近年、アメリカやイギリス、フランスなどで「Great Resignation」(グレート・レジグネーション)と呼ばれる「退職ブーム」が起き、新しい社会現象となっています。コロナ禍で人生を見直した結果、「自ら退職を選ぶ」人がZ世代の若者を中心に爆発的に増えているのです。

転職をした人もいれば、安い給料で働くぐらいなら「働かない」という道を選んだ人も多いとか。退職は「クール!」(カッコいい)とするムードが広がるなか、なんと89%が「辞めて後悔している」という驚きの調査結果が公表されました。

「イエーイ! 会社を辞めてやったぜ!」SNSにあふれる「退職バズり」動画

欧米で大きな関心を集めている「Great Resignation」(グレート・レジグネーション)。文字通り、「great」(大量)に「Resignation」(離職・退職)が発生している、という現象で、2021年初頭から始まったとされています。

アメリカでは2022年12月に410万人の労働者が退職して年間5000万人を超えるなど、退職者数の記録を更新したと報じられています。2021年度は年間で約4700万人だったそうですから、コロナ禍の2年間で1億人近くが退職したことになります。

さらに、LinkedInが2000人を対象に行った調査によると、Z世代のほぼ4分の3、ミレニアル世代の3分の2が「2023年度中に仕事を辞めたい」と回答したそうですから、「Great Resignation」はまだまだ続きそうです。

仕事を辞める理由は千差万別です。

より柔軟性がある働き方を求めたり、よりよい給料や福利厚生といった待遇面での向上を求めたりといった理由が多いようですが、なかには、「安い給料でこき使われる人生はまっぴらだ」と、「働かない」選択をする人も増えていると報じられています。

確実に変わっているのは、「仕事を辞める」ことがネガティブではなく、ポジティブにとらえられていることでしょう。英BBC放送は次のように伝えています。

Millions of workers have quit throughout the past several years. In ways, resigning has become glamorous
(何百マン人もの労働者が過去数年で仕事を辞めている。

ある意味、退職はワクワクする魅力的なものになっている)

特に若者を中心に、退職は「glamorous」(ワクワクするほど魅力的)で「cool」(カッコいい)ものだと意識が変わっているとか。米メディアCNBCは、若者に人気の動画アプリ「TikTok」に、仕事を辞めたことを共有する動画が次々に投稿されていると伝えています。

「仕事をやめた!奴隷的な生活が終わった」
「辞職願を送ります!バイ~!」

ポイントは、多くの離職者が、会社理由の解雇ではなく「自らの意志」で仕事を辞めていることです。専門家が「Quitting has gone viral」(仕事を辞めることがバスっている)と指摘しているように、ある意味「トレンド」になっているようです。

さらには、英BBC放送は「turnover contagion」(ドミノ辞職)とされる現象が職場で急速に広がっていると伝えています。これは、誰かひとりの退職に続いて、同僚が次々と辞めるという現象で、辞職の理由の一つとなっているとか。

たとえば、IT企業や研究者が多い職場、チームで仕事をすることが多い職場などでは、メンバーが1人辞めたら同僚が辞める可能性が高くなるらしく、「転職感染」とも呼ばれています。

いずれにしても、コロナ禍で自分の生き方や仕事との向き合い方を見つめ直した結果、「今の仕事を辞める」という選択に至った人が多いことは間違いないでしょう。世界的なパンデミックによって、一つの歴史が塗り替えられているのだと思います。

ブームに乗って退職したZ世代、89%が「元の同僚が懐かしい」と後悔

ところが、「自らの意志」で仕事を辞めることが、必ずしもよりよい人生につながるわけではなさそうです。

若者を中心に、「グレート・レジグネーション」のトレンドが広がるなか、水を差すような調査結果が公表されてニュースになっています。

なんと、ブームに乗って仕事を辞めた人の80%が退職を「regret」(後悔)しているというのです! 若いZ世代に至っては、その割合が89%に達するという、驚きの結果となっています。

80% of workers who quit in the 'great resignation' have regrets, according to a new survey
(新しい調査結果では、グレート・レジグネーションで退職した労働者の80%が後悔している:米CNBC)

米Paychex社が、825人の退職者と354人の雇用主にアンケート調査を行ったところ、仕事を辞めたビジネスパーソンのうち80%が「自分の決断を後悔している」という結果になりました。

さらに驚くのは、Z世代ほど「元の職場」を懐かしんでいる傾向にあるということ。89%が退職を後悔しており、その結果として、「メンタルヘルスが悪化している」という結果を伝えていました。

よりよい環境を求めて仕事を辞めたはずが、逆にメンタルヘルスが悪化しているとは本末転倒のような気がします。それでも、「元の職場の同僚たちが恋しい」と思っていることが、後悔している一番の理由だというのは理解できます。新しい職場でいちから人間関係を築く難しさは、万国共通なのでしょう。

こうした状況を、専門家は「辞めることがブームになりすぎたことのデメリット」だと指摘しています。仕事を辞めることが比較的簡単だと感じてしまうことで、慎重な判断をせずに衝動的に辞職するケースも相次いでいるようです。

英BBC放送は「みんなが辞めているから」という理由で簡単に辞めてはいけない。「辞職や転職がキャリアを妨げる可能性がある」として、「今の職場で十分なことをしたり、しっかりとした推薦状を得るに値する時期になるまで辞めるべきではない」という専門家の警告を伝えていました。

それでは、「今週のニュースな英語」は、「great resignation」(大量退職)に関する表現を紹介します。こうしたトレンドワードは、ひと言で意味が通じる「便利ワード」ですから、ぜひとも覚えておきましょう。

The post-COVID 'Great Resignation' comes to Asia
(コロナ禍の後、グレート・レジグネーション現象がアジアに到来している)

'The Great Resignation' is over
(グレート・レジグネーション現象は終わった)

The Great Resignation led to big regrets
(グレート・レジグネーションは大きな後悔をもたらしている)

今回の報道で一番心に残ったのは、「急に辞めて上司を困らせてやる!」といった「腹いせ」を退職理由に挙げている若者が多かった、ということでした。そうした選択の多くが「後悔」につながり、結果として上司よりも自分が困っているとしたら皮肉なことです。

理不尽な環境で働くことを強いられている人も多いでしょう。自分にとって何が幸せなのか。答えを見出すことは簡単ではなさそうです。(井津川倫子)