【前編】子だくさん11人家族ーー。山本家が日本を救う!から続く

「大家族だからって、節約は特に意識しませんね」

中古住宅をリフォームした持ち家に住み、電気代は月3万6千円、容量12kgの洗濯機を1日3回……。

福井県在住・山本彩子(さいこ)さん一家は、不景気の令和の今日も楽しく過ごしている。

長女・陽華(はるか)さん(17)、次女・ちひろさん(15)、長男・理一(りいち)くん(13)、次男・勇心(ゆうしん)くん(11)、三男・圭悟(けいご)くん(9)、四男・大地(だいち)くん(7)、五男・樹生(いつき)くん(5)、六男・朝陽(あさひ)くん(3)、七男・歓太(かんた)くん(1)と、7男2女の子どもたちに夫の達也さん(39)と、大家族11人の日常はにぎやかだ。

彩子さんは’84年、島根県で、団体職員をしている両親のもとに、5人きょうだいの次女として生まれた。

「兄、姉、私、弟、妹の5人です。きょうだい仲がよくて。幼いころは兄、姉に憧れ、少し大きくなってからは弟、妹の面倒を見る、そんなふうにして育ちました」

中学を卒業後、実家を出て奈良県の私立高校に進学し、寮生活を送った。次いで進んだ専門学校で、敦賀出身の達也さんと出会った。

「交際を始めて、部屋に遊びに行ったときに、彼の家族のビデオを見せてもらったんです」

5人きょうだいだった彩子さんに対して、達也さんのきょうだいはなんと11人。実家はテレビの大家族企画で、特集されたことがあったのだ。

「その番組に映っていた彼の家族が、すっごい楽しそうで。『いいな、羨ましいな~』って思ったんです」

番組では“大家族の母”として達也さんの母が登場。彼女の言葉が、彩子さんの胸に響いた。

「義母は番組の中で『お金よりも、もっと大切なものがあるのよ』と強調していました。それは私の両親の教えとも共通していて。義母の言葉を聞いて私、『この家に入りたい、家族に加えてもらいたい』って思ったんです」

そのすぐ後の、’05年1月。成人式直後の彩子さんの体に異変が生じていた。赤ちゃんができたのだ。

「彼と一緒に産婦人科を受診して。先生から『おめでたです』って教えられて。幼いときから、夢でしたから。『私、お母さんになれるんだ!』って、うれしかったですね」

いっぽう、達也さんはというと、「彼は親になる責任の重さに、ちょっとパニクってました(苦笑)」

それでも覚悟を決め、それぞれの親に会って結婚の許しを得ると、2人して専門学校を中退。同年3月に結婚した。このとき達也さんは21歳、彩子さんは20歳だった。

「若くて無知でしたから、その後の生活の大変さとか、何もわかっていませんでしたね」

達也さんが管理人の仕事などに就き生計を立て、2人は出会った奈良で家庭を築いた。

その年の9月には長女・陽華さんが生まれ、そこから2年ごとに、第二子(次女)、第三子(長男)、第四子(次男)と、おめでたが続いた。

「子どもは最低でも5人は欲しかったんです。自分が育った5人きょうだいという環境を私、本当に気に入っていて。

きょうだいが大勢いれば、困ったことが起きても助け合えるし、なにより幼いころ、私自身が毎日、楽しかったから」

■3人目、4人目までは新米ママって感じでしたけど、そこから先は何人増えても一緒(笑)

経済的理由で、子を持つことを断念する夫婦も少なくない。子宝に恵まれ続けるなかで、彩子さんたちに不安はなかったのか。

「お金のことは考えませんでしたね。それは、いまもなんですけど。考えないっていうか、贅沢や無駄遣いをせずに、少しずつでも貯金する、それだけです」

やがて第五子(三男)を授かり、そして第六子(四男)が生まれて、彩子さんたち家族は、夫の故郷・敦賀にUターン。

「夫の母が子だくさんじゃないですか。その義母から『産むんやったら私が元気で、手伝ってあげられるうちに』と言ってもらって。実際、出産で家を空けるときなど、私たちになにかあればすぐ義母が飛んできてくれた。それはとっても心強かったです」

とはいえ「さすがにもう6人でおしまい」と考え、彩子さんは生まれて初めて社会に出ることに。

パート勤めを始めたのだ。

「夫とも『これからは人生第二幕ね』なんて話していたんですが……」

さらに、山本家には7、8、9人目と、新しい命が次々と。

「仕事も始めていたし、そこまで欲しいとは考えてなかったんですけど(苦笑)。でも、もちろん、できたら『うれしいな』って、いつも思ってました。それに3人目、4人目までは私も新米ママって感じでしたけど、そこから先は、何人増えても、もう一緒やなって(笑)」

■6年前の家族旅行は子ども2人目以降は無料のプランを見つけ、家族全員で旅費3万円

彩子さんは毎日、朝4時半に起床し、深夜0時に床に就くまで、休みなく動き続ける。

「いま、パートは育休中ですけど、それでも同じ4時半起きです。私、バタバタするのが苦手なんです。『だったら、早く起きればバタバタせんくない?』って感じで。家族が起きてくる前に、化粧も済ませて、朝ごはんの準備もして。ここが唯一の自分の時間かな、と思ってます」

6時になると、夫と子どもたちを起こし、朝ごはんを食べさせる。そして、7時過ぎには夫と、就学している子どもたちを送り出す。

「それで、9時前に保育園に五男と六男を送っていって。

その帰りにスーパーで買い物を済ませます。だいたい10時過ぎから、末っ子の歓大が昼寝するので、その間に学校や保育園に出す書類を書いたりして。お昼を済ませたあとは、洗濯物を畳んだり。そうこうしていると、あっという間に小学生たちが帰ってくる時間に」

