「まだ子供。かわいい~」。

手にのせたタランチュラを愛おしそうに見つめる篠原かをりさん(26)。飼育した虫や生き物は家族同然だ。

『世界ふしぎ発見!』(TBS系)でミステリーハンターを務め、国内外の秘境を、生き物との出合いを求めてフィールドワーク。コスタリカでは生きたシロアリの幼虫を食し、希少なプラチナコガネを発見したときは“いろいろあった人生だけど、OKだった”と落涙。こうした独特の感性で生きものを捉え、『恋する昆虫図鑑』(文藝春秋)や『ネズミのおしえ』(徳間書店)など数々の本を出版している。かをりさんは生まれてこのかた、数千、数万種類にのぼる生きものを愛してきたのだ。

一方、人間には苦手意識や劣等感があったという。

かをりさんは、横浜の元町・中華街で幼少期を過ごした。友達と遊ぶよりも、ダンゴムシと戯れるほうが至福の時間だった。

「見た目が面白くて集めていたんですが、とくに模様付きのダンゴムシが好きで。そのうち、ダンゴムシの足側を見ると、模様付きのほうが卵や幼虫を持っている確率が高いと気づくんですね。それで模様付きがメスだと知ったんです」

根っからの研究者気質だったのだろう、単にかわいい、面白いだけで終わらず、疑問を持ち、答えを求めた。

しかし、こうした興味は虫や生きものに対してのみ。だから地元ではお嬢さまが通う高校までの一貫校に小学校から入学したが、教育方針からはみ出してしまうし、友達もできない。

日常的なルールを守れず、絵の具の蓋を開けても、閉め忘れてしまうことも多くあった。

「絵の具が乾いて使いものにならず、無事なのは緑色だけになってしまったことがありました。それで緑一色で、濃淡をつけながらウサギの絵を描いてたら、先生が“この子はおかしいに違いない”と思ったのでしょう。親が呼び出され『専門家の、適切な診察を受けたほうがいい』と言われました」

たしかに教師にとっても、変わった子に映ったはずだ。

「本当にヒトと関わることに興味がなかったので、図工の時間で『友達の絵を描きましょう』と言われたとき、友達がいなくて焦りました。勝手に私が友達と思っている子の絵を描いたら、その子が嫌な気分になるだろうって気を使って、けっきょく田んぼのザリガニを描いて提出したんです。

周囲の友達は、私がそういう子だって理解していたから、とくに排斥されることもなかったです。でも、大人から見ると“学校のルールを守れない子”だから、たぶん友達の親は、娘を私と遊ばせたくなかっただろうし、先生もしょっちゅう怒っていました」

ただ、怒られるのを恐れて後悔したことがある。小3の林間学校に行ったとき。集合時間に整列していると、タマムシが木の根元にいるのを偶然にも見つけてしまったのだ。

「タマムシは上空の高いところを飛んでいるので、手の届く範囲にいるなんてありえないんです。人生で初めてのことだったし、捕りに行きたかったんですが、整列しないと怒られるから、あきらめてしまったんです。

でも、それを20年近くたった今も後悔しています。怒られるのは一瞬だけど、自分の好きなものをあきらめたら、何年もひきずってしまう。小さな虫から教わる人生訓っていっぱいあるんです」

小4のある日、注意されることの積み重ねで“これ以上、否定されたら無理だ”という防御本能が働き、1年間、不登校となった。明るく、いつもかをりさんを支えてくれる父親も、当初は「学校に行くべき」と、無理に連れて行こうとしたが、かをりさんが校門の前で吐いてしまった。

両親は不登校でも気長に見守ることにして、母親は平日の昼間からかをりさんを遊園地に連れ出したりもした。

学校では理解されなくても、家族は味方でいてくれたことが、支えになった。高校に進学しても、学校は苦手で100日くらい欠席。だが、母は「100日分、ほかのママよりも、かをりと一緒にいられるんだよね」と包み込んでくれたのだった。

そんな両親に支えられ、大人になったかをりさん。人と違うことに劣等感を抱いたこともあったが、テレビ出演や本の出版に際し、温かい言葉をもらって意識が変わったという。

「メディアに出ると“きっと嫌なことを言われるに違いない”と身構えていたんです。

ところが『生きもの愛にあふれている』『好きだという気持ちがすごく伝わった』と応援のメッセージが多かった」

ずっと不正解とされ、大多数の正解者にはなれなかったが、新たな世界を広げたことで自分のことを認めてくれるヒトもいたのだ。ジャングルでの体当たりのレポートを、視聴者は好意的に受け止め、劣等感を抱いていたかをりさんに自信を与えた。

「生物は、同じ遺伝子ばかりだと不測の事態のときに弱い。少し別の遺伝子を持った個体がいることで、種は守られます。だから私のような異物が入って多様性があったほうが、種の繁栄につながるのかもしれません」

そう語るかをりさんは、決して自嘲気味ではない。これからも、自分の「好き」を信じて羽ばたいてく――。

「女性自身」2021年6月1日号 掲載