さいたま市の鉄道博物館は2007年に、JR東日本の企業博物館として開館した。アトラクション設備も豊富でテーマパークのように楽しめ、有数の人気施設になっている。
企業の博物館はもともと、企業の宣伝活動のための存在だったが、近年は社会貢献活動や企業のCSR(社会的責任)活動を行うための手段として見直され、その数はグンと増えている。「てっぱく」のように充実したコンテンツを備える施設も少なくない。
本書「行きたい! 企業ミュージアム」は、選りすぐりの企業博物館106か所を紹介。就活の企業研究にも使える一冊だ。
「行きたい! 企業ミュージアム」イカロス出版数々の名車を「動態保存」
企業博物館は1970~80年代に多く設けられるようになり、以後、増え続けている。商業施設・文化施設の研究機関、丹青総合研究所などの調査では1987年に285か所。2013年の帝国データバンク資料館の調査によると500以上の存在が確認された。
博物館の運営で代表的な企業は、トヨタ自動車。お膝元の愛知県には、トヨタ産業技術記念館(名古屋市)とトヨタ博物館(長久手市)を持つ。本書では巻頭で、「ここに行かなければ始まらない」として「注目企業ミュージアム」を特集。その筆頭が「トヨタ博物館」だ。
施設名からは、トヨタの歴代の名車を中心に展示する博物館を思いがちだが、実際に足を運んでみると、そうではないようだ。
しかも、ほとんどのクルマは「動態保存」。少し整備するだけで、すぐに走らせられる。各展示車の下にはオイル漏れに備えてアルミの受け皿があり、今にも動き出しそうな雰囲気を盛り上げる。
同館は「クルマ館」と「文化館」の2本立て。「クルマ館」には、発明初期の自動車や欧米のクラシックカーから20世紀の大量生産車、そして現代のハイブリッド車、今後の成り行きが注目される燃料電池車なども展示され、クルマの歴史が立体的にわかる。
昭和の家電と先端技術を1か所で「注目企業ミュージアム」の二つ目は、「東芝未来科学館」(神奈川県川崎市)。開館は1961年で、企業ミュージアムの草分け施設だ。江戸時代後期から明治にかけての発明家で、日本の近代技術史に名を刻む天才機械技術者、田中久重らが創業した東芝は、日本の家電の歴史そのものともいえる存在。同館では、延べ床面積2850平方メートルに及ぶ広さの展示室で、家電史を彩ったさまざまなプロダクトが展示されている。
オープン当初は川崎市の「中央研究所」内に設けられたが、2014年に、旧東芝川崎事業所の跡地の再開発エリア「ラゾーナ川崎」にリニューアル移転した。
「ヒストリーゾーン」では、冷蔵庫や洗濯機、カラーテレビや扇風機など、いまでは普通に身の回りにあるものが、登場当初は大きな驚きをもって世の中で迎らえたことを紹介。
日本取引所グループが運営する東京証券取引所は、同社が運営する証券取引所のなかで最大規模。ここにも「注目企業ミュージアム」がある。「東証Arrows(アローズ)」だ。取引所ではかつては「立会場」に、証券会社の「場立ち」と呼ばれる担当者たちが立ち並び、手でサインを送りながら騒然としたなかで取引を行っていた。だがテクノロジーの進化で市場も効率化され、立会場に代わる施設として2000年に「東証Arrows」が開設された。
施設内は各セクションを見学できるようになっており、ライブミュージアムの機能を合わせ持つ。「証券史料ホール」では歴史的史料を展示している。
証券取引所ならではの仕掛けもある。「株式投資体験コーナー」では、自動車会社、銀行、ガス会社の3銘柄を1000万円の元手で取引する設定。モニターにさまざまな情報が流れ、株価はどんどん変化する。
株価の上下や配信されるニュースを見ながら売買のタイミングを考えながら取引を進める。
トヨタや東芝のミュージアムは、消費者にさまざまな製品化の取り組みを知ってもらうことで企業としての「信頼性」をアピールしたものといえる。
東証Arrowsは株式のことを知ってもらい、投資家を増やそうという意図がうかがえる。企業によってミュージアム設立の経緯やコンテンツ、目的も異なり、なかには、一般に公開されていながらも、創業者の思想や信条を従業員と共有する目的で設立されたものもあるという。
「行きたい! 企業ミュージアム」
イカロス出版
税別1700円

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