今月下旬から、ノババックス社製の新型コロナワクチンの選択が可能に。これまでのワクチンとは仕組みが異なり、副反応の頻度や保管方法など、複数のメリットがあるというーー。

「4月19日、厚生労働省がノババックス社製の新型コロナウイルスワクチンを承認し、5月下旬から国内で使用される見込みです。これまでのワクチンに漠然とした不安があって接種をしていない人や、1、2回目接種後の副反応が強く、3回目をためらっている人たちの新たな選択肢になりえます。接種率の向上にもつながるのではないでしょうか」

期待を込めてそう語るのは、日本ワクチン学会や日本ウイルス学会などの理事も務める、長崎大学医学部病院小児科医の森内浩幸さんだ。

新型コロナの新規感染者数は減少傾向にあるものの、行動制限のない大型連休明けの感染再拡大を懸念する声もある。しかし、ワクチンの3回目接種率は50%台と伸び悩んでいる。

ノババックス社製のワクチンが切り札になりうるのはどのような点においてなのか。安全性や効果について専門家に聞いた。

【接種対象】

「18歳以上の人を対象に、接種後3週間の期間を空けて2回接種するのが基本。すでにほかの種類のワクチンを2回接種した人の追加接種でも使用されます」(森内さん)

【ワクチンの仕組み】

「ファイザー、モデルナのワクチンはメッセンジャーRNA(mRNA)というタイプで、ウイルスの突起部分であるスパイクタンパクの“設計図”を体内に入れ、体内でスパイクタンパクを作るもの。アストラゼネカが開発したウイルスベクターワクチンは、プール熱やはやり目などの原因となるアデノウイルスを無毒化して、その一部にスパイクタンパク遺伝子を組み込み、mRNA同様に体内でスパイクタンパクを作らせます。一方、ノババックス製は『遺伝子組み換えタンパクワクチン』といわれ、昆虫の細胞を使ってスパイクタンパク質を人工的に作り、それを注射によって体内に直接入れるものです。遺伝子組み換えタンパクワクチンは、子どもが3回接種するB型肝炎ワクチンなどにも取り入れられている仕組みであり、mRNAのような新しいワクチンに比べ、安心感を得られる人は多いでしょう」(森内さん)

【予防効果】

2回接種後の発症予防効果は約90%、重症予防効果は100%と報告されている。

埼玉医科大学元准教授の松井政則さんが次のように解説する。

「ファイザーとモデルナの発症予防効果は約95%と驚異的ですが、ノババックスのワクチンも遜色ないレベルといえます。ただし、これらのデータはいずれもアルファ株、ベータ株の流行時のもの。効果はウイルスが変異を重ねるほど下がります。だからこそ、追加接種で抗体量を増やすことが大切なのです」

’21年6月に、医学雑誌『ランセット』は、約2,900人を対象にした、ファイザーとノババックスの「交互接種」に関しての研究論文を掲載している。

「《ファイザーを2回接種、3回目は未接種の層》と比較すると、《ファイザーを2回接種、3回目をノババックスに切り替えた層》は抗体量が4.91倍でした。抗体量が6.60倍となる《3回ともファイザーを接種した層》には劣るものの、一定の効果は得られるようです」(松井さん)

■ノババックスの副反応は?

【副反応】

「ノババックスの副反応は、比較的軽いものだと考えられます。接種後の発熱も10%以下。mRNAよりも頻度は低いですが、まったくない、というわけではありません」(森内さん)

ワクチンの添付書類にも副反応の発生頻度が明記されており、頭痛は1回目24.93%、2回目44.45%、倦怠感は1回目14.72%、2回目38.94%、関節痛は1回目7.68%、2回目22.22%、悪心/嘔吐は1回目6.37%、2回目11.26%。いずれも1~2日程度で改善するという。

2回目にモデルナを接種した人のうち、発熱が見られたのは78%。これらの数字は、副反応でとてもつらい思いをした、という人にとっては心強いデータだろう。

「副反応による熱や痛みは、強い順からモデルナ、ファイザー、ノババックスといったところでしょうか。ただし、接種者が増えれば新たな副反応もわかるかもしれないので、注視する必要があります」(森内さん)

■国内で製造できるため安定供給にも期待が

【供給面】

ノババックス社製ワクチンは当面、1億5,000万回分を製造すると発表されている。東北大学災害科学国際研究所の医師・児玉栄一さんによれば、供給面においても次のようなメリットがあるという。

「mRNAワクチンはディープフリーザーで凍結し、解凍後すぐに使い切る必要がありました。しかし、ノババックスのワクチンは冷蔵庫で9カ月ほど保存できるため、非常に扱いやすい。また、国内工場で製造できるので、安定供給も期待できます」

【留意点】

ワクチンによって促される免疫は2つに大別できる。1つは、体内に侵入したウイルスを攻撃し、感染を予防する液性免疫。もう1つは、攻撃をすり抜け、細胞に感染してしまった場合、その細胞を壊し、重症化を防ぐ細胞性免疫だ。

「この2段階の攻撃態勢を強化し、整えてくれるのがmRNAワクチン。組み換えタンパクワクチンは液性免疫がメーンで、細胞性免疫を強化する力が少ない傾向があります。とはいえ、1、2回目にモデルナやファイザーで細胞性免疫を獲得しているのであれば、3回目の接種はノババックスという交互接種を選択することも一案です」(児玉さん)

3年ぶりに行動制限のないなかで大型連休を迎えた今の状況を維持していくためにも、ワクチン接種を改めて検討する余地はあるかもしれないーー。

編集部おすすめ