通常国会で「デジタル庁」の創設を含むデジタル改革の関連法が2021年5月12日に可決・成立し、日本でも本格的なDXの導入・推進に向けた制度設計が進むことになりました。

デジタル改革関連法のうち「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」により、押印(全22法)と書面(全32法)の廃止に関して合計48の法律(6法律は押印と重複)を一括して改正しています。

これだけの法制度を一気に変更しましたから、その意味で2021年はデジタル契約元年だったといえますが、本格的に始動するのは2022年、つまり今年からということになります。

2022年春、賃貸借契約などの電子化本格スタート

デジタル庁は2021年9月に設立され、あわせて電子契約=契約書面や手続きの電子化が開始されたことはニュースでも報道されましたのでご記憶の人も多いと思います。

並行して、不動産取引においても電子契約に関する実証実験が行われ、業務フローが劇的に変わるのではないかと、現場からはさまざまな意見が表明されました。ところが、さほど大きな混乱はなく、重要事項説明や媒介契約、賃貸借契約などについても2022年春(現状では5月中旬とされています)をめどに電子化が解禁されることとなりました。

どの業界でも、契約には相応の準備とコスト、工数が発生するのは同じですが、コロナ禍もあってDXの積極活用は待ったなしの状況にあります。不動産業界でも電子契約システムの導入が徐々に進んではいるものの、非対面契約の需要が高まるなかで、機会損失を発生させないためにも電子契約への対応は必要不可欠との認識が求められます。

印紙税不要に...これだけでも大きなメリット!

これまで「紙」での書面交付が必要だったのは、宅建業法で定められた重要事項説明、売買契約締結、媒介契約締結という3つの契約です。

とくに重要事項説明については、対面での説明を義務付けられていたため、電子契約化についてのハードルと考えられていました。ところが、2021年4月以降、国交省が定めたマニュアルに沿って対応すれば、IT重説(ウェブ会議システムなどのITを使って、重要事項説明を行うこと)が可能、という弾力的な運用にあらためられました。

また、上記の通り、デジタル改革関連法が成立してからの9月以降は、押印義務の廃止・書面の電子化も認められることとなりました。書面を電子化すれば、「紙」ではないので、印紙税の対象外となるります。そのため、とりわけ不動産売買においてはIT化によって、高額な印紙税を納付する必要がなくなって(これだけでも極めて大きなメリットと言えます)、不動産売買のIT化はコスト削減という意味でも必須でしょう。

コロナ禍によるテレワークの定着もあって、IT重説に関しては、大手を中心に電子化対応する不動産会社が急増。書面交付の義務がない賃貸借契約についても、更新および退去の際のペーパーレス化(PDFなどで電子書面の交付とする取り組み)が進んでいます。

当然のことながら、電子契約にすれば、契約することを目的として顧客を訪問したり、面談のため時間を取ったり、双方の都合を調整したり......という業務が大幅に削減もしくは不要になります。また、書面の郵送コストや郵便局まで出向くといったちょっとした手間なども省けます。そのため、上記の印紙税も不要となることも含めて、契約に関するコスト全般の軽減にも寄与します。

さらに、対面で契約する必要がなくなるということは、時間と場所を選ばずに遠隔地であっても(海外でも)契約可能ということですから、契約自体のハードルが下がることによって取引の活性化にも期待が持てます。

電子契約導入へ...イメージしておくべきことはたくさんある!

まさにいいことずくめのように見える電子契約化ですが、一方で、たとえば本契約に関連する駐車場契約や、家賃保証契約などの書面も、あわせて電子化しておかないとなりません。

本契約は効率化したのに、付随する契約が書面のままで片手落ち、ということになり兼ねません。それに、直接会うわけではないという前提に立てば、契約の相手先である当事者の確認も含め、セキュリティチェックは万全であることが求められます。

あわせて、契約書の真正性も担保しなければなりませんし、そのために暗号化と復号にパスワードを利用してオーソライズする「電子署名」を用意する必要があります。

ということは、当然、コスト全般が軽減されても、セキュリティ対策や、新たな業務フロー構築には、別途相応のイニシャル・コストが発生することが想定されます(これは、フローが変わるのですから必要なコストです)。

また、これは杞憂に終わればいいのですが、電子契約になると、契約に必要な時間をあらかじめ調整する必要がなくなるため、契約自体をなおざりにしてしまうケースが出てきてしまう可能性があります。

仮に、当事者の片方の応答がない場合、いつまで待てばいいのか、相手がいつ対応するのか、それともしないのか分からない――こういうきわめて不安定で、ストレスフルな状況に置かれることになります。

民法525条では、「承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。」と定めていますから、契約の応答を待つ状況が長期化する可能性も考慮しておかなければなりません。

これを防止するためには、電子契約ではとくに「契約を承諾する期限」を決めておくことがポイントです。

さらに、予期せぬサイバー攻撃などによってセキュリティが破られ、情報漏洩してしまう不安は常に電子契約にはついてまわります。電子情報の保存・管理にはセキュリティの高いクラウド・サーバーを活用するなどの対策が、今後求められるようになるはずです。

このように電子契約の解禁には大きなメリットがある一方、細かい憂慮事項や制度変更にともなう若干の混乱が発生することが予想されます。2022年5月中旬と目される電子化契約解禁を待つまでもなく、今すぐに情報を収集し、対応について検討しておくことが求められます。

(中山登志朗)