヴァント全体が1%、ピックアップの★5サーヴァントが出る確率は0.8%となります。(記事執筆時点で行われているガチャの場合)

こうした数字が並ぶ中、『勝利の女神:NIKKE』の場合、最高レアのSSRニケを引く確率は4%。あらゆるゲームよりも、とはさすがに言えませんが、一般的なガチャよりもやや高めの数値が設定されています。

またピックアップされているニケの排出率は、大半のガチャで2%。一部特殊なニケのみ1%まで絞られますが、こちらのケースは1年を通しても片手で数えられる程度。大半は2%で設定されていますし、1%の場合でも他のゲームと比べて特段低いわけではありません。

しかし、『勝利の女神:NIKKE』のガチャで特筆したい点はむしろここから。ピックアップされたニケを狙う「期間限定募集」を1回行うごとに、「ゴールドマイレージチケット」(以下、金マイ)が1枚もらえます。

この金マイを200枚貯めると、ゲーム内のショップでピックアップされたニケと交換可能。つまり、どれだけ運が悪くて外れ続けても、ピックアップガチャに200回挑めば確実にピックアップのニケが入手できるのです。

これは、いわゆる「天井」と呼ばれるシステムの一種で、存在自体は珍しいものではありません。さきほど名前を挙げた『FGO』や『ウマ娘』にも、天井に達すると対象を得られるシステムがあります。

ですが『FGO』や『ウマ娘』の場合、天井はそれぞれのガチャと紐づいています。一方『勝利の女神:NIKKE』は、例えば「A」というキャラを狙って金マイを200枚手に入れたとして、その次にピックアップされた「B」という別キャラの獲得に、以前手に入れた金マイを使えるのです。

金マイを貯め込んでおくだけで、ガチャに登場する新ニケを確実に入手可能。基本無料ゲームに良くある、「絶対欲しかったのに、手に入らなかった……」という悲劇とは無縁でいられます。

「ガチャ」の確率は比較的高めで、持ち越し可能な天井要素「金マイ」の存在もあるなど、課金要素もいい意味で裏切ってくれた『勝利の女神:NIKKE』。この金マイがあるから(=気に入ったピックアップのニケを確実に手に入れられるから)安心して遊べる、といった声も多く聞きます。

■インフレも緩やかで、“強いニケ”を長く使える
ガチャが比較的易しめなのは、ユーザーにとって嬉しい利点です。しかし、“強さのインフレ”が激しかったら話はまったくの別モノ。「こいつがいないと、ここから先の攻略はキツイ」というキャラが毎月のように出てきたら、誰でも課金疲れに陥ることでしょう。

ですが、この点も『勝利の女神:NIKKE』はユーザーの予想を超える安定ぶりを見せています。俗に言う“最強キャラ”が何度も更新されると、追いかけるのも一苦労になりますが、本作の“最強キャラ”のインフレはかなり緩やかなものでした。

まず、大ダメージを叩き出す火力系は、現時点では「アリス」と「モダニア」が2大巨頭。ここに続くニケも何人かいますが、頭ひとつ抜けているのはこのふたりです。そのうち、モダニアが新実装されたのは今年の1月。アリスに至っては最初期から実装されており、1周年を迎えてもなおトップクラスに居続けています。

火力担当だけ見ても、そのトップクラスは今年の1月から更新されておらず、その活躍は現在も進行系。また火力担当以外でも、強力なバフやクールタイム短縮、遮蔽物の回復など総合力の高い「リター」や、味方全体への無敵付与による難所のピンポイント起用や対人戦で唯一無二の働きを見せる「ノア」も、アリスと同様の初期組です。

この1年で新実装された中には、レギュラー入りする強みを持ったニケも複数いましたが、リターやアリスに替わる人材はまだおらず、全体的なインフレはかなり緩やかな部類です。

強いと評判のキャラを手に入れて育てたのに、もっと強いキャラがすぐ実装された──基本無料のゲームを遊んでいると、こんな展開もしばしば味わいます。本作も長い目で見れば、いずれ“この時”を迎えますが、少なくともここまでの1年間はそのサイクルが非常に緩やかでした。

「インフレが進む方が刺激的」という見方もあるので、どちらが良いとは一概に決められませんが、“加速する強さの競争”に疲れたユーザーにとっては、『勝利の女神:NIKKE』のペースが嬉しく感じることでしょう。

■これから始めても十分楽しめそうな『勝利の女神:NIKKE』
牽引力のあるシナリオで一気に引き込み、ガチャの設定は控えめで「天井」の持ち越しアリ、強さのインフレも抑えめと、凡庸な基本無料系ゲームと比べて良い意味で方向性が異なる『勝利の女神:NIKKE』。

単なる“尻ゲー”かと思って始めたら予想のことごとくが裏切られ、1年を通してなお遊び続ける常駐ソフトになっていました。筆者ほどではなくとも、シナリオの訴求力や金マイによる救済に驚いた方も少なくないのでは。

こうした理由から、本作は単なる一発屋では終わらず、1周年を迎えてもなお盛り上がる作品として好評を博しています。

サービス開始から1年が経過したゲームですが、これから遊び始めても決して遅くはありません。シナリオの魅力は今も健在ですし、インフレも緩やかなので時間をかけて戦力を揃えても腐りにくく、焦ることなく自分のペースで楽しめます。

PvP要素はユーザー間の差が出やすいものの、「ランキング上位者だけがもらえる限定ニケ!」みたいな報酬はないので、ほどほどでいいと割り切れば大きな問題はありません。

しかもこのタイミングで始めれば、1周年記念に合わせた様々なプレゼントがもらえます。例えば、ログインするだけでピックアップが狙える高級チケットが30枚、イベントストーリーのログインおよびプレイ(ミニゲーム含む)で最大40枚もらえるので、合計70回分のピックアップガチャに挑むことが可能。もちろん、今後に持ち越すのもアリです。

また、SSRニケ「スノーホワイト:イノセントデイズ」が、ログインとイベントのプレイで最大4体もらえます。プレイ開始直後の新規ユーザーには間違いなく有用な戦力なので、頼もしくて可愛い新ニケもぜひ手に入れましょう。

ニケの“お尻”が魅力なのも、まごうことなき事実。ですが、それだけで見切りをつけるにはもったいない、しっかりと練られている“ゲーム”なので、興味が沸いた方はぜひ『勝利の女神:NIKKE』を遊んでみてください。十分な性能のパソコンをお持ちなら、PC版でのプレイもお勧めですよ。