東京・歌舞伎町の元No.1ホストで、現在は会社経営者になっている信長さんが書いたのが、本書「一流の失敗、三流の失敗」(秀和システム)である。

普通の自己啓発本にはない強烈なインパクトがあった。

本書は16冊目の本。これまで累計30万部を発行している。ホスト時代の「失敗」が、今の財産になっているという。「一流の失敗」とは、いったい何だろう?

「一流の失敗、三流の失敗」(信長著)秀和システム

著者の信長さんは、1979年生まれ。早稲田大学教育学部卒。学生時代から家庭教師、塾講師の傍ら、ホストの道に入る。

当初は、体重90キロ以上で女性ともうまくコミュニケーションが取れなかったという。入店4カ月目で初めて指名を取った直後にNo.1を達成。

通算28回「No.1ホスト」となる。2014年に「歌舞伎町トップホストが教えるシャンパンタワー交渉術」(講談社)を出版後は、多くのメディアに出演。現在は作家活動をしながら、アラブ首長国連邦のドバイに在住し、出版社経営を営むマルチな活動を送っている。

回数を重ねる...それこそが、成功へのカギ

信長さんの主張は非常に明快だ。

失敗には「やらない失敗」と「やる失敗」があり、前者が「三流の失敗」で、後者が「一流の失敗」だというのだ。

現在は禁止されているホストの「キャッチ」という勧誘方法を例にしているのが、信長さんらしい。店から出て路上で女性に声をかけるものだが、No.1ホストでも成功確率は1割だという。

だが、10回チャレンジして9回失敗するから、1回成功するわけだ、と説明する。回数を重ねることが、成功への何よりの手がかりになるという。これはホストだけでなく、どんな業界にも当てはまることで、むしろ成功確率が1割あるなら、迷わずチャレンジすべきだ、と読者を鼓舞している。

信長さんは現在、会社経営をしているが、自社の営業スタッフに「営業では成約率も大事だけど、それよりもっと大事なのは行動した数だよ」と伝えているそうだ。

創業当時、あまり顧客はいなかったが、自分のSNSからダイレクトメッセージを送ったり、異業種交流会に参加して名刺を配りまくったりと、営業活動を続けた。

ときには「営業メールを送ってこないでください」と言われることもあったが、やはり10件に1件くらいは反応があり、打ち合わせに発展。その結果、顧客が増えた経験を大事にしている。

シュートを打ち続けるためには、「メンタルのフラットさ」も重要だという。

お客から強く断られたり、また、ことごとく営業が失敗したりすると、それが心の傷となり足が止まってしまうことがある。

信長さんにも心が折れかけたことが何回かあった。そうした時には成功者の名著を読み、自分を鼓舞したという。

とくに、ユニクロ(ファーストリテイリング)の創業者・柳井正さんの「一勝九敗」(新潮社)には何度も励まされたという。まずはシュートを打つこと、シュートを打たないとゴールも決められないのだ。

人と会うことの大切さを何度も説いている。信長さんの師匠だという実業家の斎藤一人さんの「幸せもお金も、人が持ってきてくれるもの、だから人間関係は重要だよ」という言葉を紹介している。

アウェーでのコミュニケーションが大切

自分のテリトリー外の、アウェーでのコミュニケーションが大切だという。

同業者だけとつるんでいても、新しいアイデアは浮かんでこない。他業種や別ジャンルで活躍している人の話には、新しい視点や自分を変えるチャンスがある。

信長さんはいま、ドバイで生活しているが、週に3日以上は人と会う予定を入れているそうだ。ZOOMや電話も毎日のようにしているので、ほぼ日本にいるのと変わりないという。

そこで参考になるのが、ホスト流の事前準備だ。

初対面の人のことを調べ尽くす。相手のSNS、友人関係、得意なこと、現在の仕事など、可能な限り情報を集めておいて、初対面のときは何気なく話す。

新規開拓型のコミュニケーションスキルで大事なのは、出会いの価値を高めるため、初対面と2度目の期間を短くすることだ。

初対面のとき「この人とまた話したいな」と思ったら、その日の挨拶メッセージとともに、以下のように送るという。

「本日はありがとうございました! よかったら今度〇人で〇〇へ行きませんか?」

また、誘うときには、相手にも「メリットのある提案」をすることを忘れてはならない。「人に会うのが得意な人ほど成功する」と強調している。

このほかにも、参考になりそうなポイントがいくつかもある。

・ネガティブから離れよう ネガティブ思考は伝染するからだ。
・安定的な成功を目指したいなら、自己流をいっさい捨てて、成功している他者を徹底的に真似することが一番の正攻法 大企業の経営者こそ先人に学んでいる
・読書は「究極の時間短縮作業」 本を読めば読むほど、さまざまなことが効率化され、結局、時間を捻出できる
・形から入るな。まずは小さく始めてみよう
・自分をよく見せる方法を考え続け、実行し続けよう
ホストと営業...親和性が高い理由とは

なぜホストは「経営者になろう」とするのか? という文章に目を奪われた。

ホストは基本的に若いときしかできない職業だ。辞めた後、バーや居酒屋など飲食店のオーナーのほか、企業の経営者も一定いるという。失って困るようなものをもともと持ち合わせていないから、「何か事業をやって、経営者になろう」という発想がしやすい、と推測している。

このように、何も持っていないことが、じつは強みになるという。

ホストはセールストークを行って、お客様に楽しんでもらう究極のサービス業でもある。営業職も、扱う商品は違うが、お客にセールストークを行って契約を取ることには変わりがない。「ホストと営業は親和性が高い」とも。

彼らのセルフブランディング力に学び、自分の特徴を知り、適切なターゲット層にアプローチをかけていくことで、営業の成功率を高めることができる、と説明している。

ホストとして成功した信長さんは、優秀な「営業マン」でもあったわけだ。シンプルな言葉で読者を勇気づける本だ。

(渡辺淳悦)

「一流の失敗、三流の失敗」
信長著
秀和システム
1650円(税込)