ちなみに洗濯は、容量12kgの洗濯機を1日最低3回は回すという。

「帰宅した小学生の宿題を見てあげたりしながら、夕方4時半には保育園にお迎えに。帰宅後は晩ごはんの支度をして。食べるのはだいたい6時ぐらいからですね」

お風呂には、大きい子と小さい子のペアで入ってもらうなど、乳幼児を抱える彩子さんにとって欠かせないのが、上の子たちのサポートだ。ただ、長女の陽華さんが他県の高校に進学し、現在は寮生活を送っているため、山本家はお手伝いの重要な“戦力”を2年前から失うことに。彩子さんは言う。

「そこで、お手伝いをポイント制にして、お小遣いをあげることにしたんです。お風呂掃除は50円、そのほか、布団を敷いたり、掃除機をかけたりといったお手伝いはすべて10円。ここでがぜん、奮起したのが、長男と次男でした(笑)」

ここまで聞くと、家の中のことに関して夫・達也さんの影が薄いように感じなくもないが。

「そんなことないです。『俺もやるよ』って姿勢を最初から見せてくれてました。ただ、義母が『ザ・昭和の女性』でしたから。オムツを替えたり、おんぶひもで赤ちゃん背負ったりというのを『男の人にさせるもんじゃない』という人で。だから、私のほうから彼には『しないで』って頼んでました。

でも、それも敦賀に来て五男が生まれたころには、本当に私だけじゃ手が回らなくなって。必然的に、夫も参加してくれるようになりました」

夫婦が先述していたとおり、経済面の不安も、山本家の家族計画に、さしたる影を落としていない。

「私の周りにも『うち、お金ないねん』とこぼしとる人、おります。でも、私からは十分お金持ちに見えるんです。子どもにお小遣いいっぱいあげて、旅行も行くし、外食も。そうやって使ってしまっとるからお金ないんだろうなと。うちはその点、ぜんぜん使ってないけど、お金もない(笑)」

ちなみに、山本家初の家族旅行は、6年ほど前に行った温泉。

「『子ども、2人目以降は無料』という格安プランを見つけて。当時、まだ子どもは6人だけでしたけど、家族8人で旅費は3万円でした」

彩子さんは昨年から、インスタグラムで発信し始めた。「さぃ」というハンドルネームで、大家族の暮らしぶりや、多忙を極める家事の様子、さらに子育てに対する信条などをつづった記事をアップし、主婦層を中心に、フォロワーたちから多くの共感を呼んでいる。

「インスタグラムを始めた理由は2つあって。1つは夫の弟の奥さん、義妹が『子ども9人も育てていて、彩子さんがやってることは、すごいことですよ』って言ってくれたことなんです」

本人が先に述べたように「バタバタするのが苦手」な彩子さん。子どもが9人もいれば、忙しいのは当然のこと。だから、用意周到に家事をこなすよう努めている。

「だから、私にとっては、ごく当たり前と思ってやってたことなんですけど。義妹は『普通の主婦にはできんこと。少なくとも私は尊敬してますし、多くの人が関心を持つと思いますよ』って」

もう1つの理由は、彩子さんがとあるインスタグラマーをフォローしていたことだった。

「同世代のその女性は、ダイエットをテーマに発信していて。自分の体の写真を惜しげもなくアップしていた。それを私は『お子さんもおるのに、これってどうなんやろ?』って、ちょっと遠目から眺めていたんです」

その女性、長期間にわたって体作りを徹底、あるボディコンテストに出場し、結果を残したという。

「夢に向かって頑張ってる姿が輝いて見えました。それで、ふと自分を顧みたんです。彼女が努力を重ねていた数カ月、自分は何しとっただろうって。冷ややかに、ただ彼女のインスタを眺めるだけでなに一つ成長もなく、前に進めてないなって。それで、義妹に言われていたことを思い出して、私も挑戦してみることにしたんです」

こうして彩子さんはインスタグラムを開始。それは七男・歓大くんが生まれて間もない昨年2月のことだった。

最初こそ「なにをどうやって発信すればいいのか」戸惑った彩子さん。だが、やがてコツをつかむ。膨大な量の家事を手際よくこなす自分の姿や、にぎやかな育児の日常を、リズミカルな動画を主体にアップしていくと、反響はどんどん大きくなって、フォロワー数は瞬く間に4万を超えた。

「びっくりしました。少し前に、島根に帰省する際に家族全員のお弁当を作って、その様子を動画で上げたんです。数は多いですけど、お弁当の中身は手抜きというか、栄養満点って感じでもなかったから。批判のコメントいっぱいくるかなと、不安もあったんですけど」

果たして、その投稿には「手際いい、すごい」「お弁当、おいしそう」といった肯定派の意見が多数寄せられた。なかには「あなたに意見できるのは、同じ9人の子を育てた人だけ、あなたは素晴らしい母親」というコメントまで。

「本当は私、20歳で結婚して社会経験がほとんどなくて『子育てしかしてこなかった』と、どこか自信が持てなかったんです。それに、やんちゃな男の子たちが、なにか些細な問題を起こすたびに、周りの人から『子どもが多いから目が行き届かないダメな母親』と思われてるんじゃないかと心配で、ちょっと心が折れそうになったことも。だから、フォロワーさんからの『9人も育ててるなんて尊敬します』とか、『お子さんへの愛情の豊かさが、お弁当見ただけでわかる』なんて書き込みを目にしたときは、本当に心の底からうれしかった」と、彩子さんほほ笑んだ。

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