「駄目よ。嘘つきは、自分のついた嘘は覚えてないと」
最後の最後で我が子・源頼家(演:金子大地)が暗殺された真相を知ってしまい、その仇を討つ意味もあったのでしょうか。
最愛の嫡男・北条泰時(演:坂口健太郎)に理想の鎌倉を受け継ぐため、すべての悪行と罪業を抱えて地獄へ堕ちる主人公。
最後まで生き延びようと、流された薬をなめようと這いつくばる姿はまさに「手負いの獣」。今までの大河ドラマではなかなか見られない結末でしたね。
長い旅を終えようとする義時(イメージ)
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。1月9日の第1回放送「大いなる小競り合い」を観た後で、誰がこの結末を予想できたでしょうか(まぁ、三谷幸喜のことだから、何か仕掛けてくるだろうくらいは思っていましたが……)。
これを機に、平安・鎌倉時代に興味を持って下さる方が増えると、筆者はとても嬉しいです。それではさっそく、今週も大河ドラマを振り返っていきましょう!
■行け、俺たちの泰時!宇治川の決戦
さて、後鳥羽上皇(演:尾上松也)に対して徹底抗戦を決めた鎌倉勢。しかしその内情は一枚岩でなく、出来れば戦いたくない御家人も少なくありません。
もちろん?隙あらば権力の座を狙う三浦義村(演:山本耕史)もその一人。長沼宗政(演:清水伸)と共に総大将・北条泰時を背後から襲い、その首級を朝廷に献上する気満々です。
しかし大江広元(演:栗原英雄)と三善康信(演:小林隆)の咤激励によって18騎で出撃した泰時の軍勢はたちまち膨れ上がり、その数およそ19万騎(東海道の本隊、東山道・北陸道の別動隊合計)。
対して藤原秀康(演:星智也)と三浦胤義(演:岸田タツヤ)の率いる官軍は1万騎。最後の防衛線である宇治川も突破されてしまいました。
個人的には、宇治川の合戦シーンにもっと力を入れて欲しかったです。また尺の都合で割愛されていましたが、筏による渡河に先んじて騎馬で濁流へ乗り込んだ勇士たちの姿を楽しみにしていたファンも多かったのではないでしょうか。

川を挟んで、両軍の死闘が繰り広げられた。『承久記絵巻』より
第二次世界大戦におけるノルマンディー上陸作戦よろしく、殺されても殺されても果敢に屍の山を乗り越えて吶喊する坂東武者たちの雄姿、ぜひ拝みたかったですね。
ともあれそんな中、平盛綱(演:きづき)が矢に射られて重傷を負います。筏を押すため鎧を脱いだためですが、筏を押させるならもっと身分の低い者がいくらでもいるでしょうに……とまぁ野暮はさておき。
大動脈が通る鎖骨辺りを射抜かれ、「まさかここで討死(史実ではその後も生存しているのに)!?」と思ったら、やはり「何かに守られて」助かりました。きっと亡き八重さん(演:新垣結衣)のお陰ですね。
■後鳥羽上皇の隠岐遷幸(実質流罪)
さて、宇治川を抜かれたら京都は丸裸も同然。
かつて後白河法皇(演:西田敏行)が遺言した、必死に守り抜いてきたもの。劇中ハッキリと言及はない(なかったですよね?)ものの、初代・神武天皇以来脈々と受け継いできた皇統(皇室の伝統・歴史)に他なりません。
※まぁ、現時点で上皇陛下が亡くなられても当今(とうぎん。現在の天皇陛下、ここでは第85代・仲恭天皇)がおいでなのでは……と思いますが、おそらく義時から当今を守り抜ける者は他にいないと考えられたのでしょう。
そこでアッサリと秀康・胤義を見捨てて、上洛してきたトキューサこと北条時房(演:瀬戸康史)に「朕を惑わす奸臣どもをよう討ち滅ぼしてくれた」と掌返し。かつて源義経(演:菅田将暉)に宣旨を与えておきながら梯子を外した後白河法皇そのままですね。
果たして、奸臣とされてしまった藤原秀康は逃亡して後日処刑、三浦胤義は最期まで奮戦した後に自害。秀康はともかく、兄・義村の命によって朝廷に与した胤義がトカゲの尻尾切りされたのは(史実とは言え)スッキリしませんね。

