「これまで多くのアーティストと仕事をしてきましたが、TOKIOの長瀬智也とKinKi Kidsの堂本光一の実力には、驚かされました」
そう語るのは編曲家の船山基紀さん(68)だ。中島みゆき(67)の『時代』や沢田研二(71)の『勝手にしやがれ』、五輪真弓(61)の『恋人よ』やC-C-Bの『Romanticが止まらない』、Winkの『淋しい熱帯魚』など、時代を彩ってきた多くの曲のアレンジを行い、堂本光一(40)主演の舞台『Endless SHOCK』などの舞台音楽も手掛けてきた船山さん。
そんな船山さんは、『Endless SHOCK』で製作総指揮を執る堂本光一と、一緒に楽曲を作り上げる過程で、その才能に触れてきた。一方、長瀬智也(40)にもTOKIOの楽曲の編曲を通じて、才能に驚かされてきたという。
船山さんはTOKIOの『AMBITIOUS JAPAN!』や『宙船』などの編曲を手掛けている。’03年の『AMBITIOUS JAPAN!』はなかにし礼さん(81)作詞で、筒美京平さん(79)作曲。JR東海とのタイアップ曲で、ヒットが至上命題とされていた。レコーディングはなかにしさんと筒美さんが見守る中で行われた。
「メンバーたちからは緊張感がありありと伝わってきました。でも、TOKIOはさすがですね。満足できるレコーディングになりました」
結果、曲は大ヒット。今もJR東海を象徴する曲として、多くの人に愛されている。
「TOKIOの曲を中島みゆきがやるというので驚いて。どうなるんだろうと思っていた。 みゆきからは『あまり私のイメージじゃなくて、TOKIOのイメージでやってほしいんです』、というリクエストがありました」
いったいどういう編曲にしようか、と考えていたら……。
「長瀬くんが自分でデモテープを作って持って来た。自分でギターを弾いて、(コンピューターの)打ち込みでドラムを入れ、歌も歌って。ちゃんと、TOKIOの色になっていた。“おお、そっか!”と思って。衝撃的でしたね。こんなことまでできるんだと。それまでも、TOKIOの曲をアレンジしていたので、だいたいのことはわかっているとは思っていたんだけど、裏切られましたね。
「このまま発表しても何の問題ないくらいの完成度だと思った」と船山さんは笑うが、レコード会社や事務所の意向もあって、より派手な曲になるようにアレンジを施した。
「といっても、長瀬くんが作ってきたものを元にして、僕はそれをいろいろと膨らませる作業をしただけだよ」
レコーディングは、ほとんど長瀬に任せきりの状況だった。
「僕は寝ていたようなもん(笑)。この編曲なら、声を張って歌ったほうがいいとか、勘がすごい。単純な8ビートでも、重いとか軽いとか、ドラムで立たせたい音のポイントとか、強いこだわりを持っている。長瀬智也は生粋のバンド小僧なんです」
その後も、中島みゆき提供の『本日、未熟者』や長渕剛(63)提供の『青春 SEISYuN』などのTOKIOの曲の編曲を船山さんは担当したが、いずれも長瀬が楽曲のイメージの指針となるデモテープを作った。
「長瀬くんからは、自分の作品を作っていきたいという強い思いを感じていました。彼自身も、当時から曲を常に作り続けていたみたいです。もう好きでしょうがないわけ。本人も『ものすごい量の曲のストックがあるんです』とか言っていたなあ」
その言葉を証明するかのように、長瀬は「製作者」としての才能を発揮していく。かつてTOKIOのシングル曲は、プロの作詞家、作曲家によるものや、アーティストの提供のものが多かった。しかし、近年のシングル曲はすべて、長瀬の作詞・作曲によるものだ。
「長瀬くんはいちばん年下じゃない? だけど、すごくTOKIOの方向性にすごく影響力が強いんだと思う。長瀬がやるから、他のメンバーたちもものすごく勉強する。TOKIOのこだわりは、ライブハウスを経てデビューしたバンドと変わらない」
しかし、現在、TOKIOは音楽活動を休止中。’17年、長瀬作詞作曲のシングル『クモ』を最期に楽曲の発表はされていない。
「あれほどの才能を発揮できないのは、本当に悲しいことだよ」
日本を代表する編曲家が惜しむ長瀬の才能。いつの日かまた、TOKIOの新曲を聴くことができる日がくることを、ファンのみならず、多くの人が待ち望んでいる。
(取材:岡野誠)