■リスニングの失敗で生まれた「メンチカツ」

メンチカツとミンチカツ、これらはほぼ同じ料理ですが、なぜか二種類の呼び名があります。全国で広く使われている名称はおそらく「メンチカツ」の方で間違いありませんが、実はその起源は、明治28年に創業した洋食店「煉瓦亭」に遡ります。


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メンチカツ

煉瓦亭の初代店主は、オープンから四年目が経った頃に、ひき肉を使った「ポークカツ」というメニューを考案しました。

そこで店主は、外国人にも分かりやすい料理名をつけて多くの人に親しんでもらいたいと考えます。で、外国人のお客に「ひき肉」は英語で何と呼ぶのかを尋ねました。この頃は、日本にも多くの外国人が訪れるようになっていたのです。

そのお客が口にした言葉は「ミンスミート(Mince meat)」でした。店主はこの言葉を聞き間違えて「メンチミート」と誤解したのです。

こうして生まれたのが「メンチカツ」でした。つまりメンチカツという名称は、リスニングの失敗の産物だったのです。

しかしこの微妙なネーミングとは関係なく、名前を与えられたメンチカツは全国的に広まります。煉瓦亭の店主の料理センスはかなりのものだったのでしょう。そして、これと歩調をあわせてひき肉もメンチと呼ばれるようになったのです。

メンチカツの語源、知ってる?関西には「ミンチカツ」も存在する?両者の由来と特徴を解説


牛ひき肉

リスニングの失敗に引きずられて、本来の単語まで改変されて認識されるようになったというのは面白いですね。


この呼び方は、昭和5年に発行された『モダン辞典』によって、ひき肉の外国語の本来の発音が「ミンチ」と定義されるまで続きます。固有名詞としての「メンチカツ」はそのままに、「メンチ」だけは「ミンチ」と改められることになったのでした。



■正しい発音だった「ミンチカツ」

さて、一方のミンチカツは関西を中心に使われている言葉です。これは昭和期に兵庫県神戸市の精肉店で生まれた言葉だとされています。

メンチカツの語源、知ってる?関西には「ミンチカツ」も存在する?両者の由来と特徴を解説


ミンチカツ

モデルとなったのは、東京の洋食店が開発した「メンチボール」という名前のミートボールで、先述の煉瓦亭でメンチカツが発明されたよりもずっと後のことでした。

つまり、メンチカツもミンチカツもルーツは東京だといえますが、厳密に見ていくと、メンチカツとミンチカツは関東と関西で独自に開発されたものだったのです。

それが偶然に同じような料理となり、さらに名前も似ていたということですね。

関西では、最初からひき肉のことをミンチと呼んでいました。リスニング的にも正しい発音です。よって、ひき肉を使ったカツはそのままミンチカツと名付けられました。

ちなみにメンチカツ・ミンチカツや、他にもトンカツなどで使われている「カツ」という言葉は、フランス語のコートレットにが語源です。コートレットは肉にパン粉を付けてバターで焼く料理で、これが日本でカツレツと呼ばれ、略語の「カツ」が使われるようになったのです。


■関東・関西の違い

このように、メンチカツは明治時代に東京の洋食店で誕生し、一方のミンチカツは昭和期に神戸の精肉店で生まれたことが分かります。

ここまででメンチカツとミンチカツが「全く同じなのに名称だけが違う」かのように書いてきましたが、厳密に言えば両者は全く同じ料理ではありません。使われている材料に多少の地域差があります。

メンチカツは、豚肉と牛肉の合いびき肉が使われるのが一般的です。一方、ミンチカツは主に牛肉のひき肉が使われます。この違いは、ミンチカツを発案したのが精肉店だったことから、ビーフを贅沢に使うことができたからではないかと考えられます。

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神戸牛のステーキ

そういえば、ほぼ同じ料理なのに関西と関東で呼び名が違う食べ物はたくさんあります。回転焼きと今川焼きがその好例ですし、また関西では、油揚げがのっている蕎麦は「たぬき」と呼びます。関東のように「きつね」ではないんですね。

他にも、関東ではイカ焼きと呼ぶあの食べ物のことを、関西では姿焼きといいます。さらに「つまみ」「アテ」「お通し」「つきだし」「肉まん」「豚まん」……など、挙げていくと枚挙にいとまがないほどです。

メンチカツとミンチカツの違いも、こうした関東・関西圏の言葉遣いの違いを表しているといえるでしょう。


参考資料

  • オリーブオイルをひとまわし
  • レタスクラブ
  • 美的生活
  • FUNDO

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan

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