世に「美しさは罪」なんて言葉がありますが、容姿の美醜と犯罪には何か関係があるのでしょうか。

……そんな一見バカバカしいことを大真面目に研究した寺田精一という犯罪学者がおりまして、彼はその研究成果を『婦人と犯罪』(大正五1916年)という著書にまとめています。


果たして女性の美しさと犯罪には、どんな関係があるのでしょうか。今回はその一部を紹介したいと思います。

■姦通罪で訴えられやすいのは美人?不美人?

寺田氏は殺人や放火、強盗や窃盗、詐欺など様々な女性犯罪を調査しましたが、その中で「姦通罪(かんつうざい)」についても言及しています。

姦通罪で訴えられやすいのは不美人?美しさと姦通の関係に垣間見...の画像はこちら >>


姦通罪とは既婚女性による不倫を罰するもので、夫が妻と間男を訴えることで2年以下の懲役刑(旧刑法第183条)&不倫相手との再婚禁止(旧民法第768条)というペナルティが課せられました。

さて、この姦通罪で夫に訴えられた女性は、美人と不美人どちらが多かったと思いますか?

……正解は「不美人」。

不倫というと、よく「美女がその美貌で男を惑わし……」などとイメージしがちですが、実際に姦通罪で刑務所に収監されていたのは不美人の方が多かったそうです。
一体どうしてなのでしょうか。

(※)調査は東京の刑務所に収監されていた40歳以下の女性犯罪者260名を対象に、美醜の評価については2人の女性に依頼、同性の視点による公正性の担保に努めたようです。

■露骨すぎる男の本音

実は夫が不倫した妻を訴えるにはまず離婚しなければならず、美人妻を失いたくない夫が不倫を容認=泣き寝入りすると、姦通罪は不成立となるのです。

姦通罪で訴えられやすいのは不美人?美しさと姦通の関係に垣間見える男の本音


三行半の離縁状(鎌倉・東慶寺蔵)。

その一方で、不美人なら別に離婚しても惜しくないので思う存分訴えられる……そんな露骨すぎる男の本音が、前掲書に記されています。

「……美人に於ても姦通は少ないのではないが、此場合には醜婦の場合と大に異って、其夫人たる人が其美人を失わんことを恐れて、妻の不貞を知りつつも之を訴えるようなことがない、然るにそれがもし醜婦の場合には、平常より疎んじているのであるから……直ちに訴えうる。」

※寺田精一『婦人と犯罪』第八章「容貌の美醜と犯罪」より。


同じ罪でも美しければ見逃されるなんて、いくらなんでもあんまりですが、そもそも妻のある男性が独身女性と不倫をしても罪に問われない、という刑法自体がそもそも理不尽な男女差別であり、戦後「姦通罪」は廃止されたのでした。

■終わりに

以上、「美人は何かと有利(許されやすい)」という実に身もふたもない話ですが、罪を裁くのは人間ですから、往々にして法の執行にも主観が入り込んでしまうもの。

(※そういえば「イケメン無罪」なんて言葉もありました)

姦通罪で訴えられやすいのは不美人?美しさと姦通の関係に垣間見える男の本音


※ただし許されるのはイケメンに限る。

誰もが公正に扱われる社会が理想なのは言うまでもありませんが、なかなかそうもいかない人間の業深さを垣間見せられます。

※参考文献:
井上 章一『京女の嘘』PHP研究所、2017年1月7日

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan