東京の一等地、南青山。青山通りから一本入った路地に、大人の隠れ家的な寿司店がある。

お品書きはなく、大将のおまかせ握りを堪能できる「鮨 西岡」だ。

都会の喧騒を感じさせない店内は、カウンター8席と個室が1室4席。それぞれ木の温もりと清潔感に溢れる空間で、落ち着いた雰囲気がある。

しっとりとお酒を嗜みながら過ごすのは、まさに大人の「もてなし」の時間。家族や友人はもちろん、ビジネスの場面でも会話がはずみ、おだやかに気持ちが通じていく。

接待した人された人に満足してもらえる、ビジネスパーソンが「知っておいたほうがいい一軒」といえるだろうか。

大将の西岡辰己さんに、高級寿司へのこだわりと「おもてなし」の流儀を聞いた。

東京・南青山に出店 「運命の物件に巡り合えた」

ビジネスを円滑に進めるための「おもてなし」は、大人の作法の一つといってよい。

ビジネスの場面では、日頃のお付き合いの感謝のしるしだったり、よきパートナーとしての、今後のお付き合いへの期待だったり、「同じ釜の飯を食う」という仲間意識やチームワークだったり......。節度をもった接待ほど、人間関係を気持ちよく、円滑にする機会はない。

さて、「どう、おもてなししようか」――。それはお店のチョイスから始まっているし、その人の思いや考え、人柄が映し出されるのだろう。

ここ「鮨 西岡」には、「大切な方との食事は、笑顔とともに帰路につけるよう、『至誠一貫』の気持ちでもてなします」と言う、そんな「誘う人」の気持ちを汲んでくれる大将がいる。

それもあってか、美食家で知られる歌手やタレントも常連客として足を運ぶ人気店でもある。

この店の大将、西岡辰己さんは、瀬戸内海のおいしい魚が集まる愛媛県の出身。

魚介のおいしさと、それを引き出す職人技の奥行きの深さ、寿司が継承している食文化に魅せられていくのは、ごく自然なことだったようだ。

東京都内の人気寿司店で30年間、料理人として修業を積んできた。そして、独立。

南青山に「鮨 西岡」を開業した。

「いろいろな物件を見ましたが、この物件に出会った時は思い描いていた運命の物件に巡り合えたと感じました」と、西岡さんは話す。

ネタの「おいしさ」を引き出す目利き

「高級寿司」に、こだわりがある。

経験が裏付けるその目利きで、豊洲市場から毎朝、新鮮な魚介を仕入れ、寿司の定番から滅多に出合えない貴重な逸品までを味わえるよう、入念に用意するネタ(食材)の仕入れは、「産地から食材を送っていただいたり、現地に赴き、自分の目と舌で確認したりして仕入れるものと、信頼している業者にお願いしているものがあります」と、西岡さん。

豊洲市場は日本一おいしいネタが集まる場所であり、その中でも選りすぐりの魚介類や野菜を仕入れ、新潟の米にもこだわり、一つ一つ心を込めて仕込んだ食材を「五感で感じてもらいたい」と言う。

だから、その時期に最もおいしいネタを準備する。

たとえば真冬の豊洲市場に、その日届いた新鮮なまぐろを厳選。国産の上質なネタは、その美しさが目に飛び込み、口の中に入れれば、濃厚でとろけるような食感が広がる。

それぞれのネタのもつ旨みを余すことなく堪能できるよう、仕入れの状況によって寿司ネタが日々変わる。この店に「お品書き」がないのは、そのためなのだ。

「もてなし」の流儀

そんな高級寿司でもてなす「鮨 西岡」は、ビジネスパーソンにとって接待に向いているといえそうだ。

「お客様に心地よく過ごしていただくために、しっかりと事前準備をし、笑顔でお帰りいただけるよう誠心誠意、努力する。
これに尽きます」

西岡さんには「もてなし」の流儀がある。

店内の「空気」に気を配りながら、黙々と手を動かす。口数が少ないのは職人気質なのだろうが、お客様の会話を邪魔しない、心配りでもあるのだろう。「『五感で味わう』おもてなしに徹し、笑顔とともに帰路につけるよう、『至誠一貫』の精神を表現したい」と語る。

「至誠一貫」とは、相手の立場にたって、まごころを尽くすという精神をいう。常にゲストの立場で考え、時を忘れるほどの絶品の味と、非日常の空間で極上の幸せな時間を過ごしてもらえるよう、心を込める。

「接待のお客様だけでなく、ご家族で楽しいお時間を過ごしていただけるお店でありたいと思っています。これからも至誠一貫の気持ちを大切にし、毎回お客様に感動していただけるよう努力したいと思います。
寿司は日本の誇りだと思っていますので、この素晴らしい食文化を後世に受け継いでいきたいですし、その力になっていきたい」

これは「人を思う」西岡さんの、「接待」への心意気でもある。

【プロフィール】
西岡 辰己(にしおか・たつみ)

1965年、愛媛県生まれ。学校を卒業後に料理人となり、地元で修業を開始する。和食や寿司を中心としてその腕を磨き、26歳で上京。東京都内の人気寿司店で30年間にわたり美食を追求する。
2021年11月に独立し、南青山に「鮨 西岡」をオープン。