後鳥羽上皇に見捨てられた三浦胤義と藤原秀康(イメージ)『承久記絵巻』より
責任をすべて武士たちに押しつけ、これで一安心……かと思いきや、そんな上皇の態度を義時は許さない。出家させられた上に隠岐島へ「ご遷幸(お移り)」いただくこととなり、罪人を乗せる逆輿で運ばれます。
すると現れたのが、かつて後鳥羽上皇によって隠岐島へ流された文覚(演:市川猿之助)。
■京都で再会した“りく”のその後
さて、京都を征圧した泰時と時房は、京都で暮らしていた“りく(演:宮沢りえ。牧の方)”と再会。彼女の娘きく(演:八木莉可子)が再婚した藤原国通(ふじわらの くにみち)の伝手を頼り、相変わらず豪勢な暮らしを楽しんでいました。
「宰相中将(さいしょうのちゅうじょう)と言っても、田舎の人には分からないでしょうけど……」
宰相中将とは左近衛(さこのゑ/さこんゑ)中将のこと、ここではその官職にあった国通を指します。
伊豆に捨てて来た元?夫の北条時政(演:坂東彌十郎)が亡くなっていたことも知らず、ずいぶんと薄情な悪女ぶりは相変わらずです。
そんな“りく”に対して、泰時は「晩年の祖父は幸せそうでした。身辺をお世話してくれる女性(サツキ。演:磯山さやか)もいましたし」と精一杯の皮肉を投げかけました。

相変わらずの“りく”(イメージ)
「あの人は、なぜか放っておけないところがある」と飄々として見せながら、物陰では少し憂いの色をにじませた“りく”は、去り際「また会いましょう」とあえて明るく振る舞います。
捨てた伴侶が幸せなのが悔しかったのか、あるいはかつて自分に愛情を注いでくれた時政の面影が浮かんで、せめて最期まで添い遂げてあげればよかったと後悔したのかも知れませんね。
ちなみに、かつて時政&りく夫妻が鎌倉を追放される時、「会いに行く。あんたは俺に借りがある(≒から会わねばならない)」と言っていた三浦義村の伏線は、回収されずじまいでした(見逃してはいないはずですが……)。
その後も“りく”は京都で派手に暮らしたことが藤原定家『明月記』などに(皮肉を交えつつ)伝わっています。
■最後まで愛されなかった“のえ”
一説に義時を毒殺したとされる“のえ(演:菊池凛子。伊賀氏)”。本作でも彼女による毒殺説が採用されました。
「あら、バレちゃった」
医師(演:康すおん。佐々木善住か)の見立てによれば「アサ」すなわち麻の毒を盛られたとのこと。祖父・佐々木秀義(演者同じ)の「あさぁ!(さぁ?)」ネタを再利用したのかも知れません。
この麻とは恐らく大麻のこと。WHO(世界保健機関)によると脳・呼吸器・生殖・精神障害などが指摘されており、ただちに影響がなかったとしても、再起不能に陥れれば暗殺は容易になるでしょう。

「さぁどうぞ。
「もっと早く本性を見抜くべきだった」
そう言う義時に、“のえ”は「あなたには無理。私のことなど少しも……少しも見ていなかったから」と最後の抗議。いくら権力のために近づいたとは言え、十数年間も一緒にいたのだから義時も少しは愛情をかけてあげてもよさそうなものです。
確かに毒を盛る方も盛る方ですが、盛られる方も盛られる方。夫婦関係のトラブルは、大なり小なり必ず双方に問題があるもの。
「死に際は大好きなお姉さまにみとってもらいなさい」
息子・北条政村(演:新原泰佑)が跡を継げないなら、ここにいる甲斐もない。そううそぶき出ていく“のえ”。しかし執権でなくとも、当時北条一族に連なるだけで相当な旨味があったはずですが、それでは満足できなかったのでしょう。
ちなみに彼女は義時の死後、政村を執権にする≒泰時を亡き者にするため三浦義村と手を組むことになります(伊賀氏の変)。
■どこまでも油断ならない義村
“のえ”の依頼で麻の毒を調達した義村は、義時に呼ばれて酒を振る舞われました。この展開で、酒に毒が入っていないと信じられる者はどれほどいるでしょうか。
押し問答の末に渋々一口飲んだ義村は、これが最期とばかりコンプレックスをぶちまけます……が、実は毒など入っていないただの酒。
お互い腹を割ったところで、義村は最も重大な秘密を打ち明けました。
「女子(おなご)は皆キノコが大好きだと言ったが……あれは嘘だ」
「もっと早く言って欲しかった~!」

