新型コロナを「2類相当」から「5類」に引き下げることが検討されている。自由が増えるならいいじゃない! と、思うけど、さまざまな懸念があってーー。
「第6波の主流だったオミクロン株(BA.1)より、18%以上も感染力が強いステルスオミクロン株(BA.2)への置き換わりが急速に進んでいます。さらに4月11日には、感染スピードがBA.2より約12%早いといわれるXE系統の感染者が、国内で初確認されたと発表されました。そんななか、岸田首相が新型コロナを『2類相当』から『5類』に見直す決断をしたと『ダイヤモンド・オンライン』が報じました。さまざまな規制を取り外し、経済を動かすほうに舵を切るということです」(医療ジャーナリスト)
新型コロナは「新型インフルエンザ等感染症」に分類されている。感染症法上では、結核やSARSなどが該当する2類に相当する扱いとなっている。
現在、医療費の公費負担や入院勧告、外出自粛要請などの措置が行われているが、季節性インフルエンザに該当する5類に引き下げられると、こうした規制は全てなくなることに。
厚労省関係者が打ち明ける。
「たしかに、最近になって官邸から『5類へ』という声が聞こえてくるようになりました。岸田内閣の支持率は安定していますし、夏には参院選を控えているので、コロナの感染者や濃厚接触者への行動規制を緩めて、経済を動かす道筋をしめし、財界や国民の人気につなげたいのでしょう」
参院選直前で、政府が長期的な対応を示すことにもなっている6月ごろには引き下げが実行されるのではないかとみられている。
「総理は医学的な理由というより、目先の支持率を優先して“引き下げ”の是非を判断していて、長期的な視点に欠けているように思います。規制を緩めることで起こる悪影響は考慮していないのではないでしょうか」(厚労省関係者)
■待合室でコロナ患者と基礎疾患を持つ人が
『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)の著書もある、医師の木村知さんはこんな危惧をしている。
「5類になれば、指定された医療機関だけではなく、一般のクリニックでも、コロナ患者を診察することになります。
感染力の強さばかりでなく、症状においても、まだまだ“普通の風邪”とはいえない。
「基礎疾患がない人でも入院することもある。熱が長引いたり、頭痛やめまいで1カ月出勤できないなど、風邪にはみられない後遺症にも遭遇します」(木村さん)
新型コロナの感染者の脳を調べたところ、対象者の脳が0.2~2%萎縮していたという、イギリスのオックスフォード大学の報告も。
最前線で新型コロナの患者の治療にあたってきた、埼玉県の「ふじみの救急病院」院長の鹿野晃さんはこう語る。
「それも記憶や人間らしさをつかさどる前頭葉や側頭葉にみられました。嗅覚や味覚異常も関連しているのかもしれません。オミクロン株に感染した小さな子ども(1~4歳)に関しては、10人に1人の割合で熱性けいれんを起こすというデータもあります。脳にダメージを与えたり、窒息死するリスクがあるので、“ただの風邪”と甘く見るのは危険です」
そうした恐れもあるため、感染動向を追うことは重要だが……。
東北大学災害科学国際研究所の医師・児玉栄一さんは次のように語る。
「5類となれば、保健所が追跡をしなくなり、感染状況に関してもつかみづらくなります。
一方、5類引き下げのメリットとして、医療崩壊を防ぐ効果があるといわれるが、そう単純な話ではないと、木村さんはみている。
「2類相当だと、軽症であっても入院勧告されるため、軽症者でベッドが埋まり、重症患者を受け入れられなくなるとの指摘があります。しかし、実際すでに軽症者は自宅療養が基本とされています。感染者の増加にともなう重症者の増加が病床をひっ迫させるので、5類にしても、病床を増やし、何より感染者を減らさなければ、医療崩壊のリスクはあるのです」
現状の2類相当でも、少しずつ規制を緩和することで、経済活動を促すことにも対応できるという。
「実際に、感染者の自宅待機日数は14日間から10日間に短縮されました。軽症者が多いオミクロン株は、さらに短縮することも可能だと思います」(児玉さん)
“政治事情”での早急な5類引き下げだけはやめてほしい。