類稀なる才能を持ち異例の出世を遂げたことから、快く思わぬ貴族達の奸計に嵌められ京の都を追い出され、九州の太宰府へと左遷されてしまった菅原道真公。

幼少時から道真公を見守り、愛されてきた庭の梅は、道真公のお側に行きたい一心で、京から海を越え太宰府まで飛んで行きました。

そんな「飛び梅伝説」と、現在では福岡の太宰府天満宮の神木となっている紅梅の木をご紹介しましょう。

前編の記事はこちら

会いたくて…主を慕い都から海をひとっ飛び。樹齢千年「飛び梅伝説」の梅が咲く春が来た 【前編】

■愛する梅の木に別れを告げる

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菅原道真公(小林清親)

異例の出世を遂げる菅原道真を妬み、偽りの報告を時の天皇に告げた藤原時平。そのせいで、道真は九州の太宰府に左遷されることとなりました。

住み慣れた京の都の屋敷を去らねばならなくなった道真公は、幼少期から大事にしていた紅梅の木に別れを告げます。

5歳のときに「美しや 紅の色なる梅の花…」と詠んだあの梅の木です。(【前編】をごらんください)

「東風ふかば 匂ひをこせよ 梅の花あるじなしとて 春な忘れそ」

(東風が吹いたら 匂いを私の元によこしておくれ 梅の花よ。主人である私がいなくなっても春を忘れてはいけないよ)

道真公が57歳のときのこと。生まれてから60年近くもずっと一緒に育ち、慈しんできた梅の木に別れを告げるのは冤罪の無念も含め、断腸の思いだったに違いありません。

■主を追いかけて海を飛んだ梅の木

会いたくて…主を慕い都から海をひとっ飛び。樹齢千年「飛び梅伝説」の梅が咲く春が来た 【後編】


太宰府天満の本殿(重要文化財)右が伝説の「飛び梅」(写真:wikipedia)

道真公が京の都を去った後、梅は主に会いたい一心で空を飛び、九州の太宰府まで飛びその土地に降り立って根を生やした……といわれているのが「飛び梅伝説」です。

その梅は、元来道真公の配所跡に建立された榎社(道真公が逝去するまで過ごした跡)の境内にあったものが、太宰府天満宮の造営とともに本殿前に移植されました。

道真公に愛された梅は、現在は太宰府天満宮の本殿右側のご神木「飛梅」として参拝に訪れる人々に大切にされています。

■桜は悲しみのあまり枯れ松は力尽き別の地に降りる

会いたくて…主を慕い都から海をひとっ飛び。樹齢千年「飛び梅伝説」の梅が咲く春が来た 【後編】


「板宿の飛松」の切り株。(写真:板宿八幡神社)

実は、道真公の屋敷には梅のほかにも桜や松があり、いずれも道真公を慕っていたそうです。そして、桜は道真公が太宰府に去った後、悲しみのあまりに元気を失い、つに枯れてしまったとか。

そして松は素知らぬ顔をしていたので、道真公が、

『梅は飛び 桜は枯るる 世の中に 何とて松のつれなかるらむ』

と読んだところ、松も梅同様に道真公を追いかけて空を飛んだそうです。

けれども、力尽きてしまい摂津国八部郡板宿(現在の兵庫県神戸市須磨区板宿町)の丘に降り立ち、その地に根付いたそうで「飛松伝説」として残っています。

「板宿の飛松」→板宿八幡神社

■白梅とも紅梅とも両方の説がある

会いたくて…主を慕い都から海をひとっ飛び。樹齢千年「飛び梅伝説」の梅が咲く春が来た 【後編】


北野天神縁起 (大宰府の配所にて、かつて帝から賜った衣を取り出し涙ぐむ道真公)写真:wikipedia

「北野天神縁起絵巻」(菅原道真の生涯や死後の怨霊伝説、北野天満宮の由来などを描いた絵巻)には、あの有名な「東風ふかば」の詩の段の結びに、

『さて、この御歌ゆへに つくしへこの梅は飛びてまいりたりとぞ申侍るめる』

との一文が、承久本に至って初めて加筆され、飛梅伝説が発祥した起点となったとされています。

現在、太宰府天満宮に咲くご神木「飛梅」は白梅。道真が幼いことから愛していた屋敷の庭に咲いていたのは紅梅。なぜ色が異なるのかについては、

●飛んでいるうちに力尽きて白梅になった

●道真の屋敷(紅梅殿)には白梅もあり、その梅が飛んで行った

……ほか、白梅か紅梅に関してはいろいろな説が伝わっています。



何れにしても、上品・高潔・忍耐・忠実などの花言葉を持つ梅。

ひたすらに愛する主・菅原道真公に会いたい一心で空を飛んだという伝説がぴったりの樹木ですね。

会いたくて…主を慕い都から海をひとっ飛び。樹齢千年「飛び梅伝説」の梅が咲く春が来た 【後編】


菅原道真公を祀る京都の北野天満宮・梅苑(写真:wikipedia)

歩いている途中、優しく甘い香りを漂わせる梅の花に出会ったら、一途な想いで海を飛んだ「飛梅伝説」の話を思い出してください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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