女子は茸が好きだったり嫌いだったりどうでもよかったりする(イメージ)
どうもキノコの事になると目の色が変わる義時。これがキノコ納めとなります。
少し話は戻って、義時に対する義村のコンプレックス。源頼朝(演:大泉洋)にそば近く仕え、常に鎌倉ひいては天下を見据えた義時に対して、あくまで三浦一族の利益を優先してきた義時。これが執権と御家人の差につながったのでしょう。
しかし流石は平六、義時に敵わぬと見るや掌を返して「これからも北条は三浦が支える」と忠義を誓いました。
一度死んだつもりになったからと信じる義時。しかし最後まで油断のならない盟友同士の関係は、数十年の歳月を経て北条と三浦の最終決戦「宝治合戦(宝治元・1247年6月5日)につながります。
■13人の意味
「……さんざん待たせた挙げ句、何だこれは」
かつて運慶(演:相島一之)に依頼した「神仏と一体になった私」の像がようやく届いたと思ったら、凄まじく醜悪な邪神像でした。実にシュールレアリズム(超現実主義)の先駆けと言うか、ピカソや岡本太郎なんかが好みそうなデザインです。
またこれまでの仏像と異なり、彫った木肌にも滑らかさがなく、鑿痕がゴリゴリと残った手抜き感。これは義時に対する反抗心の表れなのか、あるいはささくれだって安らかさとは程遠い心情を示したものかも知れません。
「今のお前さんに瓜二つだ」と笑う運慶。斬るまでもないと連行させ、像を叩き斬ろうとしたところで昏倒する義時。きっと罰が当たったのでしょう。
その後も根に持った義時は、見舞いに訪れた政子に「あれは私だそうです」と愚痴をこぼします。きっと大好きなお姉様に慰めて欲しかったのだと思います(そう見えました)。

頼朝死後の粛清第一号・梶原景時。尾形月耕筆
「……梶原殿、全成殿、比企殿、仁田殿、頼家様、畠山重忠、稲毛殿、平賀殿、和田殿、仲章殿、実朝様、公暁殿、時元殿。これだけで13。そりゃ顔も悪くなります……」
義時の自虐的回想に、頼家の名前が入っていたのを聞きとがめた政子。病死したと聞いていたのに。しかしこの13人、阿野全成(演:新納慎也)や仁田忠常(演:高岸宏行)のように必ずしも義時が手にかけた者ではなさそうです。
自分が暗殺に携わったというなら、木曽義高(演:市川染五郎)や一条忠頼(演:前原滉)なんかを入れた方がより「顔も悪くなる」と思うものの、(より自分の責任が重くなる)頼朝死後に限定したものと考えられます。
実際にはこの他にも大河ドラマに登場していない者たちも粛清などされていますが、恐らくこの13という人数に含みを持たせたかったのでしょう。
13という数字にこだわるなら、後年泰時が結成する評定衆(ひょうじょうしゅう。合議制)11名と執権(泰時)・連署(時房)の13人を見たかった(ナレーションでもいいから言及して欲しかった)ですね。
■エピローグ「報いの時」
これまで粛清を繰り返した報いを受ける義時。坂東を弄んだ報いを受ける後鳥羽上皇。盟友を裏切り続けた報いを受ける三浦義村。夫を心から愛さなかった報いを受ける“のえ”。そして弟に手を汚させ続けた報いを受ける政子。
「13人目は、あなたです(≒頼家にはさせない)」
かつて宿老たちの合議制を定めた時のセリフですが、思い返すとそんな伏線が張られていたのかも知れません。
恐らく誰よりも自分を好きだった弟の命を、自分の手で断たねばならなかった政子のすすり泣きで締めくくるエンディングは、さすが三谷幸喜らしい後味の悪さ(褒め言葉)でしたね。
しかし医師は義時に対して「今度身体が動かなくなったら、この薬を」と言ったようですが、それって目的は治療ではなく、いっそ楽になる≒もう打つ手がないからすぐに死ねる薬だったのではないでしょうか。
また画面を見たところ、ただ無色透明な液体だったので、もしかしたら単なる水だった(プラシーボ効果でワンチャン回復する可能性を狙う≒やはり打つ手がなかった)可能性も考えられます。
かくして色々な意味で異色だった今作「鎌倉殿の13人」は、大河ドラマ史上に特筆すべき一作として、末永く愛されることでしょう。
■物語は、300年後の戦国乱世へ
あぁ、面白かった……出て来たのは、『吾妻鏡』を愛読する徳川家康(演:松本潤)。令和5年(2023年)大河ドラマ「どうする家康」につなげる冒頭シーンは非常に斬新でした。

『吾妻鏡』に多くを学んだ徳川家康。みんなも読んでみよう!(イメージ)
本の表紙が『吾妻鏡』だった時は「まさか」と思いましたが、一作品中で数百年の歳月を行ったり来たりする手法は、前作大河「青天を衝け」のオープニング「こんばんは、徳川家康です」を彷彿とさせます。
ちなみに家康青年が読んでいた『吾妻鏡』は第25巻。まさに承久3年(1221年)の記事が収録されており、こういう細かい描写も心憎いですね。
さて、来年の大河ドラマ「どうする家康」は令和5年(2023年)1月8日(日)スタート。戦国乱世を駆け抜けた徳川家康の活躍を、みんなで見届けていきましょう!
※参考文献:
- 五味文彦ら編『現代語訳 吾妻鏡8 承久の乱』吉川弘文館、2010年4月
- 五味文彦ら編『現代語訳 吾妻鏡9 執権政治』吉川弘文館、2010年11月
- 三谷幸喜『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 完結編』NHK出版、2022年10月
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