■歴史小説と時代小説の違い
一般的に混同されがちな「歴史小説」と「時代小説」。実は文学的には明確な違いがある。
歴史小説は、歴史上現実に存在した人物を史実に基づき描くことに対して、時代小説は主要な登場人物が必ずしも歴史上存在したとは限らず、事実関係も作者の創作である場合が多い。歴史小説はノンフィクションベース、時代小説はフィクションベースのジャンルといえるだろう。
■おすすめ作家3選
日本の歴史・時代小説を語る上で知っておきたい作家は多い。すべてを紹介することはできないため、この記事では3人に絞ってみたいと思う。
司馬遼太郎 大阪出身。新聞記者を経て作家へ。昭和を代表する歴史作家として数々の名作を生み出す。映画化やドラマ化など映像化された作品も多数。独自の史観から構成される歴史解釈は“司馬史観”と呼ばれ、現在でも広く読み継がれている。
・代表作
「梟の城」・・・太閤秀吉暗殺の依頼を受けた伊賀忍者「葛籠重蔵(つづらじゅうぞう)」の活躍を描く。
「竜馬がゆく」・・・明治維新下の日本。土佐脱藩浪士である坂本龍馬の生涯を描いた司馬の代表作。現在の龍馬のイメージはこの作品の影響が強いといわれている。
「国盗り物語」・・・一介の油売りから美濃の国守へと上り詰めた斎藤道三と、尾張の若き武将織田信長の活躍を描いた人気作品。
「坂の上の雲」・・・明治維新以降、国際社会の中で軍事国家として成長する日本を、秋山好古、秋山真之、正岡子規という3人の主人公の生涯を軸に描いた名作。
吉川英治 大衆文学の代表的作家。神奈川県出身。勤務していた新聞社が関東大震災の影響で解散したことを契機に作家として一本立ち。その後数々のヒット作を発表する。
・代表作
「宮本武蔵」・・・言わずと知れた吉川英治の代表作。江戸期に活躍した剣豪・宮本武蔵の生涯を描く。
「新・平家物語」・・・題材は平家物語だけに止まらず、複数の資料を元に平安時代から鎌倉時代の戦乱期を描いた吉川後期の代表作。
藤沢周平 山形県出身。時代小説を中心に多くの作品を残した。中でも山形県をモデルにしたと思われる架空の藩、海坂藩を舞台とした作品シリーズは多くのファンを魅了している。
・代表作
「たそがれ清兵衛」・・・海坂藩に属する無形流の達人・井口清兵衛は家老同士の勢力争いに巻き込まれ上意討ちを命じられるが⋯⋯。真田広之主演で実写映画化もされた藤沢周平の代表作。
「蝉しぐれ」・・・たそがれ清兵衛と同様に、架空の藩である海坂藩が舞台。父をなくした主人公牧文四郎と隣家の娘小柳ふくとの恋愛を軸に展開される物語。
■代表作は読破すべし
紹介した3名の作家は、いずれも日本の文学史上に名を残す大作家だ。
司馬遼太郎は歴史・時代小説の枠に収まらず、日本の代表的な作家の一人といえる。
吉川英治は大衆文学的な時代小説を世の中に浸透させた功労者であり、彼の名前を冠した文学賞も存在するほど著名な作家。代表作は押さえておきたい。
映像化作品が多くアカデミー賞受賞作品もある藤沢周平の著書は、実写版を視聴済みの方もいるかもしれない。実写とは違った魅力の原作も素晴らしい。
いずれの作家の作品も名作揃いであるため、興味がある方は是非この機会に読んでみてはいかがだろうか。
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan