「このような賞をいただけることは、本当にうれしく、ありがたいことだと感じています。
ただ、キラキラした俳優さんや脚本家の方々が受賞されている中に、私のようないちアナウンサーがいるのは、完全に場違いといいますか……。
いつもテレビで見ている印象そのままに、“控えめ”に受賞の喜びを語るのは、テレビ朝日アナウンサーの大下容子さん(53)。
広く大衆に支持され、放送文化の振興、向上に大きく貢献した番組や人物に贈られる「橋田賞」。
今回、32回目となる同賞で、大下さんはテレビ局の女性アナウンサーとしては初めて受賞者に選ばれた。
「アナウンス部の後輩たちから、“自分たちもうれしいです”といってもらえたり、同期の坪井直樹アナ、角澤照治アナからは、“長く頑張ってきたご褒美だね”と祝福されたりして、受賞した実感がわきました」
現在、彼女は自身の名前を冠した番組『大下容子ワイド!スクランブル』を、26年も担当するなど、テレビ業界における貢献度は誰もが認めるところ。
毎年、さまざまなメディアが行っている“好きな女性アナウンサーランキング”でも、常に上位に名前が挙がる、実力と人気を兼ね備えたアナウンサーだ。
大下さんが支持される理由は、“安定感”と“安心感”のあるアナウンス力。そして、“気配りができる人”という声が多くある。
「私の役割は、自分から発信することよりも、コメンテーターの皆さんが、イキイキとお話しされる状況を作り出すことだと思っています。アナウンサーの仕事は、人から話を聞き出すことが、すごく大事だと思っているので、ゲストやコメンテーターが、“今日は自分が話したかったことが言えた”“またこの番組なら出てもいいな”と、本番終了後に思っていただけたら、うれしいです」
自分が前面に立つのではなく、共演者の引き立て役に徹する。この謙虚さと、安定感抜群の番組進行が、多くの視聴者から高く支持されるゆえんなのだろう。
一方で、毎週月~金曜まで、毎日2時間35分の生放送。そのプレッシャーはかなりあるはず。
■以前は白い灰のようになったことも……
大下さんの1日は、毎朝、夜明けごろに出社して、新聞10紙(一般紙、スポーツ紙)をチェックすることからはじまる。
その後も、番組スタッフ、出演者らと行う全体ミーティングの時間まで、その日に扱うニュースの資料確認や準備など、休憩する暇がないほど時間に追われる。
本番の数時間前から緊張状態が続くこんな毎日では、さすがに体力的、精神的にも、かなりキツいのでは?
「以前は金曜日が終わると、『あしたのジョー』ではありませんが、白い灰のようになったことも(笑)。
家に帰ったら、服も着替えずに、そのままベッドの上で夜中まで起き上がれなくなったり……。
でも不思議なもので、人間の体って、毎日2時間35分の生放送にも対応できるようになってくるんです。コロナ禍の最中は、ほとんど家と会社を往復するだけの生活でしたが、いまは、翌日早起きしなくていい金曜日の夜は、できるだけ友人と会ったり、異業種の方たちと食事をしたりする時間を作れるようになりました。
そこでいろんな人たちのお話を聞いて、自分自身の狭い視野を広げるようにしています」
つい最近も、異業種が集まる会合で、初めて気づかされたことがあったという。
「皆さんと会話をしながら、私も仕事の難しさや、自分の至らない点、“もっとこうすべきなのかもしれない”といったような話をしました。するとその中にいた女性の方から、“あなた、なんだかんだ言ってるけど、今の仕事が好きなんでしょ!”と、ズバッと指摘されたんです。
これまであまり意識したこともなかったのですが、そう言われた瞬間、“これだけ必死にやってるってことは、この仕事が好きなのかも……”と、思いました(笑)」
もちろん、体力維持のための努力も怠ってはいない。週末のウオーキングをはじめ、退社後は必ずスポーツジムで汗を流すことが、大下さんのルーティンだ。
「30代のころは、ジムで40分ぐらいガンガン走っていましたが、40代を過ぎたあたりから、体力がガクンと落ちて、10分も走れなくなりました(笑)。
ただ、仕事で疲れたときは、“今日は行きたくないな?”という日もあります。でも、そう思ってもジムには行くようにしています。
ずっとトレーニングを続けていると、小さな達成感というか、“今日も1日やり切ったぞ!”と、自分自身が安心できるんです」
■1日1回のオンエアにベストを尽くしたい
彼女はどれだけ疲れていても、番組のために自分ができること、やるべきことに手を抜かない。それは、メインキャスターとしての責任感を強く持っているからだ。
「1日1日を納得しながら、それを積み重ねていく。自分にはそういう生き方しかできないと思っているんです。“今日1日に全力を尽くす”?。その繰り返しでここまできている感じです。
だから『ワイド!スクランブル』も、いつ“ご苦労さまでした”って言われても、自分なりに毎日最善を尽くしてきたと思えれば納得できる、いつもそう思っています。
“あのとき、横着せずにやっておけばよかった”と、後悔したくない。そのために1日1回のオンエアにベストを尽くしたいです」
ひとつの番組のMCを26年も任され、「橋田賞」まで受賞した大下さん。
ちなみに、『ワイド!スクランブル』以外で、やってみたい番組は?
「もともと、人のお話を聞くことが好きな性格なので、対談番組はぜひやってみたいですね。
10年後? 想像できないです(笑)。まだ私が必要とされていたら、この仕事を続けられたらいいな~と思います」
インタビューの最後に、今回の記事タイトル“生涯アナウンサー宣言”にしませんか? と勧めてみたところ……。
「それは困ります! そんなこと考えたこともありません。私は、1日1日自分の役割を果たすことだけで精いっぱい。ただの“1日一生涯アナウンサー”ですから!(笑)」
やはりどこまでも謙虚で控えめ。大下さんが視聴者から愛される理由が、よ~くわかりました!