「大谷翔平選手が兜をかぶったところを、中継で見ていました。もう“待ってました!”という感じで。

涙が出そうになりました! ものすごく似合っていましたので」

弾んだ声で本誌の電話取材に応じてくれたのは、横浜市の小売店「サムライストア」の桐田敏彦社長。大谷翔平選手(28)の所属するエンゼルスで本塁打を放ったチームメートを祝う新儀式で使われている兜(かぶと)が話題になっているが、その兜を提供したのが同社だ。

大谷は、9日(日本時間10日)、本拠地でのブルージェイズ戦で本塁打を放ち、初めて「兜セレブレーション」で祝福された。

MLB Japanの公式インスタグラムでも、大谷の初兜姿を投稿。この投稿には《楽しそう!》《兜姿戦国武将のようで最高に似合っててかっこいい》《五月人形みたい》《大谷選手が可愛い過ぎて男の子の節句のあれに見えるのよ》《負けて残念だったけど、大谷くんの兜姿が見れてよかった》、海外のファンからも《SAMURAI!!!》などの声が寄せられている。

前出の「サムライストア」桐田社長によると、

「そもそも日本人の顔の大きさで作っているもので、アメリカ人の場合はたぶん日本人よりも顔が細長いんです。アメリカ人が被ると(兜の)鉢がちょっと大きめに見えますが、大谷選手がかぶったときにはちょうどよく、深すぎずという感じですごく収まっていたので、とてもかっこよく見えていたと思います。

あの兜は『黒塗十八間星兜(くろぬりじゅうはっけんほしかぶと)』といいます。18枚の鉄板を張り合わせ、星の形をした鋲で固定して作り、製作期間は1カ月から2カ月かかります。戦国時代に広く使われていた兜で当時の製法、素材を使ったものです。重さは約2キロくらいです」

野球は基本、敵味方9人対9人で戦う18人のゲーム。18枚の鉄板を張り合わせているというのも奇遇である。

■依頼があったのは開幕戦の3日前!奇跡が重なって…

「今回は、ホームの開幕戦で使いたいということで、その開幕戦の3日前に連絡いただいたんです。そのため新たに制作されたものではなくて、たまたま1つだけあった用意できるものをお送りしました。発送も普段は向こうの通関で引っかかったりして、数日かかってしまうことが多いんですけれども、今回は通関もまったく問題なく通過して。本当に奇跡的に、開幕戦に間に合ったというものなんですよ。運命的なものを感じます。“持っている”と思います、エンゼルス。今年は優勝するんじゃないでしょうか」

そう嬉しそうに笑う桐田社長。

「連絡があったのが日本時間の4月4日の夜。通訳の水原一平さんから連絡を頂きまして、製造元の丸武産業さんに話して、『今はこの1つが用意できる』ということだったので、一平さんに写真などをメールで送りました。ただしばらく返事が返ってこなかったんですけど、翌日の昼頃に『じゃあ、それを可能であればすぐに送ってください』ということでお返事を頂きまして、それでその日のうちに発送してるんですよ。4月5日の夕方ですね、東京から発送させていただいています」

最初に水原さんから電話をもらった時に、他の電話に対応していて電話に出られなかったという桐田社長。

「こちらからかけ直そうかと言っているときに、英語で水原さんからメールが来まして、『エンゼルスで働いている水原と申します。

今シーズンのホームランを打った時のパフォーマンスとして、昨年はカウボーイハットだったんですけど、今シーズンは侍の兜を採用することをチームとして決定しました』とまず書かれていて、『それをなんとしてもホームの開幕戦に、4月7日にどうしても使いたいので用意できますか?』という感じのメールが最初ですね。

弊社は外国人のお客様も多いので英語と日本語のサイトが両方ありまして、おそらく英語のサイトを見てくださって、メールをくださったと思います。最初は本人だとは思ってなくて、いたずらかと思ってたんです(笑)。ちょっと信じられなかったですね、最初は。半信半疑ではあったんですけど、その後のメールのやり取りをさせて頂いて、それで本人だったのでよかったんですけど(笑)」

今回使われた兜の価格は、およそ33万円。エンゼルスで使われた効果で、問い合わせは増えたという。

「もともと1日何個も出るようなものではないので、注文が1日1つだったのが2つになったとかそういう感じではあるんですが、問い合わせは増えました。あと、もともとのお客様がけっこういて海外の方も多いんですけれど、そういう方から、『自分が持っている兜も良いんだけれども、大谷選手がかぶった兜もほしくなった』『大谷選手の兜はかっこよく見えた。どう違うんですか? 大谷選手の兜がいい』といった、問い合わせが増えています。こんなに反響があるというのも創業以来初めてですね。水原さんから、開幕戦が終わった後に『みんな大喜びしています』とメールを頂きました。今回は兜だけでしたが、本当は鎧もすべて着てほしいですね(笑)」

大谷選手の甲冑(鎧兜)姿を見たいものだ。

■大谷効果は抜群!製造元には注文が殺到

製造元の甲冑工房丸武産業(本社:鹿児島県薩摩川内市)の田ノ上智隆社長もこう語る。

「びっくりしました。まさか本当に使われるとは思ってもいなかったので、実際、今回使われたことにすごく感動しました。“実際に使用されますよ”ということを知ったのは7日の試合が始まる5分くらい前。『えっ、使われるの?』とテレビを拝見させていただいたんです。『本当に兜が登場した…!』と驚くとともに、とても嬉しかったです。多くの人に日本の兜を見ていただく機会となったので、少しでも日本の鎧兜やその文化に興味を持っていただけたら幸いです。今後のホームラン&勝利の瞬間も楽しみにしています」

在庫について聞いてみると、

「もともと、受注生産品のため在庫はありませんでした。通常でしたら1カ月ほどで製作可能だったのですが、現在は注文が殺到しておりまして、節句前の製作シーズンとも重なり、お届けは早くて10月以降になりそうです」

とのこと。大谷選手がホームランを量産し、兜人気が高まれば、手に入れられるのはもっと先になりそうだ。

大谷選手にとってエンゼルスとの契約が切れる最後のシーズン。チームが大谷選手のさらなる活躍を願って、日本の兜を選んだのだろうか。

それに応える用意はできているようだ。

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