あの社会現象にもなったドラマ「逃げるは恥だが役に立つ(TBS系)」が4年の歳月を経て、新春スペシャルドラマになって帰ってきました。
多くの社会問題をドラマの中で取り上げ、新しさと共感を生んでからはや4年。
※本記事はネタバレをかなり含んでおります。ドラマ未視聴の方はご注意ください。
■開始1分から放たれる社会問題の連続砲!
本ドラマは、みくりが働く会社での同僚との雑談シーンから始まります。が、そのトークテーマがいきなり「妊娠順番ルール」についてで驚き!
※妊娠順番ルールとは、女性が多い職場で起きているというマタハラ問題の一種です。「妊娠及び産休育休は先輩社員から」といった暗黙のルールが職場に存在し、それを破ったものは会社から苦言を呈されたり、肩身の狭い思いをしたりするという社会問題です。
「いきなりぶっ込んで来るな!」とテレビの前でたじろいだものの、開始30分ほどで出るわ出るわ社会問題の数々。
夫婦別姓制度、男性の育児は「手伝う」で良いのか問題、女性の劣化発言にレズビアン告白などなど。4年前は11話編成ということもあり、こんな短時間で複数の社会問題にスポットが当たる作りになっていませんでした。筆者はスピード感に圧倒され、「このドラマ、いったいどう着地させるんだ!?」と不安にすらなりました。
しかし、そんな不安感は物語が進むにつれ、だんだんと薄れていきます。
■前半の大テーマは特に「男性の生きづらさ」なのではないか
本作前半ではみくりが妊娠し、事実婚から法律婚に切り替えた2人の親になっていく姿が描かれています。そのとき、個人的にすごく感じたものがありました。それは、このドラマのテーマの1つが「男性の生きづらさ」なのではないかという点です。
本作ではさまざまな社会問題が提議され、観る人の立場によって共感や学びに差がある作品です。そんななかでも平匡さんを介して表現される男性像の当たり前とそれによる苦痛、そしてアップデートがおこなわれていたように感じました。
たとえば本作序盤では妊娠順番ルールについて触れていますが、途中から男性の育休問題について大きく扱われています。またみくりが妊娠中、つわりやホルモンバランスの変化によって体調不良や情緒不安定になるシーンもリアルに描かれていますが、それと同じくらい平匡さん側の頑張りきれないもどかしさや限界感も描かれている。
生まれた後は「大黒柱である男性が家庭を支える」という古い時代にあった当たり前の価値観について、真正面から疑問が呈されるシーンもありました。
ドラマのテーマとして見たとき、ここまで男性性の問題を真正面から取り上げたものは、実は今まであまりなかったように思います。
4年前は専業主婦の労働問題や女性が抱える「呪い」についてなど、女性の生きづらさについてスポットが当たることが多かった印象の本ドラマ。4年の歳月を経て「本当の意味での平等」のために、男性側にスポットを当てているように私には見えました。
■現実のコロナとリンクさせた作りは、リアルとの一体感を生む
後半に入ると今度は育児に奮闘しつつも、新型コロナウイルスが社会を、そして2人を襲います。ここからは社会問題というよりも、現実の問題とリンクさせて夫婦の葛藤を一気に見せていきます。
みくりと平匡さんの取った選択が正解かどうかはそれぞれの価値観だと思いますが、ドラマにおいてリアルな時事問題を時間軸どおり取り上げる手法は、かなり新しい。
そして新しさの中に「きっと良くなる」といった前向きなメッセージを込めるあたり、新春スペシャルドラマの明るさもあり、最後はSNSなどでも涙を流しながら見た人も多かったようです。
序盤の濃度は老若男女が価値観のアップデートとして視聴したほうがいいし、後半は人によってはまだ見れない辛さもあるかもしれません。今ある問題をリアルさとドラマチックさで表現した本作。あなたはどの問題、どのシーンが1番心に刺さったでしょうか。
現在、現実世界では新型コロナウイルスが今も猛威を振るっています。その点だけは、ドラマを楽観的に見られない部分ではあります。2021年もみくりと平匡さんが向き合ったように、私たちも苦しさの中からも絆を感じながら前に進めればと思います。
(文:おおしまりえ)