新型コロナウイルス流行によるパニックで、日本ではマスク・トイレットペーパーなどの紙類・生理用品などが買い占められる騒動が起こりました。

筆者の自宅近くのスーパーやドラッグストアでもトイレットペーパーや生理用品が品薄となり「お1人様1点でお願いします」と貼り紙がされている有様でした。


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しかしよく見ると、生理用ナプキンの棚が空っぽになっている隣には、タンポンがたっぷりと売れ残っています。

そう、実は欧米では5割の女性が使っているというポピュラーな生理用品のタンポンですが、日本で使用しているのは生理のある女性全体の2割程度と、驚くほど使われていないのです。

2020年現在タンポンの製造・販売を行っているメーカーは、ユニ・チャーム1社のみです。
生理用ナプキンは5社以上がしのぎを削っているというのに、この差は何なのでしょうか?

■「タンポン」が日本であまり普及していないワケは歴史の中にあった!?

欧米と比べて日本でタンポンが生理用品として普及しなかった背景には、日本の歴史の中の「女性に求められた貞操観念」の影響がありました。

女性に求められた貞操観念。「タンポン」が日本であまり普及していない理由は歴史の中に


「於鹿鳴館貴婦人慈善会之図」揚洲周延 画

明治時代以降、上流階級の女性たちを対象に、西洋医学を学んだ医師たちによる「月経とは」「月経時の摂生法」「経血処置の方法」などの「教育」が行われるようになりました。

明治時代の「富国強兵」のために国が目指したのは、「上流階級の体質優秀なる女性」に「優秀な国民」を産ませることで、そのためにはこの階級の女性たちの「月経の管理」までも国が行うべき!と考えられたのです。

このときに医師たちは「詰めもの(タンポン)」はやめて「当てもの(ナプキン)」にするべきと指導を行いました。

その理由としては「取り出せなくなったり、それが原因で一生治らないような病気になることがあるから」という意見のほかに、こんなものもありました。

女子は月経という生殖器に充血を起こすべき時があるので、この前後には、生殖器の亢奮性が高まり、手淫を行うものであるから、日本風の月経時のたんぽん、日本人の所謂しのび綿(タンポンと同様に綿を丸めて詰める処置法)、或いはしのび紙なるもの、或いは西洋人の月経帯と名づくるものは注意すべきものである
(『婦人家庭衛生学』(丸善、1916年)/大阪府医師会初代会長・緒方正清)

要は「月経時の女性はムラムラしやすいので、そんなときに大事なところにタンポンを入れたり、体に密着する月経帯を使ったりすべきではない」という、かなりの「トンデモ理論」です。
現代でも、女性の月経についてこのような勘違いをしている男性が、一定数残っているようです。

■現代でも残る日本女性のタンポンへの「誤解」

1938(昭和13)年、生理用品としてのタンポンは「さんぽん」という商品名で、日本では初めて合資会社桜ヶ丘研究所(現・エーザイ株式会社)より発売されました。

しかしこの時も「女の神聖なところに男以外の物を入れるとは何事ぞ!」という(現代の感覚からすればかなりトンデモな)医師たちからの猛反発がありました。


こうした(男性)社会の「女性の体は女性本人のものではないから、勝手に自分で管理すべきではない」という啓蒙活動や「タンポンは抜けなくなるかもしれない」「病気になる」「処女がタンポンを使うと処女膜が破れてお嫁に行けなくなる」などの脅しが功を奏したのか、日本の女性たちはタンポンに対しかなりの不安や恐怖心を持つようになりました。

女性に求められた貞操観念。「タンポン」が日本であまり普及していない理由は歴史の中に


1970年代になってもこの風潮はなくならず、社会問題化した「少女売春」の原因はタンポンの使用だ!というこれまたトンデモな理論が当然のように主張されました。

これらの結果「日本のナプキンの品質は世界一」といわれるレベルとなり、タンポン派はさらに増えなくなっているのが現状なのです。

参考
タンポン、不遇の歴史(戦前編)
タンポン、不遇の歴史(戦後編)

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan

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