■「お盆」の語源と意外な起源

お正月が、実はご先祖様の霊を迎えるための日であるということは、前にも書いたことがあります。

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とはいえ、これはいわばトリビア。
日本人にとって「ご先祖様を迎える」行事といえばやっぱり「お盆」でしょう。

この時期は、多くの人が地元や実家に帰省します。最近はオンラインでの帰省も多いと思いますが、考えてみればこれもまた、ご先祖様の霊を地元で出迎えるためのもの。

八月三日の「迎え盆」では、夏野菜のキュウリやナスを馬に見立てた「精霊馬(しょうりょううま)」を作って盆飾りとするのが通例です。

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お盆の時期に帰ってきたご先祖様の霊は、この精霊馬に宿ります。

同時に、私たちは迎え火を焚いて霊をお迎えし、ご先祖様を供養します。


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さて。このお盆の儀式のことは、正式には盂蘭盆会(うらぼんえ)と呼びます。

使われている漢字もケッタイなら読み方も妙ちくりんですが、それもそのはず、この言葉の語源はサンスクリット語の「ウランバナ」なのです。

で、この「ウラバンナ」には、実は私たちの持つお盆のイメージからは程遠い意味があるのです。

それは「餓鬼道に堕ちて逆さ吊りにされ、苦しみもがいていること」なのです。

■母親を地獄から救う

このウラバンナという言葉の由来は、以下のような故事に基づきます。


お釈迦様の弟子に、目連という人物がいました。

彼は、原始仏教教団の長老の一人として「十大弟子」に列せられ、さらにその中でも舎利弗と並ぶ二大弟子として活躍した人物です。

また、優れた神通力の使い手でもありました。

その彼が、亡くなった自分の母親があの世で「餓鬼界」行きとなり、逆さに吊るされて飢えていることを超能力で知ります。

「母親を救ってやりたい」と、彼はお釈迦様に相談しました。すると、

「七月五日 (現在の八月五日) に、僧侶たちにお布施をして食事を差し出しなさい。
するとその食事の一部が地獄にいる母親の口にも届き、苦しみから解放されるでしょう」という答えが返ってきました。

さっそく、目連は言われた通りに僧侶たちを歓待しお布施を施します。するとお釈迦様の言った通り、母親は餓鬼界から助け出されました。

これが日本の「お盆」の由来なのです。もともとは地獄に堕ちた死者を救った故事にもとづいているのです。

日本では、今でもお盆の時期に「施餓鬼供養」という法会を行うお寺がたくさんあります。


■「盆踊り」の起源も実は…

ちなみに、目連によって餓鬼道から救われた母親は、歓喜の踊りを踊りながら天に上っていったとされています。これが「盆踊り」の起源です。

そう、私たちにとってお馴染みの「盆踊り」は、もともとは死者の踊りなのです。

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古い有名な映画で『死霊の盆踊り』というのがありますが、あのタイトルは正鵠を射たものだったんですね。

盆踊りは、今では楽しく和やかなイベントですが、地域によってはその原型とも思われる行事が残っています。福島県いわき市を中心に行われる「じゃんがら念仏踊り」です。


これは、一年以内に亡くなった人がいる家などを巡りながら、鉦や太鼓の音とともに祈りの念仏を唱え、踊るというものです。

このように見ていくと、夏――特にお盆の季節は「霊」のシーズンでもあることが分かりますね。

幽霊の目撃情報や、心霊現象に遭遇したという話が多いのも夏です。肝試しの定番の季節も夏ですね。これらは全て、地上にたくさんの霊がいて私たちの霊感もそれにあわせて研ぎ澄まされているからなのかも知れません。

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とはいえ、そうした霊たちに対する人間の想いもさまざまです。


「送り盆」では、ご先祖様の魂をあの世に返すために送り火を焚きます。そして地域によっては、先に挙げた「精霊馬」を「早馬」に見立てることもあるそうで、案外そこには「お盆が終わったら早く帰って欲しい」という気持ちも込められているのかも知れません。

地域によっては、精霊馬をお盆のうちに食べてしまうと霊と一緒にあの世に連れていかれるという伝承もあるとか。

ご先祖様の霊を敬い、地獄から救い、一緒に喜びの踊りを踊っても、やっぱりあの世とこの世には画然たる境界線があるんですね。

参考資料
・火田博文『本当は怖い日本のしきたり』(彩図社・2019年)
・浄土宗「主な行事・法要 ~ 盂蘭盆会」
・東北の観光・旅行情報サイト「旅東北」じゃんがら念仏踊

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